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アパートに戻ると、部屋はビールやら焼酎やらの空き缶がそこら中に散らばっていた。昨日一日部屋を空けただけでもこんなに汚くなるとは末恐ろしい。浅岡は「女房なんかいらん」といつも声を大にして言っているが、どう考えたら一人で生きていけると思ったのか不思議に思った。一番一人で生きていけない人の典型で、誰か、常に身近にいる人を一番必要としているはずなのに。
カラーボックスの引き出しの中からビニール袋を取り出す。その中に一つひとつ空き缶を放っていった。
群青自身、掃除が好きな訳ではない。極端に綺麗好きという訳でもない。極端な話、部屋がこのまま汚いままでもいいのだ。でもそうさせないような雰囲気が自分の中にあった。何かしていると気分が落ち着く、というのも一つの理由かもしれない。目的ややらなければいけないことは目と鼻の先にあるのに、やりたいことよりも優先して掃除をすることがよくある。それは酒や煙草と一緒で、結局は自分がやりたいと思っているだけであって、本当は目の前の本質から逃げたいということなのだろう。
一通りゴミは片付け、玄関先にサンタさんの袋みたいに丸くなったゴミ袋を置いた。部屋に戻り、中央に置かれた安価なテーブルの前に座った。テーブルの上にはノートが広がったままだった。浅岡が散らかしていたせいで、見えなくなっていたのだ。
部屋の空気は淀んでいた。酒臭い……。窓を開けた。日差しが入る。またテーブルの前に座る。
開かれていたノートをぺらぺらと捲る。最初のページ以外、ほとんど文字しか書かれていない。型が崩れた横書きの単行本の様だった。我ながらよくこんなに文字が書けたものだと感心してしまうくらい。
最初のページ。必ず一日に一度は目にする。そこに張り付けられた女子の写真は、どこにでもいる普通の女の子だった。制服姿が年齢に相応している。猫顔と呼ばれるような顔立ちで、整っているのに表情は硬い。卒業写真のような横顔。涙袋が嫌に黒かった。
この写真を見ていると、ついつい情が入ってしまう。可哀想だ、と底辺の人間から慰められる彼女も大したものだ。きっと群青が彼女に面と向かって「可哀想」と呟けば、「むかつく」という感情を表情に出して、いつも以上に強張った表情になって去って行くことだろう。
群青は仰向けに倒れた。六畳一間のアパート。浅岡と暮らすには狭いのかもしれない。でも狭くはない。群青にとって、この部屋は狭くなかった。