モリエールの人間ぎらい
モリエールさんは人間が嫌いだ。
醜いから、と言うのだった。
─第1幕─
「あーら、モリエールさん。ご機嫌いかが?」
部屋に入って来るなり、エブゴアキガキ伯爵令嬢のスプーンさんが愛嬌を振りまいて、言った。
「最近なんだか考え事ばかりしてらっしゃるとお聞きしましたわ。何のインテリジェンスなの?」
「やあ、エブゴアキガキ伯爵令嬢スプーンさん」
モリエールさんは立ち上がり、挨拶をすると、丁寧に席を勧めた。
「なんだか僕の友人のヒヤステキテスがそんな噂を広めているようですね? 僕は以前から何も変わりませんよ。ただちょっと……」
ス「ちょっと……なんですの?」
モ「最近、少し悩み事が多いことだけは確かでしてね」
ス「まあ! よろしかったら相談に乗りましてよ? 聞かせてご覧なさいまし」
モ「好きな女性がいるのです」
ス「まあ! 恋バナ! 素敵!」
モ「しかし……。その女性の心が大変に醜いのです」
ス「あら、まあ……(笑)。どんな風にですの?」
モ「『ざまぁ』が好きなのです」
ス「『ざまぁ』……とは?」
モ「自分を辛い目に遭わせた相手に主人公が仕返しをして、それをスッキリすることを読者が楽しむ類いのドラマのことです。最近、そういうものが流行っているそうなのです」
ス「それで?」
モ「あまりに醜いとは思いませんか? 他人を辛い目に遭わせるような、そんな低劣な輩など相手にせず、ただひたすらに自己を磨いて行くのが正しい人間というものだ。自己を磨くのは、己の優位を他人に見せびらかすためにするのではありません。ただひたすら、神の道を往くためにのみするのです。低劣な輩に己を見せびらかすのは、その低劣な輩と同レベルの者がする行いだ。そんなものを好きだという彼女に、僕は目を覚まさせたい」
ス「はあ……。て、低劣ですの、それ? 普通だと思いますけれど」
モ「あなたも低劣な人なのですね」
ス「はああっ!?」
モ「出てお行きなさい。僕は低劣な人間は嫌いだ! 帰れ!」
自分から立ち上がると、呆れたような顔をして伯爵令嬢は部屋を出て行った。
─第2幕─
モリエールは今日も自室で椅子に座り、考え事に耽っている。
そこへ友人のヒヤステキテスが入って来て、話しかける。
ヒ「やあ、モリエールくん。エリエール嬢との恋は進んでいるかい?」
モ「ヒヤステキテスか……。彼女は僕の女神なんだが、どうにも内面が醜くすぎてね。僕が正しいところへ導いてあげないといけないと思っているところさ」
ヒ「またそれかぁ。少しは許す心も持ちなよ」
モ「僕は君のことも許してはいないよ。僕がこの前発表した美しい詩に★1をつけてたろ?」
ヒ「あっ。バレた?」
モ「君には僕のあの詩の崇高さがわからないんだ。醜い心の君に★1をつけられたって僕は何とも思わないよ。でもね、君を導きたいとは思う。神の、正しい国へ。そのために君がするべきことはまず、僕のあの詩に対する評価★1を取り消して、満点の★5につけ直すことだ」
ヒ「ごめん。あまりに中二病臭かったから」
モ「醜い君に何を言われたって構わないよ」
ヒ「顔が震えてるぞ?(笑)」
モ「出て行け」
ニヤニヤ笑いを浮かべながら、ヒヤステキテスはモリエールの背中をひと撫ですると、鼻唄を歌いながら部屋を出て行った。
─最終幕─
モリエールが思いを寄せるエリエールが部屋に入って来た。モリエールが途端にソワソワし始める。
エ「こんにちはっ! モリエールさん」
モ「こ、こんにちは……」
エ「ねえ! あたしとヤりたい?」
モ「えっ!?」
エ「貴方、あたしのこと好きなんでしょ?」
モ「そっ……、それは……(モゴモゴ)」
エ「じゃ、やろうよ!」
モ「エっ、エリエールさん!」
エ「あんっ♡」
モ「……じゃなくて! 君はさせ子なんですかっ!? よろしい。構わない。この僕が神の国を説き、君を内面まで美しい女性に教育してさしあげましょう」
エ「やめちゃいやあっ」
モ「あっ……」
エ「うりうり」
モ「ぎゃああああっ!」
エ「うんこぶりぶり〜」
モ「ぼっ……、僕はっ……! すべての人間が嫌いだあああっ!」
ヒヤステキテス「よーしエリエールさん! 二人でこの糞真面目男を教育してやろうぜっ♡」
エ「まあ、楽しそう!」
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作者「あれっ……? こんなのが書きたかったはずじゃないのに……_| ̄|○←心まで汚れきったやつ」
モリエールの作品『人間ぎらい』とは関係ありませんm(_ _)m