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24、竜の爪−1

ジョシュア王太子殿下とディーンシュトは空魔法の訓練と称して天竜樹の下で会っていた。ラディージャのお茶会の話はヒルマンからディーンシュトへと伝わり、ジョシュア王太子殿下とレイアースにも伝わった。

全員が憤っていた。


今は天竜樹に花が咲いているので多くの人の目に晒されている。

そこで非公開日に会っている。


「ラディージャはとても傷ついただろうな、可哀想に」

「ああ、魔女の館に虐められると分かっていて行くのは勇気がいることだったろう」


「魔法刻印が揃いの者と婚姻を結ばないとどうなるのでしょうか…」

「ディーンシュト、我が国では魔法刻印が揃っている番が、番以外の者との婚姻をした例はない。それは強制したものではなく、番を一番愛しているからだ」

「…………、僕はマリリンと結婚しなければならないのでしょうか? どうしても、どう考えてもラディージャしか…」


「マリリン嬢の報告書が届いたな」

「ああ、やっとだ。1ヶ月以上前に検査をしたのに何故報告書が上がらなかったのだ?」

「魔法省のジャン・カラブがビーバー男爵家へ出向いて検査を行ったらしいのだが、その後 実家で母親が倒れたと連絡があり、帰郷して忘れてしまったらしいのだ」

「何故 自宅検査になったのだ?」

「何でもずっと予定が合わなかったからだとか…。何度か日程を設けたのだが流れてこれ以上は、と言うことらしい」

「火、風、水、光だったか…」

「ああ、だが魔力量が凡人並みだったな?」

「ああ、それも不思議な話だ」


「何故ですか?」

「ん? 多数の魔法属性を持つ者は魔力量と比例している。だから魔力量が普通並みで多数の属性を持つことは今までに無い…難しいとされてきた。金色であり得るのか…?」

「普通では無いことなのですか?」

「ああ、火、風、水、土と違って、光、闇、空、竜は魔法を使う際の魔力消費量が大きいのだ。例えば、私の感覚で行くと転移を5kmの距離で1回空魔法を行使するのと、爆炎獄の火魔法を行使するのが同じくらい魔力を消費する。つまり、光、闇、空、竜…竜はよく分かっていないが、火、風、水、土の上級魔法を使えなければ、行使できない思われてきたのだ」


「…そうなのですね」

「魔力量に間違いはないのだろうか?」

「レイ、ジャン・カラブに確認だけしておいてくれ」

「ああ」


ふと見上げると天竜樹は綺麗な花を揺らしていた。

「ラディージャの体調は悪くないらしい」

「辛かっただろうに、ディーンシュトは会っているのか?」

「いえ、まだ会えていません。花が咲いたことで天竜樹様にも近寄れないようです」

「そうか、労ってやってくれ」

「はい」

ラディージャは最近新しい薬草で実験をしているらしく、その合間で学術書と魔術書と薬学書を読み漁り、宿題をこなしている。何かに追い詰められているように机にしがみつく姿にかける言葉がなかった。実のところ何度かラディージャの部屋を訪れていたが、何も出来ずに帰っていた。


ラディージャに何度言葉を紡ぎ、自分との未来を信じて欲しいと伝えても、彼女の心の中では僕に不利な状況になれば、自分を犠牲にする覚悟をしているのが痛いほど伝わってきて胸を締め付ける。だからそっと頭にキスを贈り帰る日々だった。それだけでも側にいると体調は若干良くなった。


『ラディージャ、絶対に離れたりしないからね』


そこへ1人男が入ってきた。

「これはお見えとは知らずにご無礼致しました」

「ああ、デュランか」

ディーンシュトはデュランに向かい一礼をした。デュランも目礼をした。

「お前たちは知り合いか?」

「はい、そのラディージャの兄上なので」

「ああ、そうか ラディージャの幼馴染であったのだな」

そんな話題が出てもニコリともしないデュラン。


「良い機会だ、デュランはラディージャのことをどう思っているのだ?」

「どう、とはどう言う意味でございますか?」

「ラディージャは魔法刻印が出ず家から追い出されそうなことについてだ」

「ああ。正直どうとも…。ラディージャは魔法刻印が出れば番と婚約し家を出て行く事でしょうし、魔法刻印が出なくても結局は家を出る、結果は変わりません。

カラッティ侯爵家は私が継ぐので仕事にも支障はない。ただ、カラッティ侯爵家に泥を塗る…刻印無しとは、と残念に思うだけです」

「カラッティ卿には妹君に対する情のようなものはないのですか? ラディージャは家から追い出されればいずれ死んでしまうかもしれない、それでも知らぬ存ぜぬを通せますか?」

レイアースが聞く。


「カラッティ侯爵家に生まれて天竜樹様をお守りする事だけを教え込まれた家で、魔力がありながら魔法が使えない者の気持ちがお分かりになりますか? 殿下はいかがですか? 王家に生まれ王の資質がありながら魔法刻印が出なかったら? 私であれば恥ずかしくて悔しくて生きる気になれません。生き恥を晒すくらいなら人知れず山の中ででも死んでしまいたい。

冷たいよ言われようが、魔法刻印が出ずカラッティ侯爵家の者として生きられないのであれば、生きながらえる意味はないのです」

「ラディージャが生きたいと望んでもか?」

「…であるならば、 1人で生きていく術を身につけるしかありません。それはカラッティ侯爵家の者ではなく、ただのラディージャなのですから」

「だがまだラディージャは16歳のただの女の子だ、まだ養育する義務があるはずでは?」

ディーンシュトも堪えきれず口を出した。

「その点においてはそうかも知れませんが、それは私の両親の仕事であって私の仕事ではありません」

「ラディージャを! 妹を愛してはいないのですか!?」

「………魔法刻印のある妹であれば、カラッティ侯爵家の者として認めます」


カラッティ侯爵家の誇りについてこれ以上話しても無駄だと知った。

ジョシュア王太子たちはデュランと別れて帰って行った。




今日もマリリンはカルディア公爵夫人と出掛けている。

「マリリン、一流は一流を本物を知らなければいけないわ」


カルディア公爵夫人はマリリンを連れて美術館、博物館、ショッピング、レストラン ありとあらゆる所に連れ歩きその度に金色の刻印であるマリリン・ビーバーを紹介した。

行く先々でカルディア公爵夫人と共にいるとマリリンは最高のもてなしを受けて、自分も一流になった気になった。下級貴族のビーバー男爵家に傅く人間はいない。領地もない、確かな金脈があるわけでもない、せいぜい伯爵家に取り入り雑用をこなし生計を立てるのが関の山だ。

ところがだ、どこへ行っても『ビーバー様』と呼ばれ、『あれ可愛いかも』なんて見ていると、「お目が高い、宜しければお持ちください」お金も払わずにちょっとしたものならプレゼントしてくれる。カルディア公爵夫人を見ると、悠然と微笑み頷く。私はそれを有難く受け取る。『もしかして、カルディア公爵夫人が買ってくれたのかな?』そう思っていると、カルディア公爵夫人が耳元で囁く。


「彼らの好意を忘れてはダメよ。これはあくまでも投資なの。あなたが能力を発揮した際に彼らのことを思い出してあげるの」

『思い出す? 思い出すとなんなのかしら?』


レストランでも

「サディアス公爵夫人、本日は特別なものが入っております」

「まあ いつも有難う、ふふ お任せするわ」

カルディア公爵夫人は何も注文しない、だけどいつだって最高級が出てくる。


「ところで…またお願いしたい事があるのですが…」

「分かったわ。ではジークに後で空いている日程をお知らせするわ」

「ああ、感謝申し上げます! 今後とも宜しくお願い致します!!」


「カルディア公爵夫人、今のはどういう事なのですか?」

「公爵夫人は長いわね、私とあなたの間ですものカルディアでいいわ。

わたくしは光魔法の使い手でしょう? よく治療を頼まれたりするのよ。それに…この店を出す時に出資してあげたり、他にも顔が広いからご紹介して差し上げたりね ふふ。あなたも光魔法の中級魔法が行使できるようになれば、お金ならいくらかかってもいいから助けてくださいって言われるようになるわ。

番は特別な結びつきを持っているでしょう? だから治療して差し上げると特別に恩を感じてくださるのよ?」


「そうなのですね…」

『へぇ〜、光魔法を極めるといつもタダで色んなもの貰えたり有り難がられるんだ〜』


「私はまだ未熟なので…、カルディア様みたいになるのはまだ遠い道のり、ううん、頑張ってもきっとカルディア様みたいになるのは無理だと思います…」

シュンとして俯く。

「うふふ 可愛い子ね。そうだわ! あなたをいい所に連れて行ってあげるわ!」

「いい所ですか?」

「そう、そこはね天竜様の気が満ちている渓谷で『竜の爪』と呼ばれているのよ。そこへは光魔法や銀色、金色など特別な力を授かった者だけが、更なる高みを目指すためにそこで天竜様の気に触れる儀式をするの。まあ、簡単に言うと魔力が増幅してもっと上級の魔法が使えるようになるのよ!」

「そんな場所があるなら何故皆さん行かないんですか?」

「そうね、一つは王領地だから、つまり王家が所有している為、決められた時にしか入れないの。そしてそこには認められた者しか立ち入ることしかできなからよ」

「認められた者とはどんな者ですか?」

「天竜様の気が強くても魔力量が多くないと効果がないとかなんとか。だから銀色や金色は問題ないとして、3色以下の場合魔力量の測定が必要なのよ」

「そうなのですね」


「いつにしようかしら? ふふふ」

「王領地なのに勝手に入っても構わないのですか?」

「勿論駄目なのよ? でもね、竜の爪を管理している家とは懇意にしているの。うふふ、だから特別にね。あなたは選ばれた側の人間だもの、わたくしがあなたを最高のステージに連れて行ってあげるわ!」

「無理なさらなくてもいいです、カルディア様みたいにはなれないと分かっていますし、私のためにご迷惑をお掛けしたくありません!」

「いいのよ、可愛いあなたにわたくしがしてあげたいの。心配はいらないわ、きっとあなたは素晴らしい光魔法の使い手になるわ! 任せて頂戴ね」

「カルディア様…嬉しいです! 私にとって女神です有難うございます!」

「いいのよ、さあ 次は戦闘服を買いに行きましょう!」


マリリンはカルディア公爵夫人との出会いが自分にとって転機になると感じていた。

『ずっとカルディア様についていくわ!!』




ラディージャは薬学部で授業を受けていた。

メデュード先生はポーション作りの権威、だから楽しみにしていたのだが…。


ポーション作りには魔力が必要となる。合わせた薬材に魔力を注入しなければならないからだ。だけどラディージャはともかくタミールとゼノンには注入できる魔力がそこまで多くない。低級ポーションが精々と言う現実を知って最近腐っていた。

「どうして? 魔法が使えないから薬学部に来たのに、ポーションも作れないだなんて…あんまりよ!」

「何のためにやってるか分からない。こんな分厚い薬材覚えたって意味がないじゃない!」

2人の嘆きは尤もだった。

「「こんな事なら薬学部じゃなく就労部に行けば良かった……」」


貴族の子供として一縷の望みを抱いていた。いつか魔法刻印が出たら魔法学部へ行くと言う夢が潰えた。先日魔力検査をし中級ポーション以上は作れないと確定してしまったからだ。魔法刻印や魔力量は血筋によるとされてきた。もしかしたらタミールやゼノンも母親の不貞若しくは血筋に間違いがないと証明したくて薬学部に来たのかも知れない。いつでも魔法学部へ戻れる準備として薬学部を選んだのかも知れない。

2人は現実に苦しみ、暫く授業に出てきていなかった。


だが、先生たちは恒例行事かのように淡々と過ごしている。

実際のところ、5歳になると天竜樹様に拝謁の儀があり、その際に検査されているのだ。

その時点で国は魔力の有無を把握している。だからラディージャも魔力量が多いと言われてきた。魔法刻印が出るタイミングは個人の資質によるものらしい、耐性がないと器(体)が壊れてしまう。

その時点で殆ど魔力が皆無だった者は、その後成長しても魔力量が大幅に増えることは今まで殆ど確認されていないそうだ。つまり2人の悩みも想定内という事だった。


ラディージャもその苦しさは痛いほど分かる。そして何を言っても何の慰めにもならないことも。私たちのような者は諦めるしかないのだ。掌にあった可能性が零れ落ちていくのを心をすり減らしながら見ているしかない。そしてこの結果を受けて選ぶ道も決まっている、後は本人が覚悟を決めるしかないのだ。


ラディージャは友人たちを黙って心配し、応援するしか出来なかった。



「カラッティさん、では1番売れるポーションは何だと思いますか?」

「低級ポーションでしょうか?」

「もっと具体的に」

「風邪用でしょうか?」

「違う。風邪用は風邪が流行り始めると爆発的に売れるが、流行っていない時は売れない。だが、いい目の付け所だ」

「では……疲労回復ポーションでしょうか?」

「そう、正解。平民の暮らしをよく勉強しているようだ。高価なポーションを度々購入し常備することは難しい。そこで国は民が必要とするポーションをポーションとは呼ばずに風邪用ドリンク、疲労回復ドリンクとして手頃な価格で入手できるようにしている。本来はこれらのドリンクもポーションと作る工程は大して変わらない。ただ、魔力を注入するかしないかだ。だが、平民として生きる者の殆どは魔力がない、その為元々魔力入りのポーションだと効果が強すぎるのだ。


「そう、つまり街で薬屋を営む際、魔力を注入しなくてもそれなりに商売は出来る。そこで必要になってくるのは、確かな目で薬材を選ぶことだ。まず今日は 同じ薬草で薬に適するものそうではないものの違いを見極める為に、薬草園で学習をする」

「はい」


今はこの優秀なメデュード先生と2人きりで授業をしている。贅沢な個人授業だ。

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