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夏は過ぎた。季節は秋にかかろうとしている。季節が変わろうと、街を歩く人々の脚は止まらず、変わらず、光景は一緒だった。
街の駅を出てすぐの巨大なディスプレイ。高いビルの側面は、人々に時事ニュースを提供するには打って付けかもしれない。耳に届かない人の方が多いとは思うが、と日和は思い直す。
今日も物騒な事件は絶えない。その巨大なディスプレイには、そんな物騒なニュースが映っていた。
なんでも、臨時で来ていた特別非常勤講師が、男子高校生を殴って依然行方はつかめていないだとか。体罰でこんなに話題になってしまうとはいささか狭い世界になったものだ。ちょっとやそっとのことですぐ全国区で話題になる。なったらなったで冷めていくのも早いが、そこまで話題にしなくても。メディアや報道局も話題を引っ張ってくるのが大変そうで。と蔑みながら見ていたのだが、続けて物騒なニュースが流れる。この特別非常勤講師、重罪だった。高校生を殴って、更に、一般男性の浅岡さんを刺し殺して逃走中だとか。罪を二つも重ねている。こりゃまた物騒なこと、と右から入ったニュースは左に抜けていった。
殺人は完全にあれだが、最近はSNSでちょっと発言しただけで叩かれる時代になっていた。間違いを肯定するわけではないが、過ちを犯さない完璧人間なんていないだろうに。それを手厚く叱咤することで、その人は深く落ちていく。再起不能になり、才能があったかもしれないその人は溺れていき、才能のない一般市民が量産されていく。量産型人間の助長だろうと思うが、皆自分が生きることに精一杯だ。つまりそれが正しい。生きることが正しいのなら、他人を蹴落とすのも仕方のないことかもしれない。されたくなかったら自分がそいつを打ちのめすまで。徹底的にやらないとやり返されてしまうのだから。
日和は未だに誘拐もどきを続けていた。彩に指示された自宅へ行き、指示された人間を掻っ攫って殺す。殺すところまではまだしていないが、それも時間の問題だった。本来攫ったらすぐに殺す手はずになっていた。彩にばれたらなんと言われるかわからない。
数にして五、六人程度。彼らはまだ生きているだろうか。餓死してくれるに越したことはない。こんな自分でも、人を殺めるというのは、できればしたくないことだ。
そんな日和の心の声を誰かは聞いているかもしれない。だって渋谷だぜ? 人しかいないじゃん。誰か一人ぐらいは聞いてるよ。
そう高いところから見下ろすディスプレイに向かって呟く。
「じゃあ行こうか」
日和たちは改札を抜けた。