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『はぁーはぁーはぁーはぁー、誰が最初にここまで来たんだろう?


人間が足を踏み入れない魔境の地。

まさに獣道!

なんか虫とかもデカい!

色鮮やかな植物、しかも動くし!

怖い! 怖いんだけど襲っては来ない…不思議?


誰がこんな所に生えてるの見つけたんだろう?


あっ!』


ちょっと開けた場所に出た、欲しい薬草がたくさん生えていた。

「ないんじゃいこりゃー!」

小さな魔獣が点在して草を食んでいた。


普通に草原のように様々な草花が生えていた。

『そうか、私たちには薬草と言われて貴重な薬剤になるが、ここではただの植物なんだ! ここに棲む魔獣たち?動物たちのご飯でもあるんだなぁ〜』


ここにいる魔獣は穏やかで平和そのもの、向こう…人間界では魔獣は恐ろしいもので、葬るもの。魔法や武力で殺すべき存在。自分の価値観が分からなくなってきた。


『もしかしたら…最初にここに立ち入った人もこの地を人間の踏み荒らさないように入るのをやめたのかな?』


…ううん、全然違う。

ラディージャが気づいていない所に人間の骨がゴロゴロしている。

勿論、特級ポーションの材料になるのだから金になる、ギルドや護衛を雇って薬草を取りに来た者は数知れず、ここを生きて元の世界に戻れた人間がここ数年ごく僅か。

難攻不落の魔境なのだ。

『わぁー! 見たことない植物!』

なんて何の武装もせずにこの地を踏んだ者はいない。


『顔が前と後ろにある狸!!』

と言っていたが、二面性がある。一見おっとりした奇妙な動物に見えるが、一度攻撃的になると牙を剥き襲ってくる魔獣で前後に顔、つまり目があるので死角ゼロ、小回りが効いてすばしっこく何でも噛み砕く厄介な魔獣だ。それがラディージャを見過ごしたことの方が異常なのだ。


『天竜樹様の結界は人間界に踏み入らないようにするものと言うより、棲み分け が正しいのかも知れないわね。だって大きな結界の中の一区画だけ結界がかからないなんてことはない。敢えて私たちの世界に、人間が立ち入らない場所を作りそこを魔獣の棲家にしている、それは天竜樹様のご意思なのだ。


「ここを荒らしたくないわね」


『きっと私の知りたい答えは、【魔力を帯びたただの野草】なのだろう。特級ポーションは高魔力を帯びた野草が原料、ここは魔獣が棲家と出来るほど魔力に満ちた土地。

どうしたものかしら? 種でも貰えれば、実験が出来るのだけれど…』


「すみません、ここにある野草を少し分けてもらっても良いですか? これを育ててみたいんです。少し貰って行っても良いですか?」


誰も答えないが、空気は先程と何も変わらない。きっと『構わない』と言う事なのだろう。

それぞれの種類を何株か土ごと採取し、土を平らにし、お礼を言った。


「これで薬を作りたいんです。でも、結界の外では育たないみたいで…、どうしたら育てられるか研究してみたいんです。だからごめんなさい、少し頂きます。なるべく邪魔しないようにしますね」


草原はそよいでいる。

ラディージャは採取した野草を鞄にしまい、結界の外に出た。

街へ行くとお腹が空いたので食事できる所を探した。食事を終えると宿を探した、今日は宿で休んで明日帰ろう。

部屋に入ると脱力で膝から崩れ落ちた。

『あれれ何だこれ。ち、力が入らない…、どうしよう』

床に倒れた。

金縛りにあったみたいに自分の力では指の1本も動かせない。

『苦しい、このまま死ぬのかな? 何でこんな事になったんだろう? ディー! ディー! 死にたくない、ディー!!』



「ラディ? なんか嫌な予感がする。ラディ!!」

ビューーーーン


ディーンシュトはラディージャの側に転移した。

「ラディ! ラディ!! どうしたんだ!! ラディ!」

ラディージャは床に倒れていて意識がない。

恐る恐るラディージャの顔に触れる…。温かい…良かった。手を取ると末端が物凄く冷たい。

「良かった…死んでない。寝てるの? そんな訳ないか」


『どうしよう、医者に…いや、やめた方がいいラディも少年の格好をしている、ここで女と明かすのは身の危険がある。ならどうする? どうしたら…!! そうだ、本にはなんて書いてあった? 番であれば互いが力の源…体液の交換、そうだ! この間だってキスしたらラディは回復した!! 番だから回復したんだ! やってみる価値はある』


「ラディ勝手にごめんね」

ディーンシュトはラディージャの唇を手で軽く開いた。そこに自分の舌をねじ込んだ。

『元気になって! 元気にラディ』

ラディージャの粘膜を舌で丁寧に擦り唾液を送り込む。

コクン


「う、うぅぅん。ん」

「ラディ!」

まだ意識回復まではいかない。でも確かに効果はある!

ディーンシュトはキスを続けた。

するとラディージャは漸く目を開けた。

「ディーなの?」

「うん、呼んだだろう? 僕には聞こえたんだ、だからラディのもとに来たよ。死にたくないって僕には聞こえたんだ」

ディーンシュトの目から涙が溢れてくる。少し悲しそうな笑顔で見ている。


「何があったの? …意識のないラディを見てどんなに驚いたか。ここは学園じゃない、たった1人でこんなところまで来て…従者はどうしたの? 僕が間に合わなかったら…どうなっていたラディ? 僕の番はラディだと思ってる、僕はラディを失ったらきっと生きていくことは出来ないお願いだ、もうこんな危険なことしないで……」

「ごめんね、ごめんねディー。自分でも何が起きたか分からないの。この街にやってきて結界の中に入って野草を採取して宿に戻ってきたんだけど、一息ついたら急に体に力が入らなくなって…」


「………そっか、一方的な言い方してごめん。1人でいきなり怖かったね。でも僕を呼んでくれて有難う、今こうして側にいられて幸せだよ」

優しくラディージャの頭を撫でて頭にキスも落としまたキスする。

「こんな遠くまで危険も顧みず来てくれて有難う。でも…どうして?」

「ん? この間まだネックレス持ってるって分かった時、標をつけておいたんだ。ラディのピンチには絶対僕が助けたいって思ったから。前からお互いの感情が分かっていたでしょう? ラディは…我慢ばかりしているから…。でもその原因を僕にはどうしようもなくて、いつかラディが壊れてしまわないように…違うな、僕の我儘だ。僕の心は常にラディの側にいたい、だから…ラディを側に感じる為に標をつけた、ごめん」

「ううん、嬉しい。だってネックレスを外さないのはディーが側にいる気がして安心できたからだもの。有難うディー、もっとディーを刻みつけて欲しい」


「ラディ…今 それを言うのは駄目だよ」

「何で? 私の本心だよ? 信じられない?」

「違う! 違うよ、そうじゃない。 …ゴホン ここはベッドがあって、2人きりで、邪魔者がいない。僕を刻みつけてなんて言われて冷静じゃいられないよ。僕は男だから…」

見つめ合うと微妙な空気が流れる。


「ねえ、ディー …あのね、負担に思わないで欲しいんだけど、……魔法刻印が現れなければ私は1人で生きていくのだと思うの。私はね、やっぱりディーの事しか愛せないから、だからね、刻んで欲しい。私の愛するディーを ディーが誰かのものになる前に、婚約前に 私に頂戴?」

「ああ、ラディ! 愛してる!! 僕も同じだ、僕も生涯愛する女性はラディージャ唯1人だ。マリリンに同じ魔法刻印が出ていても、僕は彼女を愛せない、気持ちだけじゃなく近づくと体調が悪くなるしね、全身が彼女を拒否してる…とても番とは思えない。僕の番はラディだと思う。さっきだって意識のないラディと体液の交換をしたら回復しただろう? それは番だからだ。

だけど、僕がこの感情を優先させた場合…ラディを苦しめる、愛人にしてしまう事になる、それが辛い。僕がラディに苦しみを与えるなんて耐えられないんだ」

「違う、苦しみじゃない。幸せな思い出を胸に生きていけるの。だから…お願い、愛しているの。今だけは側にいて?」


「…、今だけなんて言わないで? 本当はとっくに禁忌を犯す覚悟をしている。だって標をつけたのは、どこにいてもラディを知るためだもん。有難う ちゅ 好きだよラディ」


ベッドに腰掛けラディージャの頬に手を当てた。

「温かい、大好きだよラディ。僕の最愛、永遠の愛を君に捧げる ちゅう」

「優しくてどんな時も私の傍にいてくれるディーンシュト様 心より愛しております。運命が2人を引き裂こうとも私の想いはあなた様だけのものです」


ぎこちない愛撫、本能から互いに無我夢中で求めた。

不安がないわけじゃない。

過去に番がいながら、他の女性を愛した男の例などどこを探しても出てこなかった。番はきっと天竜様のお導き、それに叛いて今後どうなるかも分からない。だけど互いに他の誰も代わりにはなれないと、もう理解してしまっていた。共に堕ちる覚悟を決めた。

だからこれは誓いだ、何があろうとも決して離れないと言う誓い。


ディーンシュトはラディージャの身体中にキスの雨を降らせる。汗ばむ体、不思議と唾液だけではなく汗も次第に甘さを含んでいく。脳が蕩けていく…全身の血が滾り、ラディージャが欲しくて欲しくて飢えてくる。声も体温も匂いもディーンシュトを昂らせる。


媚薬だ、彼女の何もかもがディーンシュトから冷静さを奪っていく。


ラディージャも今までに感じた事ない感覚に襲われていた。

身体中がディーンシュトを渇望する。

いつもは優しいディーンシュトが、欲望に満ちた目で自分を欲しがる。それに体が歓喜し応える。ディーンシュトの吐息がかかるだけで何とも言えない気持ち良さ、体をそわせる手はゾクゾクさせる。ラディージャもディーンシュトが欲しくて欲しくて気がせく。

肌が重なり気持ちを添わせ心の奥が満たされていく。ディーンシュトが与える刺激は実に甘美で欲望には限りがない。


拙いながらにも夢中で互いを貪り、スパーク。

「「うっ!」」

心臓が痛い!!

だがその痛みはすぐ消え、力が漲る。

魔力が湧いてくるような、魔力の純度が増したような、不思議な感覚。


「ああ、これがそうなんだ」

「何? これが何か知ってるの?」

「僕ね、どうしても僕の番はラディだと思うんだ」

ラディージャは辛そうな顔で下を向く。

「だから色々調べた。番がいながら他の女性にこれ程までに惹かれる事があるのか、番以外の女性と結婚した人はいるのか、番を嫌悪する人がいたかどうか、同じ魔法刻印が複数現れた事があるか」

「どうだった?」

震えながら不安そうに聞いた。

「欲しい答えは無かった。つまり前例はなかったんだと思う。だけど、番と結ばれた時の事が記載されていた。番と結ばれると今みたいな感覚になるってあった。心臓が痛くなったでしょう? あれは互いの心臓に番を刻み込むんだって、それにこんな風に力が湧いてくるのは番と結ばれた時だけなんだ! やっぱり僕たちは番なんだ!!」

「ほ、本当? ……本当かな? そうだったらいいな、ディーと番になりたい、なりたいよぉぉ! ディー、大好き誰にも渡したくない」

「うん、うん、僕も僕もだ! ラディは僕のもの、他の誰にも渡さない!」


ディーンシュトは自分の魔法刻印が刻まれた手の手袋を外した。

そこには驚くべき事が起こっていた。

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