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14、確定−3

『天竜樹』についた花芽が全部落ちた。

人々が喜び歓喜する中、ポトリと落ちた物に目をやると次々に雨のように落ちてくる。

何が起きたか分からず、そこにいた者たちは何も出来ずに見ているしか出来ない。

「キャーーーーーーーー! 花芽が! 花芽が!!」

「おい! どうした! 何があったのだ!!」


突如起きた異変にお祭り騒ぎだった群衆は阿鼻叫喚となり一変した。


一帯にはすぐに警備兵が配置され、そこにいた人々は1人1人取り調べられた。

ジョシュア王太子殿下の危惧していた事が現実となってしまった。


『天竜樹』の詳しい調査、管理、当日に観覧に来ていた者、警備に当たっていた者、関係者、など様々なものが調査された。だが、何もおかしな事は出て来ない。

カラッティ侯爵家も呼ばれ調査された。

花芽がつく前からの管理に関して詳細に報告をする。

「カラッティ侯爵、何か変わったことは無かったか?」

「いえ、特には…、花芽がついてからは『天竜樹』様の見回りの回数も増やしておりましたので、心当たりがございません」

「ふむ、では花芽がついた心当たりは?」

「残念ながら何も…。私の代になりましてから特に変わったことはございません」

「そうか…」

やはり何も分からない。


念の為、警備兵にも1人1人呼んで花芽がつく前からの変化や違いについても確認した。

だが、特には変わったことはない。ただ、その中で何人かが答えたことで気になった事柄があった。

『ラディージャ・カラッティ侯爵令嬢がよくお見えになっておりました』

何人かがそう口にしたので、気にかかりロディと言う者にラディージャが何をしていたか聞いてみた。


「直接は見ておりませんが、朝から夕方までお見えになることもあり、恐らく本を持ってきておりましたので本を暗くなるまで読んでいたようです。ああ、それに歌を歌ったりもしておりました。…それからはよく昼寝もしていたようです。慌ててお帰りになることもありましたので、ふっふっふ」

あまり褒められた事ではないと思うが楽しそうに話をする。カラッティ侯爵家の人々に知られれば大目玉だろう。

「昼寝?」

「ああ、その…本を読んでいて眠ってしまうという事です。ラディージャ様は悪いことは何もされとりません!叱らないでやってくださいまし、我らみたいな者にも優しい令嬢で、ラディージャ様が歌を唄った後は『天竜樹』様もお喜びになっているようでした!」


「喜ぶとはどういう事だ?」

「その…具体的に何と言うこともないのですが、強いて言うならば空気が柔らかいのです。それに植物も元気になっとる気がするんです。ラディージャ様がお出でになると『天竜樹』様のご機嫌が良くなる、そう思います」

「ほぉ、興味深いな。いや、参考になった」

「ラディージャ様は 本当に優しい令嬢なんです、叱らないでください!」

「いや、叱るつもりではない。花芽がついた理由と落ちた理由が知りたいだけだ、心配するな」


ジョシュア王太子殿下は警備の者たちにラディージャの事をもう一度聞き直した。

すると全員がラディージャ嬢が『天竜樹』に会いにきた後、空気が柔らかくなる、体調が良くなると証言した。


確証はないがラディージャが『天竜樹』に寄り添ったことで花芽がついたと推測した。では何故 急に花芽が落ちたのか…?

そこでカラッティ侯爵を呼び確認することにした。


「ラディージャ嬢はどうしている?」

「は? 我が娘のラディージャでございますか? 恐らく学院の寮にいるかと思いますが、何故でございますか? 何か不始末でも仕出かしたのでしょうか!?」

その物言いにラディージャ嬢は家に居場所がないのかもしれないと思い至った。


「今は休暇中だろう?家には帰らないのか?」

「さあ、帰ると連絡は受けておりませんので、帰らないのだと思います」

「そうか。よく『天竜樹』の所に来ていたらしいのだが、最近は見ていないと警備の者が言っていたので、今回の件でラディージャ嬢にも話を聞こうと思ったのだ」

「ああ、なるほど。実は花芽がついて衆目を集めておりますので、近寄らないように言い渡しました。娘には寮に人を送り登城するように伝えます」

「何故、近寄ってはならないのだ?」

「…お恥ずかしながら、あの娘には16歳になると言うのに未だ魔法刻印が現れず魔法が使えないのです。これはカラッティ侯爵家の恥、目立つ行動はさせないようにしております」

「そうなのか…。だが、ラディージャ嬢は魔力が高いのでは無かったか?」

「魔力が高くとも魔法が使えないのであればなんの役にも立ちませんから」

カラッティ侯爵の目は蔑みが見えた。

「すぐに登城するよう申し伝えます」

「ああ、頼む」

『果たして寮にいるだろうか? 予想が当たっているならば…ラディージャ嬢は』

ジョシュア王太子殿下はラディージャ嬢について調べさせた。



案の定、ラディージャは寮にはおらず、カラッティ侯爵は謝罪の為、王宮を訪れていた。

「申し訳ございません。そのラディージャは旅に出ており寮にはいませんでした。戻りましたらすぐにご連絡申し上げます」

「そうか」

密かに調べさせたので知っていた。


「カラッティ侯爵、ラディージャ嬢は何故魔法学部ではなく薬学部なのだ?」

「それは勿論、魔法刻印が出なかったからでございます」

「成績も大変優秀と聞いた。何故そんなに邪険に扱う? そなたの娘であろう?」

「それは魔法学部で優秀なのではなく、薬学部で優秀と言う事で、それでは意味がございません。二流の中で1番など何の意味もございません。我が家はカラッティ侯爵家なのですから」

カラッティ侯爵家は由緒正しき一族で優秀、それは間違いないがここまで特権意識が強いとは思っていなかった。


「卒業後はどうするつもりなのだ?」

「どうやら薬師として生きていくつもりの様です。卒業後は家を出るように言っておりますので、どうなるかは分かりませんが、まあそう上手くはいかないでしょう」

『なんだこの違和感は』

「婚約者はどうした?」

「元はヴォーグ伯爵家のご令息と親しくしておりましたが、魔法刻印が出ないのであれば上手くはいかないでしょう。欠陥品として生涯1人で生きていく事になるでしょう。

今回旅にでたのも、拠点を探す為の旅らしいですし、その覚悟は決めたのでしょう」

「ラディージャ嬢に娘としての愛情はないのか?」

『馬鹿な質問をした。十分分かっているだろうに…、今回の旅だって心配ではないのか? 侯爵家の若い令嬢が1人で生きていくなんて生半可な覚悟で出来るものではない。彼女には何の落ち度もない、それなのにあなたは娘を捨てるのか? そう言ってしまいそうな言葉を必死で飲み込む。朝から晩まで必死で学ぶラディージャの姿を想像すると労しく思った。先日も寮の部屋で倒れていたと言う、その健気さが哀れだった。


「王太子殿下、カラッティ侯爵家の一員であるためには能力を示さねばならないのです。番を得られないのであれば仕方ありません。私の愛情もカラッティ侯爵家の者であればこそです」

「そうか、では卒業までに魔法刻印が現れなかった場合、ラディージャ嬢を王宮で預かっても構わないな?」

「それはどう言う意味ですか?」

「王宮に薬師として迎える。その際はカラッティ侯爵家とは無関係として迎えると言うことだ」

「何故でございますか?」

「そなたらは魔法刻印がないラディージャに表に出て来られては恥ずかしいのであろう? ならばカラッティ侯爵家のラディージャではなく、ただのラディージャとして迎える、それならば構わないであろう、という事だ」

「…左様でございますね。本当にカラッティ侯爵家の者と知られませんでしょうか?」

呆れて物も言えない。


「分かった、そこまで言うのならラディージャ嬢を養子に出すか? 後で返せと言われても返せぬぞ?」

「何故 王太子殿下はあの娘に気をかけるのですか? 魔法も使えない、天竜様の加護も頂けないあの娘に何か利用価値があるのですか?」


『そう聞かれて、自分もこの男と同じだと気づいた。私は天竜樹の花芽にラディージャ嬢が関係あると思い、手放さないように布石を打っているのだ。私もこの男と同じで利用価値があるからラディージャ嬢を気にかけているのかもしれない』


「そうだね、あると言えばある。恐らくラディージャ嬢は薬師としても頭角を表すのも然程遅くはないだろう。優秀な人材を確保する為だ。

それと、今回天竜樹について調べていて分かったのだが、ラディージャ嬢は王宮図書館で本を借りそれを天竜樹の前で陽が落ちて文字が見えなくなるまで本を読んでいたそうだ。

私は何故そんな所でと思ったが、今思うとラディージャ嬢には居場所がなかったと理解した。寮まで本を持ち帰る時間が勿体ない、それにそなた達が人の目につく事を嫌う故、カラッティ侯爵家の者しか入れない天竜樹の元を訪れていたのだろう。

私は懸命に努力しても家族に顧みられないあの娘を不憫に思っている。まだたった16歳である才能豊かな娘を保護してやりたいと思っている」

「はぁー、左様でございますか。構いませんが、あまり目立つ家では…ゴホン都合が悪いと申しますか…。どこぞの没落貴族か後妻にでもして頂けると有難く存じます」

ジョシュア王太子殿下はカラッティ侯爵も指輪『メルガロ』を見た。

この男をカラッティ侯爵家の当主に選んだのは何のためだっただろうかと恨めしく思った。

『親としての情はないのだろうか…。まあ、言質は取った』


「学院を卒業する際に魔法刻印が無ければ娘と縁を切る、本当にいいのだな?」

「魔法も使えぬ娘でありますが、薬師としてお役に立てるならば何よりです」

「分かった、その時はそなたの娘ラディージャは私が貰い受ける」


カラッティ侯爵が帰ってから、側近のレイアース・ロペスと護衛だけになった。

「お疲れのようですね」

「ああ。………………何とも嫌な気分になってな…」

「そうですね。このトルスタード魔法国の貴族であれば、魔法刻印が出ない事はある意味純血種ではない事の証明ともなり得ますから、カラッティ侯爵家の存続の歴史を考えると認められないのも理解できます。ただ、番との子供である愛しい子供を、ああもキッパリ切り捨てられるかは疑問ですが」


「ふぅ…。だが報告書を読む限りラディージャ嬢は魔力が多い、カラッティ侯爵家の娘で間違いない。何の落ち度もない娘が家族からの愛情も得られず、唯一心を通わせた番と思っていた幼馴染を奪われ、それでも健気に懸命に生きるあの娘が哀れで…切ない」


「殿下はお優しいですから」

「…親とは勝手だな。子に人権はないらしい…」

「ラディージャ嬢をどうするおつもりなのですか?」

「…んーーーー、まずは話をしたいな、それから決めるとするよ」

『無事に帰ってくるといいのだが…』




困ったことになった、ディーンシュトは帰りは転移では帰れない。

それは現在のディーンシュトのレベルでは、転移魔法は標をつけた座標に飛ぶこと、正直言って今回成功したのが不思議なほど高等魔法。ディーンシュトはラディージャを思い描きネックレスにつけた座標に飛んだわけだが、寮には標がない、今は帰るべき場所に座標がないので帰れない。それにディーンシュトはまだ魔法使いとしてはヒヨッコ、2人で転移できるかも分からない。かと言ってラディージャをここに残したまま1人で転移して帰ることもできない。

結論、2人一緒に馬車に揺られて帰ることにした。


馬車の中では乗り合い馬車なので余計なことは話さない。ここには護衛もいない、自分たちの身は自分で守るしかない。ラディージャが女の子と知られる訳にはいかない。

周りには知られないように見つめ合い、気づかれないように手を繋ぎ、気配を消して揺られている。偶に人目を盗んで隠れてキスして帰ってきた。

途中で一緒に食事をしたり、観光もした。路地で買い物をしたり、真っ直ぐ帰る気にはなれずに宿に泊まる。傍目にはディーンシュトの従者としてラディージャは側に仕えた。


離れたくなくて触れていたくて、部屋に入るとどちらからともなく抱き寄せ唇を重ねる。

安心感と欲望が湧き上がる。

気付けば相手の服の中に手を入れて肌の感触を確かめる。

初めての時と違い、心に余裕が生まれた。

相手の表情を見れる。「ここは痛くない?」「ここ気持ちいい?」「どう言うのが好き?」

表情と反応を見ながら、欲望のままに深く抱き合った。抱き合うごとに自分の体に巡る魔力が純度を増し、体の調子が良くなる。そして深い快感も得る。

堕ちていく…底の見えない沼に堕ちていった。

気を失っても目覚めればまた求め合った。

不思議とお腹も空かず、別のもので満たされる。

「愛してる」

「私も」

時間が許す限りずっと体を重ねていた。

3日も経つ頃にはすっかりどこが互いの感じるところか覚えてしまった。 

だけどもう、帰らなくれはならない。

最後に1回と先延ばしにしてきたが、とうとう帰らなければならない。邪魔のない2人きりの時間は終わりを告げた。2人には辛い現実に戻る道、2人とも別々の方向を向きながら鞄の下で手を繋ぎ、言葉もなくまた馬車に揺られて王都へ向かった。


気付けば王都に帰ってきた。ここからは人目を気にしなければならない。

ラディージャはディーンシュトが悪く言われることを懸念して、距離を取る。それをディーンシュトは首を振って、そのままでいいと伝えるが、そうもいかない。手を伸ばせば掴める距離だがもう目も合わせてはくれない。ラディージャは縮こまりキョロキョロ辺りを気にしている、それがひどく切ない。


いつまでもずっと一緒にいたかったが、馬車を降りた。ここはもう学院の中で人の目があるので、最後に指を一度絡ませた後、別々の場所に帰って行った。

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