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33、異変

マリリンはその後に火、水、風魔法を使えるようになった。

光魔法はまだだったが、他の魔法を使えるようになったので学院に戻れることになった。


学院に戻ると、どこからともなく広がった噂で、マリリンが魔法が使えるようになったと皆が知れ渡っていた。

これまで簡単な魔法も使えないと馬鹿にする者もいたが、それらの視線は一蹴され羨望の眼差しとなった。

マリリンは学院のただの学生でありながら、頂点のような存在となった、今まで扱いに困っていた教師たちも持て囃すようになり、マリリンは人生を謳歌していた。


魔法が使えるようになって、カルディア夫人と訪れる先々で歓待を受け、光魔法の後継者として各分野の重鎮と顔合わせもし、自分が本当に偉い人間になった気がして得意げになっていた。


どこへ行っても『金色の聖女』と呼ばれ傅かれる。

最高に良い気分だった。


「番は見つかられましたか?」


この話題を持ち出されるのが1番嫌い。

面倒で仕方ない。

毎回、毎回『相手は誰か分かっているんですけどぉ〜、婚約はしていませ〜ん。どうして? それは…私には分かりません。しくしく』これがお決まりの会話、この2年ずっと言ってるんだから今更同じセリフ言わせないでよ!


暇なのか根掘り葉掘り聞かれる。

相手は誰だ? そんなの…ディーンシュト・ヴォーグだってはっきりこっちだって言いたいわよ! だけど言っちゃダメって言われているから…。

え? 誰に? 魔法省の人に!

詳しく魔法刻印のことは他人に言っちゃダメなんだって、はぁーーー、面倒。もう、いっその事、そう書いて貼り出しておいてくれないかな?




「例の担当者はどうした?」

「それが辞めてしまっていました」

「辞めた? どういう事だ?」

「母親の体調が悪いのでと休暇を取っていたのだが、更に悪化して結局退省して実家に帰ったそうだ」

「話が聞けないのは残念だな。だが、そんな状況では無理に呼び戻すのも気がひけるか…」


「いや、まあそうなんだが…、人を送って話を聞かせに行っている。それと、もう一度確認を取るために別の人間を向わせようかとも思っている」

「そうだな、それが良いかもしれないな。念の為2人以上で確認してくれ」

「分かった」


「そう言えばビーバー嬢は火、水、風の魔法は使えるようになったとか、間違いないか?」

「ああ、そうらしい。光魔法はまだらしいがな」

「そうか…。そう言えばウェストン魔術師長の見解はどうだった?」

「ああ、ビーバー嬢の魔力量で4種類の魔法の行使が可能かどうかの話か?

まあ結論から言えば、今まで確認はされなかった。ただ、目の前にいるのならそれが事実だってさ。ハイブリッドな魔力の持ち主が現れた、新しい歴史が作られたんじゃないか?って事らしい」

「あー、そうだな。現実にいるのなら認めるしかないって事か。はぁー、どっちも手詰まりだな。それと、魔法刻印の変質については過去に事例があったか?」

「これに関してはあった。ただ、ディーンシュトと同じ状態だ。ベースの紋様は同じで…一部の模様が変化したというより、模様がハッキリしたと言った方が正しい、そんな感じだ。ディーンシュトも丸っぽく見えていた部分がハッキリした模様になった、これは過去に8例あった。三角に見えていた部分が鷲っぽくなったとか、円だと思っていたのが波の模様に見えたとかね。ただいずれも番にも同じ反応が見られたり、後から現れた番には最初から変化した模様が現れたりした。つまり最終的には同じ紋様だって事だ」

「そうか、例外はないんだな?」

「ああ、なかった。ただな…この件に関しても前例がなかっただけで、今回が初の事例となることは否定できないとさ」

「くっそ! 決定打なしか」


「ヴォーグ伯爵家からもビーバー男爵家からも 番についての問い合わせが来ている」

「当然だな、もうすぐ卒業だ。どうしたものか…」


時間はあっという間に過ぎ去り、ディーンシュトもマリリンも卒業の時期となっていた。卒業すればそれぞれの将来を明確にしなければならない。

ラディージャは薬局に勤めているので変わらないが、マリリン嬢は本来ならばディーンシュトと番となり結婚し、魔法省に所属し光魔法の魔法使いとなる。出世街道間違いなしの人生だ、ビーバー男爵家の経済状況から考えれば早く確定した事実にしたいと思うのも仕方ないことだった。

ヴォーグ伯爵家は番と早く結ばせたいと言うことではなく、純粋に魔法省から番について何の連絡もないことに疑問を持っていた。マリリンが番だが、相性が悪いので暫く保留、と言う話も何もない。ディーンシュトからはマリリンとの婚約は進めないでくれと頼まれてはいるが、進めるも何も魔法省から正式な通達は何も来ていないのだ。だからハッキリさせたいと言う意味で問い合わせが来ている。


ここで誰しも思う疑問

『番と分かっている者同士が、こんなにも離れて居られるのだろうか?』

と言うことだ。

例えば番が判明していない時もどこかにいる番を渇望し、喪失感を抱えている。そして番が判明した途端 恋に落ちると言っても過言ではない。自分の番だと本能で分かる、そして喪失感が充足感に変わる。今度は片時も離れたくなくて仕方ない。長く離れれば体調を崩し、番を求め様々な症状が出てくる、禁断症状が進めば自我を保てない、なんてこともある。

番が死んだ場合、大抵 残った方は発狂死する、狂おしいほど番を求めるのに、生きている番がそこにいると分かっていて、ディーンシュトとマリリンのように会わずにいられる事などあるだろうか?契っていなくとも本能で出逢った瞬間に自分の番だと感じるものだ、他に番いがいながら別の女を愛せるだろうか?


これだけは無い、そう考えられた。

番を持つ者全員が同じ解答をするだろう、番とは自分の魂の片割れなのだ。


そして事実として、ラディージャとディーンシュトは体液の交換でエナジーチャージができる。それは番同士でなければ出来ないこと、ジョシュア王太子とレイアースは2人こそが番だと確信している。では、マリリン・ビーバー何なのだろうか?


マリリン・ビーバーを探ってみた。


不明な点ばかりだった。

マリリン・ビーバーが金色の刻印持ちの謎が解けない。

魔法が使えている、魔力量から考えると火、風、水魔法の行使はまあ妥当と言ったところだが、果たして光魔法は発動出来るのだろうか?


詳しい話を聞きたいのに担当した魔法省の検査官は辞めてしまって話を聞けない。

マリリンは魔法を使えるようになるまで1年半以上かかった。これも異常なことだった。

当初の説明では光魔法の使い方が火魔法などと違うとの説明だったが…、文献で調べた結果は、魔力の巡らし方に差はなかった。元々 適性があるから刻印に出るのだ、高等魔法を使うことには訓練が必要となるが、初歩の魔法はどの魔法においても魔力さえ巡らせることができれば使える、と言うものだった。


魔法刻印が現れること自体が、魔力を操作出来ることになった証でもある、一体これはどう言うことなのだろうか?


疑問はちっとも解消されない、マリリンに関して分からないことだらけだった。



マリリンは金色の聖女として、カルディア公爵夫人とあちこちに顔を出していた。

カルディアも忙しく各地を回っているが、長く番と離れると寂しくて仕方なくなる。だから遠出は1週間以内に帰って来られる場所にする、どうしてもそれ以上長く会えないと機嫌も悪くなるし、無性に泣きたくなって情緒不安定になる。不安で寂しくて会いたくて苦しい、だから少しでも早く会いたくて、番にも来てもらって中間地点で会う。

再会すれば全ての問題が解決する、それほど特別な存在。年齢など関係ないのだ、番とは永遠に特別に愛しく力の源となる存在。カルディアは47歳、サディアス公爵は49歳だが、今なお仲睦まじく、共にいる時は毎日キスを交わす、気づけば手を繋ぎ、腕を組み、抱きしめる、互いがどれほど大切かも言葉でも態度でも示す。これはサディアス夫婦が特別かと言えばそんな事はない、どこの番もそうなのだ。だから王太子殿下や国王陛下が番に口づけを贈っても、誰もおかしいと思わない。番を大切にすることは当然のことだからだ。


「ふふ、カルディア様は旦那様の公爵様と仲がよろしいのですね?」

「ん? ええ、勿論よ。マリリンの家は違うの?」

「仲は悪くはないと思います、うん 普通だと思います。でもカルディア様達のように、人前でキスをしたり腰を抱いたり、甘い言葉を惜しみなくかけたりはしません。

ふふ、だからカルディア様達の仲の良さに最初凄く驚いたんです。でも今は素敵だなって思います」

「………そう、有難う」




ディーンシュトは卒業後について、両親とも相談し、魔法省に入省することを望んだ。父が健在ということもあるが、何より銀色の刻印持ちと言うことで魔法省から声がかかっていた。ディーンシュトは魔法省に入れば、薬局のラディージャと会う機会があるかもしれないと密かに目論んでいた。


学院の中でもディーンシュトとマリリンは番と思われていたのに、一緒にいるところを見ないと不思議に思われていた。当初からディーンシュトが避けていたことは知られていたが、最近ではマリリンも追いかけ回すことがなくなった。と言うのも、元々パーティーに行くためのドレスや装飾品を強請るためだった、今は支援者が高価な贈り物を収納しきれないほど届けてくれるので、ディーンシュトを追いかけ回す必要がなくなった。よってマリリンとディーンシュトはすれ違っても話しかけることもなく平和に過ごせるので、ディーンシュトも普通に授業に出られるようになった。


ディーンシュトは魔法学で学年1位を取り、卒業後は魔法省に勤めることが決まった。

マリリンは卒業後の進路を決めていなかったが、カルディア夫人と一緒に居られればいいと深く考えていなかった。魔法省からの誘いは他のお誘いと同じようにしか考えていなかった。魔法者で働くよりもカルディア夫人とあちこち行った方がメリットが大きい、だから魔法省の誘いは上手く躱していた。


卒業まで様々なイベントはあったが、ディーンシュトはマリリンと一緒にいると体調が悪くなるので、基本的には参加しなかった。体調不良の件は校医タッカー先生が認めているので学院側も了解している。

ただ卒業式だけは参加せざるを得ない。気が重いと憂鬱に思っていた、だが卒業して仕舞えばマリリンと会わずに済むかもしれない…と言うのもここへ来て、魔法省に問い合わせていた件の正式な解答があったからだ、ヴォーグ伯爵家にもビーバー男爵家にも『現在にところ合致する魔法刻印はなし』と通達された。


ヴォーグ伯爵家は納得したが、ビーバー男爵家は猛反発をした。

「娘の話ではヴォーグ伯爵家のディーンシュト殿とうちの娘は魔法刻印が合致したと聞いています! 何故なのですか!?」

「なるほど、確かに似ていたのかもしれませんが、現在提出されている刻印は正式に別物と判断されました。ですので現在、お嬢様のマリリン嬢の番は確認されていません」

「そ、そんな〜〜〜馬鹿な! そんな事って!! あああ、なんて事だ!」


ディーンシュトは友人を使って、結局自分とマリリンの魔法刻印は違っていたと正式な書類が届いたと触れ回ってもらった。

「ディーンシュト、でもあの時は確かに同じだったよね?」

「ああ、そうだった。でもあれから暫くしてから魔法刻印が変わり始めたんだ。ずっとマリリン嬢が近づくと体調が悪くなるから魔法省の方にも併せて相談していたんだ。変わり始めてからも内緒にしていたのは、マリリン嬢も変わる可能性があったからなんだ、でも彼女に変化は見られなかった。そこで正式にマリリン嬢と僕の魔法刻印は別物と判定されたんだ」

「なるほどね。でも不思議なことがあるものだね…、あの時見た刻印は同じものに見えたのに…」

「うん、でもホッとしてる。本当にマリリン嬢が番なら、番に対して嫌悪感を抱き、近寄るだけで体調を崩す僕はおかしいんじゃないかってずっと悩んでいたから…」

大袈裟に落ち込んで見せる。

「そうだね、番に嫌悪感を抱くなんて考えたくないよね…。なら、マリリン嬢と番ではないと分かって良かったね」

「うん、ホッとしたよ」


「分かった、広めるよ。でも…ラディージャが可哀想だ。マリリン嬢に『私の番にちょっかいかけるな!』って悪者になって…、僕たちのことまでさけるようになったっていうのに」

「本当だよな…。ああ、そう言えばいつもパーティーのドレスを買えとか追いかけ回されて、心の中で何度自分のものくらい自分で買えと思ったことか」

「ああ、いつだったか泣き落としで、誰かにドレスを買わせてたよな!」

「それでいて魔力を巡らせることもできなくて…、人を金蔓くらいにしか思ってないみたいで、番に対する愛情って言うよりモノとして見ている、そんな感じだった!」

「ああ、それに話を聞かない、理解しない。正直 自分の番じゃなくて良かったって思っていたよ」

「ああ、それは私も思っていた」

男同士で思っていた不満が爆発する。

だが、1番の被害者はラディージャとディーンシュトだ、本心ではもっと大声で叫びたいがぐっと我慢する。

『あー良かった、お前と番なんて冗談じゃ無い!! ラディージャを傷つけたこと忘れないからな!!』

これが友人たちの共通認識だ。




ビーバー男爵は青天の霹靂とばかりに、ディーンシュトとの縁をなんとか繋げようと必死になり、魔法省に何度も問い合わせに来るが、当の本人 マリリンはディーンシュトに執着を見せなかった。

「仕方ないじゃない、もう違うって言うのだから他にいるのではない? ああ、どうせならマクロン様みたいな方がいいわ〜」

「マクロン? それは誰だ!?」

「とーっても素敵な人。紳士的で優しくてお金を持っていて侯爵家の素敵な人、大人で包容力もあって、エスコートも完璧で、いつだって私を中心に考えてくださる、私だけの王子様 ふふ」

「マクロンとやらは独身なのか?」

「多分ね。だって私を見る目が熱いモノ! きっと私に気があるの!!」

「マクロン、マクロン、名前はなんて言うのだ?」

「確か…サミュエル・マクロンよ」

「サミュエル・マクロン……気があるならキチンと捕まえておけよ」

「勿論よ」

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