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「ほら。愛すべき人が、自分を臆病者にしたって桜井和寿も言ってるだろ」浅岡は、ファミレスの店内に流れていた曲に呼応するように、歌を口ずさんでいた。
「誰かに恋に落ちるのはいい面ばかりだけど、一歩間違えば線路の下に沈んじゃうんだぜ」
「線路の下?」
「自殺の例えだよ。人身事故って言ったら線路だろ? あそこで自殺者は人生を終える訳なんだから、みんなあそこに沈んでんだよ」
自殺の例えだということはわかったが、それが恋に落ちることとどう繋がるのか群青にはわからなかった。
「恋に落ちると自殺しちゃうんですか?」
「そういうこともあるって話」
フォークに絡まったパスタは、浅岡の口に運ばれていく。丸ごと一口で食べた後、水をまた豪快にゴク、ゴク、と喉を鳴らして一口、二口。そして机にバンっとグラスを置いて、「で、どうだったんだよ昨日」と視線を向けられる。
「昨日って、なんかありましたっけ?」
「とぼけんなよ。ピンサロに連れてってやったじゃねーか」
「ああ」連れて行ったって自慢げに言う割に、浅岡は自分の分の金しか払わなかったよな、と昨日のことを顧みる。
群青は溜息をつく。「あの後、浅岡さんいなくて探し回ったんでくたびれました」
「お前、携帯持ってないもんな。今時公衆電話なんて珍しいわ」
またくるくるとフォークに絡まったパスタが口に運ばれていく。
「で、どうだったんだよ。いい経験になっただろ?」
そう言われても、いい経験だったのかどうかは群青にもわからなかった。今となってはぶっちゃけどうでもよくなかった気もするし、でも、昨日の店内に入った時点ではどうでもよかったのかもしれない。
曖昧な表情で考え入っていたせいか、群青が質問に対して応えるより先に、浅岡は答えを言ってしまった。
「あいつにだけは惚れんなよ」




