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12、確定−1

翌朝になるとまたマリリンが医務室に突入してきた。


「おはようございます。ディーンシュト様は如何ですか?」

『それで見舞いのつもりなのだろうか?』

夜会服程ではないが、煌びやかで目に優しくない装いだった。


「ああ、だいぶ良くなったから寮に戻ると言って帰って行ったよ」

「まあ! なら今日あたりは一緒に出掛けられるかしら?」

「どうかな? 部屋で寝ているか、休暇に入るから家に戻るのではないか?」

「ええー!! つまらない! こんな筈じゃ無かったのに!!

あ! そうだ、ラディージャさんはどうしました? もしかして一緒に帰りましたか! あー! 今頃2人一緒にどこかで…うぅぅ 酷いわ…私の男を奪う気なんだわ」


「ビーバー嬢、静かにしてもらえるかな、何度も言うがここは病人が来るで具合の悪い人間が寝ているんだ。理解してもらえないから何度も言うが静かにしてくれ。

あー、それからカラッティ嬢はまだそこで寝ている。くだらない妄想も結構だが、最低限のマナーは守って貰いたい。用はすんだろう? さあ、帰った帰った」


ラディージャにもディーンシュトにも特別な思い入れはなかったが、実際にこうマリリンと相対していると嫌気がさして、苦しい思いをしている2人に肩入れしたくなってしまう。


「その前に本当に寝ているか確認させてください!」

ゲンナリする。

閉まっているカーテンを開けて突入する。

そこには目を閉じたラディージャが眠っていた。

「あら、本当ね…」

見回しても他に使用中のベッドはない。

シャーー!

カーテンを閉めてマリリンが行った気配がした。

だけどラディージャは胸がドキドキして暫くしても目を開けることが出来なかった。

結局、タッカー先生が声をかけるまで寝たふりをしていた。


「先生、色々とご迷惑をおかけしすみませんでした」

「ん、もう大丈夫か?」

「はい」

「そうか、まあアレだ、頑張れよ」

「はい」


寮に戻ったラディージャは予定通り旅に出ることにした。

従者を付けることも出来ないので、少年に変装して旅に出た。

大半の者が家に帰ったり、友人と別荘に出掛けたり、寮に残るのは家が遠い僅かな者だけ。


ディーンシュトもマリリンの行動は予測できた。

実家に帰ったとなれば実家に押しかけてくるだろう。寧ろ寮にいた方が男子寮に入り込めなくて都合が良かった。そしてコッソリ気晴らしが出来れば良いと思っていた。




ラディージャは最近『天竜樹』の所へ行けていなかった。と言うのも、母に魔法刻印の出ない娘など恥ずかしいから、『天竜樹』の所へ来ては行けない、目立つ行動はしてはいけないと言われていたからだ。それでもカラッティ侯爵家の者が来ない時間帯を狙って行っていたのだが、ここ最近は『天竜樹』に関する神事が続いていた為、カラッティ侯爵家の者が誰かしら常駐しているので行くのを控えていた。


『旅に出る前にご挨拶だけしたかったな…。でも仕方ないわ、帰ってきてから旅の話をしましょう』




その頃の王宮は130年ぶりの吉報に沸いていた。

『天竜樹』に花芽が付いていることが確認されたのだ。

この国は元は魔獣が闊歩する魔素が噴き出す、人間の住みにくい環境だった。

そこで大昔、『天竜』様に祈り、魔獣がいなくなり人間が住めるように願った。それに応え頂いた1本の苗木これが『天竜樹』だ。


『天竜樹』の生育と維持には膨大な魔力が必要となる。

その為、神殿には毎日順番に数名の貴族が呼ばれ、魔力を採取し『天竜樹』に魔力を捧げるべく、神殿の『天竜珠』に捧げ奉納している。

『天竜樹』は結界の核になっているのだ。この木を起点にこの国は魔獣から護られている、こうして人間は安心して生きられるようになった。何よりも大切な御神木。

この国の高位貴族たちが番によって結ばれ、魔力の強い子孫を残そうと根付いたのはこういった背景もある。

その『天竜樹』に文献上130年ぶりについた花芽。

『これは何か慶事の前兆ではあるまいか!』

そう言って人々はこの慶事を喜び、遠目からでも見られるように公開もしていた。

それもあってラディージャは更に近寄ることが出来なくなった。



「レイ、今回は何が起きたんだろうな?」

「ん? 『天竜樹』のことか?」

「ああ。この130年特に変えたことは何もない。それがどうして急に…花芽がついた?」

「んー、何だろうな! まあ悦ばしい事じゃないのか?」

「まあな、悦ばしい事ではある、あるのだが…同時に不安にもなる。原因がわかれば少しは喜べる気もするのだが…」

「王太子殿下は心配性ですね。素直にめでたいって喜びゃーいいのに」

「そうは言うが、これで『天竜樹』が枯れる前兆だったらどうだ? 花が咲くって時に枯れたら? 原因が分かっていれば対処も出来るが、分からねば対処のしようもないって事だ」

「なるほどね…。でも もう探らせたんだろう?」


「ああ。ここ数年魔力を採取した者たちは過去5年捧げたことがある者たちだ。特に新たに加わった者はいない。それに神事の際は神官しか近寄れない。『天竜樹』の管理は魔力量の多いカラッティ侯爵家が役目を賜ったその日から変わらずに行っている。

だから不安なのだ、何も変わらないのに変化が起きた。この花芽は果たして本当に慶事なのか、とね」


「そうかもな。まあ、取り越し苦労で済むように警備を強化させておくよ」

「ああ、頼む」



この国は『天竜樹』の存在により、魔獣に怯え暮らすことはなくなった。だが、一方で安全になった故に、光魔法以外の魔法を行使する機会も失われていった。今、『天竜樹』を失った場合、果たしてどのくらいの人間が魔獣が存在する中で生き残れるのだろうか…。魔法訓練は学院時代には授業の一環として熱心にするが、卒業した後使うことはない。騎士たちは訓練はしているが、実戦では使ったことがない者が大半を占めている。この国では魔獣が出ないのだから。平和ボケしている今の者たちが順応できるか、不安ばかりが募るジョシュア王太子だった。



ラディージャは簡素な少年の服で辻馬車に乗り出発した。

しかしこれは大変危険なことだった。

例え女とバレなくても、こんなに綺麗な少年なら拐われても仕方ないのだ。だから、気配を殺してラディージャは目的地へ向かった。



ディーンシュトは王宮図書館へ行き、番・魔法刻印について調べていた。


過去に番以外にも同じ魔法刻印が出たことがあるのか?

番に対し嫌悪感を示した者がいるかどうか?

番がいながら他の異性に惹かれた者がいるかどうか?


どの本を紐解いても知りたい内容は書かれているものはない。

番とはやはり唯一無二の存在。

どの文献も大体似たことが書かれている。ただ、気になるのは番を得た際のことや失った時のこと。どれを読んでもそれらは自分とラディージャの症状そのものだった。


『やはり僕の番はラディなんだ!』


そう確信するものの、疑問は2つ。

何故マリリンに僕と同じ魔法刻印が出たのか?

何故ラディージャには魔法刻印が出ないのか?


そこで、高位貴族やカラッティ侯爵家で魔法刻印が出なかった者がいるか探してみた。

ただ系図が図書館に有るはずもなく、一般的な話として、番との間に子を持てず魔法刻印のない者と再婚し子供を得た際に魔法刻印が出なかったことがある。つまりその系図に魔力量が少ない者との間に子を儲けた事がある場合のみ確認された。ただ直系は魔法の指輪『メルガロ』があるので子供だけ作っても意味がない。つまり番以外で子供を求めたのは傍系のみ。それから考えるとラディージャに出ないとは考えられない。ラディージャの家系は『天竜樹』を管理する家柄で魔力量も多い、それにラディージャ自身も魔力量は多いと判定された、つまり絶対にラディージャに魔法刻印は現れるはず。


『ラディの魔法刻印は……何になるんだろう? 僕と同じだよね?』

探した本の中に明確な答えは見つからなかった。



マリリンは実家に戻っていた。

マリリンのビーバー男爵家は領地を持っていない、王都にしか屋敷がないので寮に留まらず自宅に戻った。

寮に1人でいてもつまらない。どこに行くにも申請し許可が必要となる。その上、門限もあるし食堂も時間制限がある。だから自宅に戻ったのだが、家に戻れば父親の仕事の手伝いをさせられたり、母親のお茶会について行って良い男を捕まえなければならない。男の子にチヤホヤされるのは楽しいけど、おばさんの長い話に付き合うのは面倒臭い。だけどこれも自由のためには仕方ない。


最初、寮に残ってディーンシュトとデートしようと思ったけど、いつも寝たきりでつまらない。看病でもさせられたら面倒なので、2週間と短い休みを1人で謳歌することにした。


食事の後 父に呼び出された。

「なあにお父様」

「明日の午後、魔法省の職員が魔法刻印を確認に来ることになった。準備しておきなさい」

「はい、分かりました」

とうとう確認されるのだ。

「いいな、分かっていると思うが、余計なことは言わないように」

「分かっていますわ お父様」

父の余計なこととは『私の番の相手は誰か』ってことだ。間違っても『私の相手は誰ですか?なんてはしたない事聞くな』そう、釘を刺された。もう分かっているんだから聞かないわよ。


魔法刻印は魔法省の者が確認の上、魔道具に複写し持ち帰る。

それを登録してある異性の魔法刻印と比較確認し同じものがあれば記録し、双方に伝える。

魔法属性は色でも分かるが、金や銀や黒は分からないので魔道具で確認する。


『えーっと、魔法省の人に確認を受け登録が済むと、ディーンシュト様の家から婚約の手続きが来て、正式に婚約者になるのよね? それで手続きが済めば……今後は婚約者として買い物し放題!! 長かったわ! これで誰に文句を言われることもない! もう、お父様もサッサと魔法省の人呼んでくれれば良かったのに!』


「ふんふん らららーん」

鼻歌混じりに準備をする。

『でもなんで魔法刻印の承認を受けない人がいるんだろう? 結婚したくない人?』




ラディージャは近場でカランビラなどが自生している山まできた。

まるで境界線があるかのように、ある地点から様相が変わった。

空気が別に流れている…そうだ、やはり境界線がある。そこで空気が跳ね返り循環している…結界だ!

ここは誰かが張った結界の中。

でも普通に入れた…では 何のための結界?


キキキキキキーーー


『うわっ! 何!?

猿っぽいけど目が赤くて尻尾が4本もある。

あそこには蛇っぽい長い体に足が6本ある。

うぉー! 顔が前にも後ろにもある狸?


魔獣…?

そうか、ここは魔獣が棲む山なんだ。もしかして『天竜樹』様の結界?

ん? でも見ているだけで襲っては来ない?

こんな所に生えてるの!?

どうしよう、帰るべきだよね…私には魔獣に襲われても自分の身を守ることができない。きっとここで死んでも誰も気づいてもらえない。

帰るべき………。

でも、薬師として生きていくには他の店とは区別されるよう特色を出さなければならない。他にはない商品、特級ポーションは目玉となる。低級ポーションしかない店では客数を獲得するために低価格で売るしかなくなる、きっと店の経営はジリ貧だ。

1人で生きていくためには必要、ここまで取りに来るのでは無く生育条件さえ分かれば自分の畑で作れるかもしれない……行くしかない!』


ラディージャは結界に覆われている魔獣の楽園に足を踏み入れた。

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