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途中で納戸に寄り、懐中電灯を探した。暗闇の中手探りではあったがすぐに見つかったものの、それが使い物になるか不安だったが幸い問題なく電気は点いた。
足元や周りを照らしながら繭さんの元へ急いだ。
扉をノックし、声をかけた。
「お湯の用意が出来ました。まだ停電が続いているので、お風呂場まで付き添います」
廊下を照らし、繭さんに歩調を合わせて風呂場まで誘導した。
「ここに懐中電灯を置いておきますので、部屋に戻るときにお使いください」
脱衣所の棚に懐中電灯を置き、逃げるようにそそくさと風呂場をあとにした。
まだ停電は続いていたので辺りは暗かったが、そのうちに目が慣れてきて、壁伝いでなくともゆっくりであれば廊下を歩けるようになっていった。
「ん?」
部屋へ戻る途中で足元が少し湿っているのに気がついた。
(雨漏りでもしているのかな?)
古い洋館は人を拒むように手入れを嫌っていたので、痛んでいる場所も所々あった。
(明日以降、雨が止んだら庇や屋根を調べてみよう。教授がお帰りになったら、晴れている日に修繕する許可をもらうようにしよう)
廊下の湿りは教授と繭さんの部屋の前まで続いていた。
いや、部屋の前から始まっていた。
(部屋の中に雨漏りが?それか雷と停電に驚いた繭さんが窓を開けて雨が振り込んだのかも……)
そういえば風呂場へ向かう繭さんの足元が濡れていたような気もする。ひたひたと足音も聞こえた。だがあまり詮索をするものではない。
「あ」
自分の部屋にたどり着くと、途端に外が薄ら明るくなった。
「復旧した!」
僕は外からの仄かに滲む明かりを頼りに台所へ向かい、ブレーカーに手をかけた。
ゴォウゥゥン!
ブレーカーを戻すと同時に、教授の部屋の方から何らかの機械音が響いた。
「……なんの音だろう?」
気になって部屋の前まで様子を見に行き耳を澄ますと、中からさっきとはまた違う音が聞こえてきた。
(こぽ、ん……)
音の発生源が気になり、部屋の前でどうしようかと思いあぐねていると光がこちらを照らし、暗い廊下を念のため懐中電灯を使って戻ってきた繭さんに遭遇した。
「大丈夫です……この部屋のものは停電したときの対応が出来るようになっていますから……」
僕が何を不安がっているのかがわかっている様子で、繭さんは言い聞かせるように言った。
「ありがとう。私は平気です。おやすみなさい」
そう言うと繭さんは薄く扉を開け、滑り込むように中に入って行ってガチャリと鍵を掛けた。部屋の前の足元には、風呂上がりの繭さんの髪から滴り落ちたであろう、真新しい水滴が落ちていた。
僕に不貞を働く気など毛頭ない。
繭さんもそれを疑ってはいない。
少なからず教授も僕を信用しているからこそ留守を預けたのだ。
でも今、明らかに繭さんの方から何かを拒絶された気がした。
「……おやすみなさい」
ドア越しにあいさつをし自分の部屋に戻ったあとも、あの『ゴォウゥゥン』という機械音や、謎の音が耳に残っていてなかなか寝付けなかった。
外が白み始めた頃には、雨はすっかり止んでいた。