異世界転生でチートでハーレムイケメン王子でヒャッハー
日本のお母さん、お元気ですか。僕はとりあえず元気です。
あ、いえ、でもあなたの息子としての僕は、歩道に突っ込んできたトラックに潰されて、ぐちゃどろになっちゃいましたけどね。はは、今となっても悪夢です。
その事故なんですけどね、何か死んだ後に白髭神様が出てきて、「間違えちゃった、テヘペロ☆」してきたからムカついて一発殴っちゃいました。分かりますよね、お母さんも腹立つでしょう?
不思議と神様のクセにちゃんと殴られて、しかも顔腫らしたじいさん、定番のアレくれたんですよ。
『異世界転生させて、前世の記憶も残して、チートなんかもあげちゃうよ』
だから許して☆ってウインクしながら続けたんで一生許さんと思いましたけどね。
とにかく異世界でチートでイケメン、ハーレムですよヒャッハー母さん!
願えるだけ願いました。剣や魔法やレベルやスキル制、経験値や成長率倍増やなんやかや、生まれも王子で勿論イケメン、モテモテ街道まっしぐら!
こうして来世をワクワクしながら僕は意識を失いました。
次に目を覚ましたのは、たぶん自分が生まれた直後です。
最初に目に入ったのはトカゲです。
トカゲです。でっかいトカゲです。
恐くてびっくりして、大泣きしてしまいました。笑わないでください、僕は生まれたての赤ん坊だったんですから。
そのトカゲ、僕が泣いたら「グギャ、ギャキャ!」とか言いながら僕を抱き上げて、母親らしき人に渡しました。
馬でした。
思わずピタッと泣き止んでしまいました。
だって馬ですよ。異世界あるあるの馬獣人(馬耳、尻尾程度の)じゃなくて、モロにリアルな馬が高級そうなネグリジェ着て、つぶらな瞳をウルウルさせてんですよ。
そんで「ブフ、ヒヒン……」とか情感込めて……いやごめんなさい、全然分かんないです。とにかく嘶いて、それにトカゲが「グア、グガガグガガ」って応えて……応えたんだよね? 部屋から出ていきました。
……異種族言語で分かり合えるのかよ。とか突っ込んでも現実逃避です。
はい。僕、分かっちゃいました。何となく意味は分かるんです。「これが私の赤ちゃん……」「やっぱりお母さんが良いんですね」とか話してたんです、この二人。
声に出てるのはほぼ鳴き声で、意味はないんです。つい出ちゃう奴です。お漏らしです。
つまりこいつら、この外見で、ちゃんとした文明人で、同じ国の住人。僕はこの国の人間……生き物……赤ん坊として生まれたんです。
何か急に自分のビジュアル確認が怖くなってきました。
そしてこのタイミングで、父親が入ってきました。さっきのトカゲに呼ばれて来たようです。
ウェルシュコーギー君でした。
俺、コーギー君と馬の間に生まれたんだ……
コーギー君……父親は、母親に抱かれた僕を見つめ、「ワワワン、ワワンキュウ」て母親に話し掛けました。たぶん、「よくやった、ありがとうお前」みたいなこと言ってます。それ聞いて母親、ウルウルしてた目からついに涙がポロリしました。すみません、全然心打たれません。
それからワンワンキャンキャンブヒヒンギャウギャウ大騒ぎして、羊や猿や蛇や亀や色んな奴らがお祝いに動物大集合してきました。
ああ、ここって多民族国家なんだな、って僕は悟りに至りました。
※※※
神様がチートくれるって言ったじゃないですか。
あれ、ホントにそうだったんですよね。
お母さん、僕、この国の王子なんですよ。しかもものっすごイケメンらしいです。馬の体格にコーギー頭のどこがイケメンなのか、僕にはさっぱりですけどね。
その上国一番の剣士で全属性の魔法使いで、勉学だって元の僕から考えられない天才君です。
こんなハイスペック王子様ですから、当然モテモテです。
ええ、動物大集合のメスにモテモテです。
婚約者候補として動物一大ハーレムです。
雰囲気的に、清楚系、お嬢系、お姉さん系、癒し系、委員長系、ツンデレ、お色気、ロリ、ボクっ娘、種々揃ってるみたいです。クソどうでもいいです。
みんな僕に夢中です。
学校に行ったらゴリラ少女転校生を巡って男子生徒同士の争いとか女子の鞘当てとか、揚げ句に婚約破棄騒動とか色々あったようですが知りません知るか。
最近は如何にして彼女たちの求愛を避け、正式な婚約成立を阻むか悩む毎日です。そろそろ僧院への道が見えてきてます。
お母さん、チートって辛いんですね……。
※※※
あれが来ました。
僕も大人になったのです。
なった途端に来ました。発情期。
お母さん、異世界チート転生、ホントに辛い……。
あと数ヶ月で、あなたの息子は父親になります。
思えばまともな異世界転生を書いたことがない。