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21、お節介

「ラディージャの持ち帰った薬草は数があるの? 魔力数値測ってみる?」

「宜しいのですか!?」

「ああ、ただ採取してから時間が経っているから、若干の違いはあるかも知れないが今なお枯れていないところをみると問題ない気もするしな」

「そうだな。参考程度でもまずは測ってみれば、他の薬材との比較は出来るからな」

「さて、ラディージャは女子寮だろう? どうやって計測するか…?」

「そうだな…、カランビラなどが有ると知られるのは危険だな。うっかりラディージャの部屋に忍び込まれたら大変だな…」

「忍び込む…のですか? 誰が…?」


「まったく、そう言うところだぞ、警戒心が足りないラディージャ!」

「レイの言う通りだ。何故ラディージャは特級ポーションに目をつけた?」

「需要はあっても出回らないから…あっ!」

「そうだ。薬材の供給が難しいから今となっては幻の薬材だ。それらを取りに行くのにパーティを組んで向かわせても50人体制で向かっても全滅するほどなんだ。それに特級ポーションが出来れば光魔法の人材不足を補うこともできる。魔獣がウヨウヨいるマルチュチュ山に大金払って大人数で向かわずとも、ラディージャの寮の部屋にあるとなれば安くすむだけじゃなく、確実に手に入る訳だ」

「ラディージャは犯人に対してもか弱い女性で対抗する手段もない、抵抗すればラディージャを傷つけることも厭わないだろう。迂闊に口にしてはだめだよ!」

「はい…」


光魔法を持つ魔術師はいる、シャズナ・クパルもカルディア・サディアス公爵夫人も、他にもいる。だが、国内最高峰と言われている2人でも光魔法の中級程度までしか扱えないのだ。例えば腕を失った人間がいたとして、上級魔術師であれば 欠損部位を再構築出来るが、中級魔術師では出来ない。正直言えば、中級魔術師の能力は上級ポーションでカバー出来てしまう。魔獣討伐に行くとしても光魔法の魔術師を連れて行かずに上級ポーションを持っていく。光魔法の魔術師は沢山は連れて行けないが、ポーションであれば余分に持っていけるからだ。その上、少し前までは光魔法の筆頭魔術師が公爵夫人だった為、あまり危険なことはさせられなかったのだ。だから念のための気休めに下級魔術師を連れていくしかなかった。代替わりして一部の人間は切実に喜んだ、何故ならって大した能力もなく仕事をしないくせに名誉と見返りを多く求められるからだ。

光魔法の上級魔術師はここ数十年出ていない、そういう意味でも金色の刻印持ちは注目されていた。


「ところで金色が出たと言うのに何故まだ魔法省が確認に行っていないのだ?」


その言葉はラディージャに鈍器で殴られたような衝撃を与えていたが、それに2人は気づかなかった。


「まあいい。レイ、保護者としてお部屋訪問と行くか!魔道具は我らがこっそり持って行けばいいだろう。面会の手続きをとっておいてくれ」

「おい、王太子と俺が行けば騒ぎになるだろうが!」

「でも早く行った方がいいだろう? こう言う時権力って便利だろう!」

「バッカ、お前が行ったらラディージャが必要以上に注目されて危険だろう?」

「お前ね〜、レイだって十分目立つんだからな! 私の親友…分かってる?」


「あの〜、だったら魔道具をお借りできれば自分で測りますけどぉ〜?」

「「駄目!」」

『ええ〜、何でぇ〜??』


「ラディージャ、ねえうちの子にならない?」

「えっ!?」

「ああ、そうだな、それがいいかも! レイの養女になるから暮らしぶりを確認とか、保護者として権利が出てくるな! 私は親友の付き添いだ! うん、それがいい!」

「薬草を見る為に養女ですか!?」

レイアースとジョシュア王太子は見合わせると、少し言いにくそうにラディージャに配慮しながら

「ラディージャは卒業したら1人で生きていこうとしているだろう?」

ラディージャは俯いて自分の手を見ていた。


「私はね、魔法刻印が有っても無くてもラディージャは素敵な子だと思ってる。だから家族にも紹介した」

「あ、アレって…!?」

「1人で頑張るラディージャの力になりたいんだ」

声が詰まって出てこない。喉と胸がジンジンして苦しい!

レイアースは優しくラディージャを抱きしめた。

「ねえラディージャ 私の娘になってよ。どうせラディージャの事だから自分のことは後回しにしちゃうだろ? 住む家、薬草の畑、薬局勤務、それだけじゃない、生活費だって必要だし、衣服や薬草の苗、遠征だってある。何の援助のないまま生きるのは正直難しいよ?卒業してうちに住んでもいいし、嫌なら家を別に設けてもいい、でもちゃんとした家じゃ無くちゃ駄目だ。さっきも言ったけど、特級の薬草だけじゃない。こんな若くて可愛い女の子の何の警備もしていない家に住んでいたら、泥棒だけじゃなく悪い人間が入り放題だよ? それを収入源と考えていたら収支はマイナスだよね? 植物はすぐに育たない。それにラディージャは貴族だ、王族主催のパーティーには参加義務がある。今のラディージャには1人で生きていくのは大変だろう? ラディージャはまだ誰かの元で庇護されるべきだ、それに薬師としても未熟どころかまだ1人で立っているわけでもない、それが現実だ。

私はラディージャの意思を無視して何かを強要するつもりはない、だけど…だけどね、今のまま1人で何でもやっていては限界がくる。頼れる大人に頼るのも生きる為には必要なことだよ?」

「そうだぞ、レイのことは王太子である私が保証する。私は立場上個人を保護することは難しい、だから私の代わりにラディージャを見守る人間が欲しいと思ってた。レイなら安心できる。ラディージャも安心して任せなさい、相談できる大人として存分に甘えるがいい」

「迷惑じゃないですか? 魔法刻印もない、何もできない私が、レイアース様の養女だなんて…どうご恩をお返ししたら…何のお役に立てると言うのですか!?」

「恩を返して欲しくて養女にするわけじゃないよ、ラディージャが良い子で、一緒の時間が楽しいからだよ。何も難しく考えなくていい、心配するな」

「……………はい。よろしくお願いいたします」

本当はずっと心細かった。ディーンシュトがマリリンと婚約してしまったら…今のままでいいはずがない。この世界に独りぼっちになることが恐ろしかった、そんな時にレイアースの家族が優しくしてくれた、大人の包容力、優しい笑顔に縋りたくなっていた。


「じゃあ、卒業したら養女ってことでいいのかな?」

「まあ、それは時間があるから今すぐじゃ無くても、ラディージャにも考える時間が欲しいだろうから、おいおいでもいいだろう。まあ、そう言うわけでその方向で直ぐに視察、いや保護者の面会だ!」

「分かりました、ふふ 有難うございます」



後日、寮のラディージャの部屋に入った大柄の男2人は絶句した。

『これが侯爵令嬢の部屋!?』


そこにはまともに生活するスペースもない。

ベッドの上に積まれた本で体を伸ばして休む場所もない。

道理で天竜樹の元で多くの時間を過ごす訳だ。ここにはまともなスペースがどこにもない。

『これは、ラディージャの好きにさせていたら危険だ』

これが共通認識だった。

魔力数値を測った。

ラディージャの仮説は正しかったようだ。

王宮で低級〜上級ポーションに使われる薬草も全て数値化したものをラディージャに渡してやった。


「ラディージャ、この事は誰にも言ってはいけないよ? この植木鉢たちのことも知られないようにしなさい。それが自分の身を守ることになる」

「そうだぞ、信頼できる大人がいて良かっただろう? 悪用されないように気をつけるんだぞ?」


目的を果たすと早速レイアースたちは早速仕事に取り掛かった。




ラディージャにお茶会の招待状が届いた。

「カルディア・サディアス公爵夫人…? 全く面識がない人だわ。何故、私に?」

何かの間違いではないかと思い、確認の手紙を出したが間違いではなかった。

困ったラディージャは早速 未来の父上親、レイアースに相談をした。


「面識がないの?」

「はい。12歳から寮生活ですし、魔法刻印がないので…正直公式な場はどこにも出ていません。その…私ずっと番だと思っていた人がいたんです。でも………違うと分かって、彼と彼女が一緒にいるところを見るのが辛くて……、だから何にも参加していないんです」

「ますます解せないな。しかもサディアス公爵家と言えば 魔法能力至上主義者だ。本来であれば魔法刻印が出ていないラディージャを気にも留めるはずがない」

「嫌な予感がするな。ところでラディージャ、番だと思っていた男の話を聞いてもいいか?」


「………多分すぐに分かる事ですが、迷惑をかけたくないんです」

「別に何もしないよ。何で番だと思ったんだ?」

「私たち幼馴染で、すごく仲が良くて、離れていてもお互いの感情が何となく分かったり、一緒にいると体調が良くなったり、……お互いを唯一無二と感じていました」


『それは確かに番が感じるものだな…、だけどラディージャには魔法刻印がないのも確かだ。一体どう言う事なのだ!?』


「ラディージャ、そのお前の幼馴染はお前以外に番を見つけたのか? それともまだ? 体調は? 今もその男の感情を感じるか?」

「番は…別に見つかりました。体調はあまり良くないみたいです、多分、正しい番に気持ちがついていかないからだって言っていました。簡単な感情は分かります。嬉しいとか疲れたとか憤りとか。今は、疲労を感じています」

「ふーん、そう。それは番と感じても仕方ないね…」


「おいジョシュア、先日変な報告書あったろ!」

「何だよ、変な報告書って? いつもそんなんばっかだぞ?」

「ほら、魔法省に問い合わせがあったとか言う、番の刻印が複数出ることがあるのか?とか番に対し嫌悪感を抱くことがあるのか?とか、番以外でシンパシーを感じることがあるのか? そんな質問を受けて調査中とかいうやつだよ!」

「ああ、あれか! そんな事はあり得ないと思っていたが…まさか!?」

「ラディージャ、バナビス・タッカーと言う者を知っているか?」

「タッカー先生は学院のお医者様です」

「では、恐らくラディージャたちの事なのだな…、お前の幼馴染はディーンシュト・ヴォーグだな?」

「…はい」


「そうか、偶然と言うには無理があるのだな…。ヴォーグの番は誰なのだ?」

「マリリン・ビーバーさんです」

「ん? 何故分かった?」

「マリリンさんは金色の魔法刻印を露わにしたドレスをお召しになるので…、私 ディーンシュトから…彼から刻印を見せてもらったことがあったので」

「例の金色の刻印の娘が…、辛いなラディージャ」

ラディージャは必死に歯を食いしばって泣くのを我慢する。ディーンシュトにだけは迷惑をかけたくないから。


「まさか、薬学部を選んだのもヴォーグのためか?」

「私…番にはなれなかったけど、ディーンシュトには幸せになって欲しいんです。だから…邪魔したくなかった…です」

ジョシュア王太子がラディージャを優しく抱きしめて、慰めてくれた。

「そんなに口を噛むと切れるぞ?」


泣かないように我慢しているのを察して、話題を変える。


「問題はサディアス公爵夫人がラディージャを呼び出した理由だな」

「まさか?」

「まさか何だよ?」

「ラディージャの番だと思っていた者は金色の刻印持ちの番なんだろう?」

「は!? さっきの報告書か!」

「ああ、金色の刻印持ちであればサディアス公爵家は取り込もうとする筈だ。そこで番である男が冷たいと聞けば、釘を刺して恩を売る」

「そう言う事だな。だがラディージャに断る術はない…どうしたものか」

ラディージャもその話を聞いて自分に招待状が来た訳を理解した。


「ラディージャ、招待状には書いてないだろうがサディアス公爵夫人にはドレスコードやタブーがある。サーシャに相談にのって貰いなさい」

「はい、有難うございます」

「恐らくビーバー嬢もいるんだろうな」

「ああ、多分な」

「ああ、心配だなぁ〜。味方がいない檻に放り投げるようなものだぞ?」

「うちの息子はチビすぎるしな」

「うちもだ、しかもサディアス公爵夫人相手では太刀打ちできないしな」

恐ろしげなお茶会の作戦会議に頭を悩ませた。

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