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38、帰還−2

マリリンは暇なので買い物にでも行こうと思いたった。

自室の衣装ダンスを開いてまたガッカリ。

サディアス公爵家では1日に3〜4回着替えていた。

最初は面倒臭い、馬鹿みたいにと思っていたが、次第に選ばれた人間だけが纏える特別な物と思える様になった。1日に何度も着替えられると言う事は財力が無ければ出来ない。安っぽい物を無理して着ていれば『無理しちゃって、背伸びしちゃって』と陰口を叩かれる。

つまりちゃんとしたTPOに合わせた物を常に揃えられると言うだけで財力と教養と品格と身分を保証されるのだ。だけど、ただの男爵令嬢がいくらお金を持っていてもあまりにも高級品を身につけていると分不相応と馬鹿にされる。でもマリリンは『金色の聖女』だからそれが許されるのだ。着ているものを見て商人たちは取り入るべき人間だと判断できる。

今のマリリンはカルディア夫人と常に一緒にいたので、顔を認識されている、マリリンもまた取り入りたい人物の一人だった。


どこに行っても『金色の聖女』として最高級のもてなしを受ける、もう昔には戻れない。



早速、従者をつけてお買い物…、はぁー我が家には買い物に連れて歩ける従者なんていない。仕方ないから1人で出掛ける。買い物用のドレスはっと……ない。どれもチープでイマイチ。貢ぎ物は全部公爵家に置いてきてしまった。

『はぁー、少しはこちらに持ってきておけば良かった…あっ!でも孤児院に寄附するために協力とかって、どっかの伯爵家にあげちゃったんだっけ…、勿体無かったなぁ〜。ここにあるものに比べたら、どれもマシだったのに! はぁぁぁ。

まあ、これでいいや』


マリリンは持っている中では綺麗目なドレスを着て土砂降りの中、出掛けた。



店に入ってきたマリリンに店員や店主は驚いたが、プロとして顔には出さない。

物色して、いつもの様に「これとこれとこれ、それにここからここまで全部、それをビーバー男爵家へ送ってくださる?」告げたが感触が悪い。


「あの、ではこちらでお支払いをお願い致します」

「は? お支払い!? 私が? 何で!?」

困った顔をして真面目に答える。

「ビーバー様、お買い物をしたらお支払い頂かないと我々も商売が立ち行かなくなります。ですから、お買い上げいただけるなら相応の金額を頂きませんと…」

「どうして? 今まではそんな事言われなかったわ? 金色の聖女なのよ?皆 信者が勝手に貢ぎ物をくれたわ、どうして今まで通りにしてくれないの?」


「誤解なさっております。これまでもお買い物の費用はお支払い頂いておりました。ただ、この場ではなく、後日お屋敷に伺い請求しお支払い頂いておりました。

……いつもはサディアス公爵夫人とご一緒でしたので、サディアス公爵家にお支払い頂いておりましたが、今回はお一人でのご来店ですのでお支払いは金色の聖女様ご自身にして頂くことになります」


「えー!! なら今まで通りカルディア夫人に請求してくださればいいじゃない?」

「ふふ、流石にそれは致しかねます、店の信用問題にもなりますので。今回のお支払いは総額で金350枚となります」

「はい!? 嘘でしょう!!」

男爵家ではとても支払いきれない。家を売っても…間に合わないかも。

「ざ、残念だけど、また来るわ」

マリリンは店を後にした。


「金色の聖女様はポルチーヌ侯爵の事ご存知ないのでしょうか? それに今は金色の聖女様より、天竜様の愛し子の話題で持ちきりです」

「ふむ、サディアス公爵家の財布としての役回りのポルチーヌ侯爵のことも…、光魔法の使えない聖女より、天竜様の愛し子が人気ということも、聡い方は皆ご存知だ。ビーバー様の後見をなさっているサディアス公爵家にも今後影響が出るかもしれない、状況を見極めるのに忙しくお知らせしてはいないのだろう。ま、我々は金を払ってくれる人間がお客様だ。多くのことは知らぬふりをしていればいい」

「はい、承知しました。 それにしても金色の聖女様とも思えないダサさでしたね」

「場違いな服で格好で入店された時はどうしたものかと思った。全く勘弁してほしいよ」

「でも何故サディアス公爵夫人はご一緒じゃなかったのでしょうか?」

「まあ、サディアス公爵夫人は情報を掴んでいて、暫く様子を伺っているのだろう。こんな時期に派手に動くのは悪手だからね。恐らくビーバー様にも自粛を促されたのではないかな? だけどお若いビーバー様は我慢が効かなかったのではないかな?」

「はぁー、誰もちゃんと教えてあげないんですかね?」

「情報も金次第…役に立つ人間・役立てられる人間であれば、知る機会もあるだろう」

「なるほど、勉強になります!」



マリリンは他にも別の店を回ったがどこも同じ反応だった。商売人は情報に疎くてはやっていけないのだ。


「何よー! 後でカルディア夫人が払ってくれるって分かっているのにみんなセコいわよ!

あーあ。何にも買えないなんて…、つまらないつまらないつまらなーい!!

家には何もないし…、そうだ! 私は『金色の聖女』だもの、ビーバー男爵家の名前で買えばいいんだわ! 後で返せばいいんだもの、きっとポルチーヌ侯爵が買ってくれるわ!」


流石にここからここまでなんて買い方は出来ないけど、気に入ったものをビーバー男爵家の名前で買った。街で流行っているチョコレートを購入して、気分が上がるジュエリーを購入して家に帰った。


「はぁー、少し気分転換出来たかなぁ〜」


狭い部屋に買ってきたものを並べて眺めていた。

自分一人の買い物は物凄く楽しかった!

いつもカルディア夫人との買い物は最高級を買えるけど、正直若者向きじゃないものも多いし、格式とか伝統とかそんなものより『可愛い』が重要なのに、絶対に選べない。上手く潜り込ませようとしても『品がないわ』の一言で却下。それに、いつだってカルディア夫人を持ち上げて立てて気持ち良くさせないとならないから結構疲れる。大事なスポンサーだからね、仕事はするけど、上品な一流もいいけど、偶にはジャンクが恋しくなる。


ピンクのフリフリ、大きなリボン、ポップな水玉に、短い丈のスカート、ノースリーブに胸を強調したウエストに胸元がたくさん開いたデコルテ上等に健康的な谷間、これでもかって言うレース…最っ高―――!!


着せ替え人形して真っ赤なリップをコッテリ塗り唇を突き出してウィンク、右の肩を前に出してポーズ、1回転してヒップを突き出して妖艶に投げキッス。


これよ、これ!

はー、久しぶりに解放感から1人ファッションショー!



夕食の時間、晩餐用のドレスに着替えダインングへ向かった。

両親は目を点にしてこちらを見ていた。

「マリリン…家の中で何故そんな格好しているの? 出掛けるのか?」

「いいえ、出掛けないわ」

「なら何でそんな格好しているんだ?」

「…コホン、お父様、お母様、晩餐には晩餐用のドレスを見に纏い食事を頂くものなのですよ?」

ドレスを摘み仰々しく挨拶をすると席についた。

目の前の食事に今度はマリリンの目が点になった。

食前酒に前菜も何もない、煮込み料理がよそられているだけの食卓。カトラリーだって1種類だけ、コップには水垢が透けて見える。興醒めだ。


『何これ、金色の聖女には全然合わない! 煮込み料理1つだなんて、はぁー、気分盛り下がるわー。はぁー、早く公爵家に帰らなくちゃ!!』





「カランのお陰で元気になったよ、有難うね」

「有難うカラン、回復魔法が効かなくて…あの時は生きた心地がしなかったよ。

ねえカラン、ラディは回復魔法が効かない体質なの?」

「えっとね、ラディージャはキラキラした魔力の持ち主だから、元気な時なら問題ないんだけど、意識がなかったから異物として拒否反応を無意識に起こしたんじゃないかなー?キラキラの魔力は天竜様とか天竜樹様とかのものしかないでしょう? それでラディージャに魔力を満たすためにここに来たの、ここは濃密だから上手くいくんじゃないかって思ってね。で、ここの泉の水は高濃度の魔力を浴びているから、魔水になってるんだよね。手っ取り早く回復させるのに効果があってよかったよ」

「魔水が回復薬!?」

「ここの魔水は強い魔力を持つものたちにとっては回復薬の代わりになる。でも普通の人間には強すぎるんだ。免疫がないと多分…体内にある本来の魔力を侵食されて魔獣化しちゃうんじゃないかな?」

今サラッと怖いこと言わなかったか!?

もしかしてラディージャの魔獣化があり得たってこと!?

自然と顔が険しくなる。

「ああ、大丈夫ラディージャはここの魔力に適合する事は知ってたから。それに天竜様の愛し子なら壊されることはないと思ったんだよね」

やっぱり確信なしか…。


「でも、もしかしたら何かしら影響があるかも?」

「何だって!? ラディージャ大丈夫か!?」

「う、うん 別に何ともないよ?」

「うんとね、ラディージャの意思ではなくラディージャに不要と思ったものが排除されてたり、必要だと思ったものが増えてたり…とか」ゴニョゴニョ


「何だろうね? 今のところ何も変わってないと思うけど?」

心配気にディーンシュトがラディージャを見ながら頭を撫でる。


「あ!そうだ、ラディージャの怪我を治したのがここって事は内緒にしていた方がいいよ?」

「ああ、そうだな」

「どうせ確認なんか出来ないんだから天竜様って事にしておけば?」

「駄目よ、嘘でご迷惑を掛けてはいけないわ」

「僕が転移した事は殿下たちは分かっているだろうし…、天竜樹様の中って事にしたら?

だってどこかに行ける場所だと…行こうとするだろうし、こんなに早く回復したなんて説明が難しいし、僕が転移したとしたら実際はどこだって聞かれる。だからいっそ気づいたら天竜樹様の中にいたって事にしたら、色々と誤魔化せるかも!」

「でも、私の嘘に天竜樹様を巻き込むのは…ちょっと」

「ラディ、王太子殿下がラディの事を天竜様の愛し子と発表なさった。どの道 天竜様もラディージャも渦中の人、もう巻き込まれてる、だからね 自衛する必要があるんだ。覚悟しないとならない」

「どうしましょう! 私は何も持っていないのに…」

「ああ、天竜様の愛し子って言うのは間違ってないよ。その魔力が証明している。その魔力を持って生まれた時点で天竜様はラディージャをお選びになったんだ。

ここは魔境でしょう? でも誰も攻撃しないのは天竜様と同じ魔力の気配がするからだよ、だからラディージャが天竜様の愛し子って言うのは詐称じゃないから問題ないよ」


「う、嘘みたい…。私みたいな刻印なしが…天竜様の愛し子?」

「それね…、多分 その内刻印も出るんじゃないかな? 僕からみてもラディージャとディーンシュトは番だと思うし、しかも…、まあいいや。ラディージャは魔力もあるし、刻印が出ないのは体が適合する、成長するのを待っていただけだと思うんだよね、そこに漬け込まれた…」

「本当? ディーと番になれる? 離れないでも済む? それだと…いいな」

「うん、焦らないで待とう? きっと大丈夫だから、ね?」


「あ、それから泉の水を魔法箱に入れて少し持って行ったほうがいいかも。まだ完全じゃないし、ここは魔力が満ちているけど、あっちは天竜樹様の側にしか無いからね」

「うん、分かった。何から何まで有難うカラン」


ラディージャは泉の水を持って、泉や周りにお礼を言ってディーンシュトとカランと帰って行った。


王宮の部屋に戻り、ジョシュア王太子殿下に帰還の連絡をした。

すぐにジョシュア王太子殿下とレイアースは部屋まで確認に来てくれた。


「無事だったのか! ラディージャ心配したのだぞ!!」

「ラディージャ ほら、よく見せて!」

「王太子殿下、お父様ご心配おかけして申し訳ありませんでした。まだ完全とはいきませんが、天竜様のご加護をもちまして戻って参ることができました」

「「??」」

「ああ、うん 良かった」


ディーンシュトから一通り説明をした。

もう駄目かもしれないと思ったあの時、天竜様のお導きで天竜様の魔力に包まれていた。その中で過ごすうちに傷が癒えた、ただ強い魔力の為 ラディージャの中で本人には気づいていない変化が起きているかもしれない。それから天竜様がラディージャにとって取捨選択を行ったかもしれない、そう説明した。


「そうか、危険な目に遭わせて済まなかった」

「ところでどうやってそれらの事実を知ったのだ?」

「はい、そこにいた魔獣か魔草に伺いました。強い魔力の中で彼自身も変化した様です」

「ラディージャに回復魔法が効かなかった事は聞いたか?」

「はい。ただアレはラディージャが弱っていたため、魔力の拒否反応を起こした様ですが、ラディージャに意識があれば問題ないだろうとの事でした」

「そうか、それなら良かった。今後一切怪我もできないと言うのではラディージャが危険すぎるからな」

「…お帰りラディージャ」

「ただいま戻りました。王太子殿下、お父様」

ニッコリと微笑んだ。

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