第6話
司祭に連れていかれた先には広い空間があった。いくつもの木製の茶色の椅子が、左右に等間隔に並べられ、一番奥には両手を開き、瞳を閉じている女性の巨大な像が置いてある。また、その上にはこの空間で唯一の窓がつけられており、窓から差し込む光が女性の像を照らし、とても幻想的な景色を作り出していた。
そして、俺はその像の女性の顔に見覚えがあった。というより、忘れられるわけがない。なぜなら、それは俺をこの世界に送り込んだ、自らを女神と名乗る美しい女性の顔だったからだ。やはり、あの女性がこの世界の女神様なんだな。納得がいった。
「タク君、こちらに。」
「あ、はい。」
司祭に促され俺は女神像の前に立つ。
「ここに跪いて、祈りを捧げてください。そうすれば、女神様があなたに恩恵をお与えになる事でしょう。」
「分かりました。」
そうして俺は跪き、祈りを捧げるように目を閉じた。
瞬間。
聖堂の中は真っ白い光に包まれた。
「こ、これは・・・」
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気が付けば俺は何もない空間に1人でいた。だが、この空間は見覚えのあるものだった。そう、俺がこの世界に送り出される前にいた空間だ。と、言う事は・・・・
「やっぱり居たな。」
「えぇ。あなたの予想どおり、いえ彼の予想通りですよ。本当に、大したものですよ。」
「全くですね。」
時は少々遡り俺がゴブ丸君たちを呼び出した時までもどる。
「それで、ワイズ君の提案ってなに?」
「はい。これは、マスターがこの世界に転生なさった時の話を思い出し考え付いた一種の仮説のようなものですが・・・・・マスターは転生なさる前に自分を女神と名乗る女性と出会い、その女性によってこの世界に転生させていただいたとおっしゃっていましたがここに重要なカギが隠されていると思いました。」
「カギ?」
「ええ。今この直面している問題を解決するカギです。」
「??」
俺はワイズ君の言いたいことがまだ理解できない。見るとゴブ丸君もレイム君も俺と同じような感じだ。まあ、レイム君はきっと呼び出された意味から理解できていないのだろうけど・・・。苦笑いしながらレイム君を見ると、レイム君は相変わらずぽよぽよしていた。もう何も言うまい。
「続けていいですか?マスター?」
「あ、ああ。すまん、いいぞ。」
いかん、完全に違う事を考えていた。すまん、ワイズ君。
「そのカギとは、女神様です。」
「め、女神!?」
「はい。これからマスターが受ける祝福の儀はこの世界の女神から恩恵を受け取るための者です。普通の者は教会の聖堂で祈りを捧げて恩恵を受け取り儀式は終了です。ここでカギとなるのが、この恩恵を与える女神です。この世界に住む者に恩恵を与えるという事は、間違いなくそれはこの世界に何らかの形で関わる神であるはずです。」
「うん。確かに・・・・仮に神と呼ばれる存在が複数いたとしても、この世界の事象に干渉できるのは少なくともこの世界に関係する者であると考えるのは筋が通っている。・・・・・なるほどそういう事か!!」
ここで俺はようやくワイズ君が言っていることを理解することができた。
「この世界に干渉することができるのはこの世界の女神だけ。そして、この世界に異世界の人間を転生させることもこの世界に干渉すること。つまり、明日マスターに恩恵を与える神はマスターを転生させた神である可能性がある、ということです。」
「!?」
ここでようやくゴブ丸君も分かったようだ。
「もしそうなれば、向こう側、つまりは神の方から明日の祝福でマスターに何らかの接触をしてくる可能性がある。」
「なぜ主人に接触するのだ?」
「マスターはこの世界に転生された身、そしてそれはこの世界に元から住む者に恩恵を与えるよりもはるかに強い干渉だ。それだけでも神が、マスターに何らかのアクションを起こすと考えるのは私は十分な理由だと思うが・・・もっと言うなら、マスターが転生させられる時に主だったことを何も説明されていないという事だ。私の予想だが・・・もしかすると女神と名乗った女性はこの祝福の時にマスターにその時に説明できなかったことを言うつもりではないかと思う。」
「なるほど。確かに辻褄はあう。」
「うん。確かに。そして明日の祝福でその女神が出てきたら、何とかしてもらえるように頼めばいいんだね。」
「はい、マスター。しかし、これはほぼすべて私の推測ですから、実際にどうなるかは明日になってみないとなんとも。」
「いや、確かにそうだが、現状その考えにかける以外の手段がない。・・・だからワイズ君の提案にかけるよ。」
そして、現在に戻る。
目の前の女性、女神様は感心したようにこちらを見ている。
「あの、ワイズという名のハイスケルトンは恐ろしく賢いですね。おおよそ彼の推測は間違ってはいませんよ。」
「ワイズ君も喜ぶと思いますよ。なんせ女神さまにお墨付きをもらったんですから。」
ワイズ君を褒められたことに対して少しうれしくなった。やはり仲間を褒められるのはいいな。
「おっと。その口ぶりからするに、俺たちの生活はあなたには見えていたんですね。」
「ええ。もちろんです。私はこの世界を管理、統括するいわば最高神ですから。」
その言葉に俺は思わず目を見開いた。それなりに高位の神様だとはおもっていたが、まさか最高神だったとは。・・・いかんいかん、本題に入らないと。
「えぇ~、俺たちの事を見ていたのなら、俺が何を求めているかはもうご存知だと思います。」
「ちゃんと知っていますよ。」
女神様は微笑んでいった。相変わらずきれいだな。・・・おっとまた思考がそれた。
「なら、話が早いですね!!俺に隠蔽のスキルをください!!!」
俺が元気よく言うと女神さまもにっこりと笑った。
「もちろんダメです。」
「ありがとうござい・・・ま・・・・?今なんと?」
「だからダメです。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!?」
俺の叫び声が真っ白い空間に響き渡った。
「