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28、舞踏会−2

「サディアス公爵家の者か…、派手な登場のようだな」



サディアス公爵家といえば身につけるもの、従える者全てが一流。今後の情勢や商売にも影響がある、姿を見せた瞬間からお近付きになりたい者がわらわらと押し寄せる。

身につける宝石、指輪、髪留め、ブレスレット、ネックレス、タイ留め、靴、スカーフ、ステッキ全てをインプット。それが次の金の卵となる、その産地の人間にも擦り寄る。

だが今回の目玉は金色の刻印持ちのマリリン・ビーバー男爵令嬢。


マリリンとお近付きになりたくて、その許可を求めるためにサディアス公爵家に希う。

過去の金色の魔法刻印が出た時は文献上では、聖女として絶大な権力を握り、この国の根幹である魔法省のトップに就き、莫大な利益を得ていたとされる。金色の刻印は天竜樹様の加護が強いと言われていて、領地などは豊穣に栄え子孫にも銀色の刻印が出やすくなるとか、三代先まで富と権力が約束されるなど、確定はしていないが様々な逸話があるのだ。



しかし今回目を引いているのはそれだけではない。

カルディア・サディアス公爵夫人と似たドレスをマリリン嬢が纏っているからだ。

カルディア・サディアス公爵夫人とドレスが被るなんてタブー中のタブー、それを横で堂々とやっているマリリンに畏怖の念を抱く。『力関係が逆転しているのか?どう言う関係?』

サディアス公爵夫人が苛ついたのは当然だった。


同じデザインで臨むなど喧嘩を打っているとしか思えない。カルディア公爵夫人が愛用するドレスの形は有名で誰も似たデザインすら着用することはない。カルディアスタイルは暗黙の了解で、どこのデザイナーもデザインから外している中でだ。

基本的にカルディアはノースリーブにスリットの入ったドレス、大ぶりの宝石が胸元を飾り、腕にある魔法刻印は大きなアームレットで隠されている。

ところがマリリンは同じデザインのドレスにアームレットなし…つまり金色の魔法刻印を見せつけるかのように輝かせている。


「あなたのドレスのデザインはそれでは無かったと思うのだけれど?」

マリリンのドレスはカルディア公爵夫人と共に店を人間を呼んでオーダーしたのだ、だからデザインはカルディア公爵夫人が要望したもので作られた。その試着にも付き合っている、それが違うデザインのもので来たのだ、返答次第ではこの関係に亀裂が入る。

「作って頂いたドレスはとても素晴らしくて、すごく楽しみにしていました。でも、私にはまだ早い気がしたんです。あの素晴らしいドレスは私が光魔法を使えるようになった時まで取っておきたい、願掛けも兼ねてそう強く思ったのです。でも、まだ心細くて…、敬愛するカルディア様と似たドレスで勇気を頂きたいと思ったのです」


「………そう、分かったわ。さあ、行くわよ」


すぐには腹立ちは治らなかったが、今更どうすることも出来ず、言葉少なに出発した。

今回の事は流石に『可愛い子』と流すことはできなかった。

『お揃い』など、マリリンの布は最高級とは言い難い陳腐なもので、デザインの盗作も腹立たしいし、自分の隣に立つのに恥ずかしい装いで、自分を貶めている気がして沸々と怒りが湧く。だが、王族主催の舞踏会で連れ立ってきたことでマリリン・ビーバーの後ろ盾であると公表したも同義、今更後には引けない状況であった。

『せめてもう少しまともな格好をしてくれていれば…、これではわたくしが恥をかく。それに、このドレスのスタイルはわたくしを女神として引き立てるものなのに、生意気だわ』


思惑とは別に、会場中は新たな女神の登場に盛り上がっていた。

カルディア公爵夫人と同じ装いで登場したことにより多くの者は、カルディア公爵夫人が認めた次代の女神と認識した、世代交代を感じていた。



「おめでとうございます、金色の聖女様」

マリリンの腕に輝く魔法刻印を見て誰ともなくそう言い始めた。

「うふふ、有難う存じます」


いつもはカルディアだけが受けていた賞賛と敬意をマリリンに持っていかれることに苛立ちを覚えていたが、

「サディアス公爵夫人のお墨付けであれば、信用できますな」

この一言で溜飲を下げた。

『そうね、あの子はわたくしがいて初めて人々に認められるの、わたくしあっての…』


「金色の聖女、番は見つかっているのですか?」

「そうです、魔法省からは何て?」


「それがぁ…」

マリリンは悲しそうに肩を震わせる。周りは驚いて

「どうなさったのですか!?」

「いえ、魔法省からは何も聞いていません。でも……番だと思っている方はいます」

「ん? 番が分かっているの? ああ、知り合いなのですね?」

「分かっているのに、何故そんな悲しそうな顔をしているのですか? 番は近くにいないのですか?」


「彼は…番である私より愛する存在があるんだと思います。きっと今も彼女と一緒にいるんだわ」

ザワザワ

「あり得ない! 番いを蔑ろにするだなんて!」

「しかも金色よ? 頭がおかしいのかしら?」

「番を蔑ろにする者がいるなんて信じられない! 番ではないのでは!?」

様々な意見が飛ぶ、やはり最終的には『番いと離れていられる訳がない、本当は番ではない』と言うことだ。それぐらい番とは絶対的な存在なのだ。

「失礼だが、その彼は番ではないのでは?」

「ええ、その可能性が1番高いわ…魔法省からも何も言われていないのでしょう?」

「似た模様は稀にあるものですよ?」

「同じ魔法刻印であれば反応しない訳がない」


「違うもん!…あの女が彼に縋るから優しいあの人はあの女を振り払えないだけなんだもん! 彼は私の番!間違いないもの! 模様だって同じ!! ラディージャが邪魔するから上手くいかないだけだもん!!」


品のない物言いに呆気に取られたが、『ラディージャ』と言う具体的な名前に引っかかった。

「ラディージャとは? どなたの事ですの?」


「…………あっいえ、なんでもありません」

だが周りの視線は最早口に出してしまった名前で脳内に検索をかける。

『あの家? いやこっちか…?』既に収拾がつかない。このままでは収まりがつかず

「ラディージャ・カラッティ侯爵令嬢です」


言ってしまった、多くの人間が聞いていて取り返しがつかない。

ザワザワ…

「カラッティって、あのカラッティ侯爵家か?」


「カラッティ侯爵家とはあの、カラッティ侯爵家ですよね?」

頷き肩が揺れ涙が溢れる。

「ええ、そうよ 皆さんが思っていらっしゃる通りのカラッティ侯爵家よ。マリリンさんの番はヴォーグ伯爵家のディーンシュト様らしいわ。番だと分かっているのに未だに婚約もしていないのは、そのラディージャさんが原因らしいの。ラディージャさんがそのディーンシュト様と番だと思ってきたらしいの、ところが実際に魔法刻印はマリリンさんを選んだと言うのにいつまで経ってもみっともなく縋り付くものだから…手続きが一向に進まないの。

わたくしもね、マリリンさんがあまりにお可哀想でヴォーグ伯爵家には『早く正しい番と一緒にさせるべきでは?』とお話しさせて頂いたのにも拘らず、ふぅぅ 未だにマリリンさんを蔑ろにしたままなの。困った人たちでしょう?」

「まあ、なんてことでしょう!」

「何故ヴォーグ伯爵家は放置しているのだ!?」

「カラッティ侯爵家は随分恥知らずだな。ああ、そうか銀色か!」

「どう言うことですの?」

「確かヴォーグ伯爵家のディーンシュト殿は銀色の刻印と聞いたことがある、カラッティ侯爵家は銀色を逃したくなくてしがみついているのだろう!」

「なんと! 魔法刻印は絶対ですぞ!? あり得ない!!」

「では そのラディージャ嬢の魔法刻印は誰を示したのか?」


「聞いて驚くわよ? 彼女ったら魔法刻印が出ていないのですって」

「まあ! なんてこと!!」

「おお! そんなことが!?」


「なるほど、だから彼女はディーンシュト殿を繋ぎ止めようと必死なのですな!!」

「何てさもしいの!!」


すっかりラディージャは悪女として印象付けられてしまった。


「カラッティ侯爵ではありませんか! 本当の事なのですか!? 他に番がいる方を縛り付けるなど許される行為ではありませんわ!!」

「なんのことですかな?」

「しらばっくれないでください! ラディージャさんがいつも邪魔するからディーンシュト様は私とは会ってもくれないんです!!優しいディーンシュト様に付け込んでラディージャさんはひどい…、私だって番のディーンシュト様とイチャイチャしたいのに!!」


シーーーーーーン


「なんの話か分かりかねます。当家にラディージャと言う者はおりません。既に他家に養女に出しました。因みにビーバー嬢はラディージャのせいだと仰るが、学部も変え一切の接触もしていなかったと聞いています。ディーンシュトとラディージャが幼馴染で仲が良かったことは事実ですが、ディーンシュトとビーバー嬢が上手くいっていないのであば、それは単にお2人の問題であってラディージャは無関係なのでは?

我が家の名誉のために申し上げますが、銀色の魔法刻印を血に入れたいなどと無駄なことは考えるはずもありません、何故なら番とは本能で選ぶもの、策略でどうにかできるものではないと分かりきっているからです。

ビーバー嬢、確証もないことを声高に主張するのは無教養と番に見向きもされない魅力のない人間だと公言するようなものですぞ? お控えになった方がいい、では失礼」


言いたいことを言うとカラッティ侯爵は行ってしまった。

だが、カラッティ侯爵の言い分は理解できた。番と認識すると側にいたいと言う気持ちが勝る。そこに誰かが入る隙間などないものだ。

学部も変え会っていないとなると、マリリンの主張が妄想に聞こえる。



「失礼するよ、先程からラディージャと言う名前が聞こえたが?」

そこに現れたのはレイアース・シュテルンことロペス執務室長だ。

「ロペス執務室長、いえ、ラディージャ・カラッティ侯爵令嬢が金色の聖女 マリリン・ビーバー嬢の番を…略奪しようとしていると、聞きまして……」

「ああ、またそのくだらない噂ですか!」

レイアースは眉間に皺を寄せて機嫌の悪さを隠そうともしない。


「皆さんにご紹介しましょう、その噂のラディージャ・カラッティ侯爵令嬢だ。この度私の娘になったのだ。魔法刻印はないが努力家で優秀な女性だ。この国では魔法刻印がないと言うだけで弱い立場となる、そんな状況が労しくてね我が家に迎えたのだ。

ああ、先程の件だが、根も葉もない噂で貶められラディージャは学院の寮の部屋から出られない状況に陥っていてね、今は王宮の私の部屋と我が家の往復で学院は休学している。

それで略奪…略奪ねぇ〜、会ってもいない2人を勝手に悪者にするのはいい加減やめて欲しいな〜。聞いたところによると、ディーンシュトはマリリン嬢に会うと体調が悪くなる、学院の医官から王宮の魔法省にも問い合わせが来ている、実際にディーンシュトはマリリン嬢が近づくと体調不良が認められる為、原因が分かるまで接触を控えた方がいいと伝えたと報告が来ていた、ふっ、それを無関係の女性のせいにするのは頂けないな。

それに魔法省はその2人を番と認定もしていない、本当に番なのか甚だ疑問だな…。

私の娘を紹介しましょう、ラディージャこちらへおいで」


レイアースは先程までと違い優しい笑顔でラディージャを迎える。

人混みを割って出てきた女性に目を奪われる。

可憐で清純で慈悲深い笑顔。

「ラディージャ、私の娘は美しいな」

「お義父様ったら…。ふふ、ご挨拶申し上げます ラディージャ・シュテルでございます。以後 お見知り置きくださいませ」

優雅で気品あるカーテシーに自然と礼を持って返す。


マリリンも美しい女性だ。

ただ今日の装いは妖艶な女神、胸元と太腿には深いスリットが入り、16歳のマリリンには色気、ボリュームが足りなかった。少し早い、背伸びした感じつまり似合ってはいなかった。やはりこのスタイルはカルディア公爵夫人の方が似合っていた。

ラディージャからは気品や教養と言ったものを感じ、先程まで胸に抱いていた不快感は無くなっていた。


「ビーバー嬢、魔法省からは番の確認は取れていないと聞いているよ、そうだよね? 思い込みだけで他人を貶める悪評を流すのは素敵なレディとは言えないな、確認が取れれば魔法省から正式にヴォーグ伯爵家にも連絡が入って君の望む婚約が結ばれるのではない?

あまりいい加減なことを言って私の娘を貶めること言わないで欲しいな、次は気を付けてくれるよね?」

そこにいた者たちは背筋が凍りついた。レイアースに睨まれ呼吸もままならない。

マリリンは面白くなさそうな顔をして自分の魔法刻印に手をやる。


「では、失礼するよ。さあ、ラディージャ彼方で美味しいものでも食べよう」

「はい、お義父様。それでは皆さま失礼申し上げます」

お辞儀をして去っていった。


そこでマリリンに同調していた者も、蜘蛛の子を散らすように去っていった。


『何よアレ! どうして無関係なのよ! だってそれしか考えられないじゃない!! じゃなければ何で私を選ばないのよ! 私はこんなにも可愛いのに!!』


これを機にラディージャの悪い噂は社交界で騒がれることは無くなった。レイアースは王太子殿下の親友にして側近、そしていずれ国王の側近となる者だからだ。


しかしマリリン同様、カルディア公爵夫人は自分の顔に泥を塗られたと憤っていた。

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