プロローグ:狂い人
俺の名は、杉白黒斗。高校一年だ。
今年から高校生活が始まった訳だが、絶賛不登校中だ。
別に学校がイヤ、って訳ではない。
イヤで行かないのではないんだ…
なんと今日はリア充爆発デイなのである。
そんで、何が神聖な夜だ。
今俺は歩道を歩いているが、あちらこちらに爆破対象が目に入って来る。
別に羨ましいわけではない。
暗い過去を思い出すのが怖いだけだ。
そうだ、今日は家族にケーキでも買っていってあげようかな〜、なんて…
薄暗くなった道を歩いていくと、一棟の寂れたアパートの前に着いた。
ただいま〜って誰もいないけど。
このアパートには自分一人で住んでいる。
高校一年生が一人暮らしをするのは珍しいだろう。
それもそうだ。
両親を事故で失い、挙句の果てに妹までも失った高校一年がどれだけ少ないことか。
俺の知り合いでそんな輩はいない。希少である方が正しく、良いことなんだ。
それでも幼馴染はいる。
今、丁度彼氏と外を歩いてるのではなかろうか。
あ、卵買うの忘れてた。
もう既に暗くなってきている。
早く買いに行くか。
靴を履き、一応玄関の扉に鍵を閉め、気持ち早めに歩き出す。
道中、いちゃつくカップルに遭遇すると言う災難に見舞われたが、それ以外には何も無く、無事卵を買った。
ついでにジュースも。
コンビニから出て、信号待ちしていると、隣に見知った顔があった。
幼馴染みの松林早紀だった。
「あれ、黒斗!久しぶりだね。少し太った?」
「よう、早紀…ってやかましいわ!」
久しぶりの再会に、思わずテンションが上がっていた。
二人は歩道を歩きながら楽しそうに話している。
100kmを超えるスピードで迫る乗用車にも気付かずに…
いち早く気づいたのは早紀だった。
このままでは黒斗が轢かれてしまうだろう。
迫る乗用車が減速するそぶりすら見せない。
運転手が気を失っているのだろう。
早紀は考えるよりも早く黒斗を突き飛ばした。
刹那、迫った影が黒斗の目の前を通過する。
遅れて鈍い音が響く。
黒斗は唖然としていた。
目の前に起きた事に頭が追いついていないのだ。
「おい!あんた!!大丈夫か!!怪我はないのか!おい!へんじし…」
遠巻きに今起こった事目撃した者がすぐさま駆けつけて、黒斗に声を掛けた。黒斗は無限の牢獄から解放された気分だった。
黒斗は思い出した様に車が通り去った方向へ走り出した。
「ッ!!!!」
黒斗が目にしたのは、両腕と右脚を失った幼馴染みの姿だった。
「早紀!!大丈夫か!!返事しろ!返事しろよ!!!…お願いだから……なんか言ってくれよ!!」
彼女は……
「…なんで……なんで、俺を助けたんだァ!!……俺を見捨ててれば!助かれただろ!!」
「………あ…なた…に………く…ろ……と…に……たす…か……って…ほし…かっ……た………」
「なんで俺なんだ…お前には彼氏だって、大切な人がいただろ!!どうしてなんだ……」
「……あ…な……た…が………す…き……だ…か…ら…………………」
「早紀!!」
もう既に……
「っう……っう………っう………………」
彼女の目に、黒斗の姿は映っていなかった。
◇◇◇
いつからだろうか。
...あれから二年、俺は多分変わった。
俺は、悲劇の主人公になりたい訳じゃあない。
誰だって幸せな方が良い。
俺は……幸せになり損ねて………悲劇に囚われた。
もう、何度も狂った。狂い狂い狂い狂った。
悲劇は常に幸せと並行して現れる。
その不幸が俺に少し多いだけの話なんだ。
その少しの不幸で、全てを失っただけの話だ。
母親、父親、妹、幸せだった暮らし、家族という温もり、そして、幼馴染み。
俺からどれだけ奪われたのか。
怒りという感情、喜びという感情、悲しみという感情、楽しいと言う感情、感じることはない。
俺は、どこまでも続く森を見た。
今までの苦しみが…痛みが…消失感が、浄化されていく様だ....
もう、俺に失うものは何も残ってない。
次こそは....
俺は、空に身を委ねた。
―――――――――――――――――――――――――――
【調査書 no.⁇⁇】
2???年?月?日(月曜日)
???線沿いの崖の下に、何者かの白骨化した遺体があることが、通りかかった者の通報により発覚。
崖に風雨で汚れたと見られる乗用車と靴が置かれていた為、自殺と見て捜査した。
遺体の手には、遺体の人物のものとみられる指輪と同じ指輪、計二つが握られていた。
発見された遺体の身元は、高校二年杉白黒斗とみられる。当時、彼が家族を事故で失った事による不登校だった模様。
追い討ちをかける様に、仲の良かった松林早紀(当時高校一年)を失い、精神に異常をきたしていたと見られる。
以上より、自殺と断定。以後、調査を完了したものとする。
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