眩暈
宿場町では、今日も異形の者が、格子の内側で花札をやっている。
小鬼が梅の枝を持ってきて、首をかしげるころに月が嗤っている。
季節は移ろい儚げで、蔵の裏の川では人魚がぴちゃんと尾をひるがえす。
小鬼が、街道沿いで、タップダンスを踊っている。
振り袖姿の亡霊が、電柱の下で、美しい舞い。
古い茶箪笥に隠しておいた蝋燭を、今宵灯そう。
誰もゐない夜の宿場町で、裸足で踊るのさ。
酔狂な夜に、骸骨の骨。花弁が浮かんだ水槽に、身を沈めると、
かすかに、懐かしい何かを思い出した。
巡る巡る、輪廻。
握った手に、木漏れ日が。
そこかしこに、懐古の入り骨。
抜き足差し足で、昇った二階には綺麗な毬が。
たった今まで、鬼がこれで遊んでいたんだよ。
本当だよ、そう言って、鬼やらいを呼ぼうと、無邪気に嗤う美しい兄。
祭りの日に誰にいう事もなく、神隠し。
元気ですか?また夏が来ます。
ねえ、どうして、人は死ぬの?
懐かしい声がして、眩暈が————。
鬼は、宿場町のそこかしこ。
お盆の頃になって、夢の中。
あなたは、生きていていいのよ。
そう言って、あなたは、彼岸の彼方。
波が揺れて、かそけき木霊が位牌の片隅から、聞こえてくる。
微かなリフレインに、既視感を覚えて、僕も彼岸。
遠い夏は夢の彼方に。
耳の中に、ぞろぞろと百足が入り込んで口から小さい駒が飛び出た。
駄菓子だらけの夢の中で、夏はもうすぐだよと誰か懐かしい声が聞こえる。
線香の香りの仏壇の間で祖母の背中が小さく見える頃、
蝉の鳴き声が、滝のように私の背中で鳴いている。
ドクドクと、鼓動が夏を呼び覚ます。
亡くした南京錠には桜紋。
はっと灯りを落としそうになって、よくよく見て見ると、茶箪笥の奥には、
幼い妹の乳歯が落ちている。
季節はいつでも、夏。夏を待ちわびているんだ