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30、特訓

魔草カランは名前を得たことで進化した。

その結果、話が出来るようになった。

魔草の事とか知っていることを色々教えてくれた。


やはりあの地は天竜樹様と同じ樹があの魔獣の楽園を作り護っていた。

その昔、天竜樹様を天竜様から賜った時にあの地にも天竜樹様と同じ株を授けられた。

王宮にある天竜樹様は結界を張り魔獣から守るためのものとして。だが、マルチュチュ山の天竜樹様は魔獣を守るために賜ったと言うのだ。


天竜様は魔獣と人間の棲み分けの為に、結界で分け魔獣の地には高濃度の魔素・魔力で満たしている…。それが新たな魔獣や魔草を生んでいるとしたら、それは天竜様の御意志。

ラディージャはあの地で知り得たことを秘密にすることにした。 


部屋に着くとカランと話をするために魔法箱から出した。

話が終わるとまた戻す…。


『いつも一方的ね…。用がある時だけカランを出すだなんて…』


それで聞いてみたのだ。

「カランは魔法箱の中がいいの? それとも仕方なく入っているの?」

「うーん、どっちでもいいんだけど、僕はラディの側にいたいわけっていうか、僕はラディから魔力を貰って生きてるの、だから僕にとって1番大事なのはラディの側にいること。

だけど僕みたいな存在がラディの世界、ラディの側にいるってバレたらマズいってことも理解できる、だから魔法箱に入るのは仕方ないって言うより当然って感じ。僕はラディの側にいられるなら気にしない、魔法箱の中も居心地悪くないしね」


という事で、2人で話し合って少しずつ互いにとって過ごしやすい環境を決めていった。

まず寮の部屋にいる時はカランはフリー、自由に歩き回っている。窓辺に植木鉢を用意し、不意の訪問者に備えた。誰かが来たらただの草のように振る舞う。そしてカランビラと見る人間が見ればバレてしまうので別の植物に擬態する。

そしてラディージャが出かける時は魔法箱に入って共に行動する。


ここで疑問に思ったことがある、ラディージャの魔力についてだ。

それもカランが答えを教えてくれた。

ラディージャの魔力は天竜樹の魔力と近い、似ているらしい。だからカランはラディージャから魔力を貰うことで存命できる。魔力には相性もあるらしい、相性が悪い魔力だと魔力酔いのような症状を起こしたり、酷いと人体に影響まで出る、だから魔獣たちにとって天竜樹と同じような魔力を持つラディージャは『敵』ではなく『好きな、愛すべき魔力の持ち主』故に、あの地で誰も攻撃しなかったのだ。そしてその魔力と相性の良いディーンシュトも『敵ではない』と判断したのだ。



ラディージャは許可証を持って天竜樹に会いに行く。

「天竜樹様、ご紹介しますね、カランです。マルチュチュ山で会いました、初めは特級ポーションにするつもりで採取してしまったんですけど、名前をつけたら話もできるようになって、ふふ 今は良い友達です」


カランは天竜樹の魔力を存分に吸いながらへばりついている。

周りの気配に注意しながら自由を満喫して、踊ったり日光浴をしたり天竜樹に登ったり、やりたい放題している。


ラディージャもいつもの様に鼻歌を歌い天竜樹に抱きつき、背もたれにして本を読む。

ずっと必死で勉強してきて個別指導もされてきたので既に薬学部の卒業試験レベルはとっくに終わっていた。そこで学院長の許可のもと卒業試験を実施した。予想通り合格、それどころか歴代トップの成績、そこで今度は魔法省の薬局の試験を受けた。そこでも優秀な成績を示し、17歳にして学院飛び級で卒業し、歴代最年少で魔法省の薬局に入省となり、薬局に勤めることが決まった。よって王宮のレイアースの部屋に住まわせて貰う事になり、こうして天竜樹のところにも来やすくなった。



そして、これまで魔法刻印なしは天竜様の加護なしと馬鹿にされ、冷遇されいつか平民としてひっそりと生きていくしかなかった。

ところがラディージャは魔法刻印なしでもその能力を示し、次代の王とその側近に寵愛されている。以前より風当たりが強くなくなっている、表立ってレイアースたちと対立する人間はいない、ジョシュア王太子殿下たちが風よけになってくださっている効果だ。

勿論 相変わらずサディアス公爵家のように魔法至上主義もいるし、そう言う人間におもねる人間もいるので、平等とまではいかないが、少なくとも王宮で見かけても面と向かって馬鹿にされる様な事は無くなった。

ラディージャの努力を認めてくれる人は少しずつではあるが確かにいた。

学院で迷路の時のメンバーも迷惑をかけたらと、話すことも無くなっていたが、最近は話ができる様になった。まあ、本当は友人たちは元からラディージャを避けてはいなかった。ただ、物理的にラディージャが距離を取ったことにより話す機会が失われただけだった、ヒルマンのように薬学部まで行かなければ話ができなかった。今は夜会などで会うくらいだがその時は昔のように話をしている。


失った友情も少しずつ取り戻しつつあった。

それもマリリンが学院を休学しているからかも知れない…大騒ぎしないので特別にラディージャが注目されることも減ったからだ。



そのマリリンの休学はと言うと…、マリリン・ビーバーの身柄はカルディア・サディアス公爵夫人預かりとなっている。強制的に魔法の特訓のため連れ去られたのだ。

カルディアはこれまであんなに恥ずかしい思いをしたことはない、それもこれもマリリンが魔法を使えず、無知であるが故と、はらわたが煮え繰り返った。

金色の魔法刻印だというのに何一つ満足に魔法を行使できないマリリンにも、番が番相手を蔑ろにすることも、ラディージャの排除を邪魔したレイアースにも腹立たしかった。マリリンの番相手は銀色の魔法刻印 2人まとめて取り込みたいところだが、マリリンの番相手であるディーンシュトは魔法刻印なしに夢中だという(マリリン談)。その邪魔なラディージャを排除するつもりがレイアースに阻まれ、更にはマリリンよりラディージャの方が好印象を与え、計画は完全に失敗した。


カルディア夫人は自分の思い通りにならない状況に我慢ならず、すぐに行動に出た。

ビーバー男爵に行儀見習いと称して公爵邸に連れてきた。

そこでマリリンの魔法の特訓と礼儀作法と教養をスペシャリストを招いて行っている。


実際にマリリンを指導してみて、あまりの物覚えの悪さに辟易とした。

「ちょっとあなた魔力を巡らすことも出来ないのかしら?」

「カルディア様……うっぅっぅ そんな言い方…」

「だって魔力を巡らせるなんて魔法刻印が出たその日にできる様なことよ? 魔法学部に入って何年? 更にバークレー、クパルからも直々に魔法操作を教わってきてこの程度なの!? あり得ないわ! 何のための金色なの!!」

「ひっく ひっく 私だって一生懸命やってるんですぅぅぅ!!」


こんなやり取りを幾度も繰り返していた。


「全くあなたは何度言ったら理解できるの!?」

「すみませ〜ん。ひっく ひっく ふぅぅぅぅ」


「まずは、体の中の魔力に集中して、その流れを辿るの。やってごらんなさい」

「はぁーーーーーやー!! ぴえーん 全然出来な〜い!」

「はぁぁぁぁ、あなたはどうしたら出来るようになるのよ!! 

そうね…、来週 ポルチーヌ侯爵家でパーティーがあるのだけれど…、魔力を巡らせられるようになったら連れて行ってあげるわ。だから精進なさい」

「はい! カルディア様!」


「んなぁーーーー! やーーー!」

「ふんごー!ていやー!」

「ずんずんずん…とりゃー!」



「奥様、お疲れでございますね」

「全くよ! 何なのあの子は! 金色を授かりながら何一つできないなんて! わたくしの教え方が悪いわけではないわよね!?」

「はい、勿論でございます。ここまで飲み込みが悪いというのもいやはや」


「ふぅ、わたくしはこれまで正しい指導をされていないからあの子を導けなかったと思っていたのだけれど、あれでは、教師のせいではないわね」

「恐らく何かしらのきっかけが有れば、その後はスムーズにスキルを身につけられるのでしょうが…、なかなか人に教えるというのは難しいものですな」

「ロブソン、お前と話をしていて少し冷静になったわ」


「奥様、差し出がましいことではございますが、ビーバー嬢がもう少し魔力の使い方を上手になられるまで、別の者に指導させては如何でしょうか?」

「………そうね、あの娘に時間を取られてわたくしの時間が取れてないし、苛ついてお肌の状態も良くないわ。誰かあの娘に付けてちょうだい」

「畏まりました」

「そうだわ、久しぶりに宝石商にデザイナーも呼んでちょうだい。ニフスの別荘にでも行って少し羽を伸ばすから準備しておいてちょうだい」

「畏まりました」


カルディアはマリリンを別の者に任せてバカンスに出掛けた。



マリリンもうんざりしていた。

朝から晩まで魔力操作をやらされて疲れて仕方ない。その上、一生懸命やっているのに何故できないと執拗に責められて、いつも睨まれる。

以前はお買い物やパーティーに連れて行ってくれたのに、今は部屋に閉じ込められて一日中同じことの繰り返し…、提供される食事も最近は質が落ちた気がする。

カルディア夫人がこの屋敷を去ってからは、待遇は悪化していくばかり! 食事、ドレス、睡眠、超怖い教師、本当に最悪! ストレスで死にそう!!


少しだけ…少しだけ息抜きが必要よね?


マリリンは夕食を体調が悪いと言って摂らなかった、そして翌日も起きてこない。

ロブソンが見にいくとベッドから起き上がれないマリリンの姿に仕方なく、本日は休みとし、ゆっくり休むように伝えた。


ロブソンが出ていくとすぐに行動開始。

隠してあった平民服に着替え、そっと抜け出した。

サディアス公爵家は使用人に至っても最高級の装いのため、マリリンのチープな平民服を着ている者はどこにもいない、いるのは外部の人間だけ、だから誰も気にも留めない。そっと出ていくと誰もマリリンと気づく者はいなかった。

ドキドキしながら辻馬車を拾い一刻も早くこの場所から離れる為、頭巾を被り人目を避けて迅速に行動した。

王都に戻ってくると解放感で「やったー!」と叫んでいた。


久しぶりの自由だ。

安心したらお腹が空いた。貴族は来ないであろう下町でケバブサンドを頬張り片手にはカフェオレを持ちゴクゴク飲み干していく。大きな口で頬張ってムシャムシャ食べる姿などカルディア夫人に見られたら2時間は説教される。

「あー、まだお腹いっぱいにならない。もう少し食べようっと」

チーズドッグにコロッケなど片手で食べられる軽食をガンガン買い食いしていく。

ストレスが溜まっていたので暴食を止められなかった。


カルディア夫人とは許されないあり得ない、安物の小物の買い物。

一流の絵画もいいけど、可愛いリボンやガラスの小物入れや手作りのぬいぐるみなどは、マリリンの『カワイイ』を刺激して楽しかった。久しぶりに来た雑貨屋さんには新作も多数出ていてワクワクが止まらない。


『ああ!!! 最高の気分!!』

買ったものを持って一度家に戻った。


「ただいま〜」

「何故お前がいるのだ!?」

「だって…、もう朝から晩まで魔法の特訓でうんざり…息抜きしたかったし…、そろそろ…」

「まさか抜け出してきたのか!?」

「…本当の事なんて話せるわけないじゃない…」

「ではここに公爵家の方が探しにくるではないか! すぐに出て行け、お前はここには来なかった、いいな!」

「だったらお父様が代わってよ! 私だって頑張っているのに、毎日朝から晩まで何故できないって責められて、もう嫌なのよ!! 少しくらいお休みしてもいいじゃない!!」


「だが、我々はもうサディアス公爵家の意向を無視することは出来ない、少し休憩したらちゃんと戻って謝罪するのだぞ? いいな!」

「………分かってる!」


マリリンは部屋で荷物を整理すると、家を後にした。

だけどマリリンはまだサディアス公爵邸には戻らなかった。

第二ラウンドがスタートした。

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