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序
使い古された扇風機の首が、コキンと音を鳴らしながら左右に振れずにいると、汗が噴き出して空間の全てを不快にした。風が通らずむせ返る暑さの取調室で、僕はパイプ椅子に座っていた。
脚のガタついた事務机を挟んで向かい合う刑事さんは、扇子を片手に訝しげな表情で眉間にしわを寄せていた。自分の父親と同じくらいの年齢に見えるその刑事さんと、この数日僕は膝を突き合わせ、飽きもせず何回も同じ話を繰り返していた。
信じてください。
僕が話せるのはこれだけなんです。
これが僕が知っている全てなんです。
これ以上でもこれ以下でもありません。
僕は何かの罪に問われますか。
僕はどうすれば良かったんですか。
何が正解だったんですか。
これは本当に起きたことなんですか。
僕が見ている悪い夢ではないのですか。
僕はいったい何を見たんですか。
夢ですよね。
夢じゃないんですか。
夢ですよ、アレは。
夢じゃなかったら……あんなの地獄ですよ……。
高い位置にある窓には厳重に格子がはめ込まれていた。窓の外では無数の蝉が、重度の耳鳴りのように狂い鳴きしていた。