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教授の家は、日本の自然豊かな周辺の環境には似つかわしくない洋装の家で、外国かぶれだった教授の両親から相続した物だと聞いた。
家の裏手には、個人で使っているという研究室が建て増しされていた。
同居が決まってすぐに、教授から妻だと紹介された女性は二十五だと聞いていたが、その見た目は歳よりも若く、幼く見えた。
しかし時折瞳の奥に、恐ろしくもある、艶めかしい光を感じることがあった。
「繭」
教授が彼女を呼ぶ声は、甘く、すがるような声色だった。
普段の教授からは想像もつかないほどの溺愛ぶりだった。
大学内での噂によると、教授には若くして亡くなった前妻がおり、彼女は後妻なのだそうだ。
憚ることなく、教授は僕の前で彼女を愛おしそうに頬を寄せ、その透き通るように白い手を優しく包んで撫でた。
「先生」
彼女は夫である教授をそう呼んだ。
繭さんは元教え子で、彼女がまだ在学中に結婚したのだそうだ。
「繭は、少し身体が弱いんだ……」
教授は講義以外の時間のほとんどを、繭さんの病気を治すための研究にあてているのだという。
僕はその研究の資料集めや、授業に関する書類の整理などを任されていた。あとは時々簡単な食事や掃除を手伝ったりで仕事自体は何も問題なく、むしろこの程度の働きで給料が貰えることに恐縮していた。
「繭の話し相手になって欲しい」
家にいる間も教授は研究室に籠ることも多いため、病弱で外に出ることが出来ない繭さんのために、僕が話し相手になって欲しいということだった。
僕という存在の、本当の仕事はこちらの方だったのかもしれない。
繭さんは食事をほとんど摂らなかったが「病気のせいなんだ」と教授からは聞かされていて、あまり気にしなくても良いとの話だった。
それでも時折り三人で、教授の帰りが遅い日は僕と繭さんの二人で食卓を囲むこともあり、思っていた以上に居心地は良かった。