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そして治癒士の僕は、狂戦士の彼女とパーティを組む

 彼女とカインの治療が終わって、ようやく僕は緊張から開放されました。


 おかげでへたり込んで動けなくなってしまったわけですが。


 仕方ありません。極度の集中状態をずっと続けてた上に、慣れない怪我も(回復させましたけど)したわけですから。


 しばらくすると、街の方から灯りがいくつもやって来ました。僕たちを追って冒険者ギルドから来た複数の冒険者パーティです。

 彼らは周りの大量のゴブリンの死体、それとゴブリンエンペラーの死体に驚いています。


 「ソラ」


 名前を呼ばれたので、声のした方を向くと、カインがいました。後ろにはアイラもいます。


 「もう大丈夫なんです?」


 「ああ、ソラが治療してくれた後、手持ちで残っていた回復ポーションを使ったりもしていたからな。残念ながら、お前たちの戦いの手伝いはできなかったが」


 彼女とゴブリンエンペラーの方に集中していたので、全然気づきませんでした。


 「あの……ソラ。その……カインを助けてくれて、ありがとう」


 カインの後ろに隠れるようにいるアイラが、気まずそうに僕に言いました。


 「俺からもお礼を言わせてくれ、ソラ。ありがとう。お前のおかげで助かった」


 「お礼ならエステルに言ってやってください。彼女がいなかったら、ゴブリンエンペラーを倒せなかった」


 「いや、そうじゃない。俺はお前のおかげで助かったんだ」


 カインは僕の言葉を力強く否定しました。


 「今回、一緒に組んでいた他のパーティの【戦士】(ファイター)は残念ながら死んでしまったが、俺は生き残れた。それは俺が相手の攻撃を致命傷を避けるように受け流す防御方法や、怪我の痛みに耐えて戦うことに慣れていたからだ。その差が、仲間と、俺の生死を分けた。それは……俺がソラと一緒に冒険していたから、身につけられたものだ」


 「それは、つまり……無能と一緒に組んでたから、自分の防御力が上がってた、てことだよね。すごい嫌味だぞ」


 「いや、そういうわけじゃなくてな。本当に、感謝しているんだ。あと、俺は、お前が役立たずだった、とは思ってないからな」


 僕の指摘に慌てるカインの様子に、僕は思わず笑ってしまいました。つられてカインも、アイラも、笑います。

 懐かしい、と言ってもたった2年前だけれど、冒険者を始めた時の、まだみんなが一緒に仲が良かった時のことが思い出されました。


 「なあ、ソラ」


 カインの声色が変わりました。表情も真剣です。


 「よかったら、また、俺たちとパーティを組まないか」


 「いや、アイラは嫌がるでしょう」


 「アイラは俺が説得する」


 どうやらカインは本気のようです。


 「確かに、魔法の盾の防御魔法や支援魔法は便利だ。ただ【治癒士】(ヒーラー)に本当に大事なのはそういうものだろうか。今回、ライやお前と別れて行動してみて、俺は思った」


 座っている僕に合わせて、カインが腰を下ろしました。


 「俺は【戦士】(ファイター)だ。パーティの先頭に立って、仲間を守るために戦う。正面の敵には俺が当たる。代わりに俺の背中は、仲間に任せる。それが盾役だ。なら俺の背中を任せるのは、俺が信頼できる奴じゃないといけない。そう思った」


 カインの言葉に、熱がこもります。


 ああ、そうです。こいつは小さなころからずっと、こういう熱い、いい奴だったんです。


 「特に【治癒士】(ヒーラー)は盾役の俺の命を預ける相手だ。その相手に一番必要なのは、俺は『信頼』だと思う。俺の命を信じて預けられる相手が、仲間でいてほしい。『旧式』?結構だ。それ以外のことでなら、お前はとても優秀な【治癒士】(ヒーラー)だ、だから……」


 「ストップ」


 拳を握って力説するカインを僕は止めました。


 「悪いけど、カインたちとはパーティは組めない」


 「アイラのことなら俺からも謝る」


 「いや、そうじゃない」


 確かに、あんな形で2年も一緒だったパーティを解散されました。それでも、一緒に同じ村で育った幼馴染です。カインも、ライも、アイラも、別に僕は恨んだり、嫌いになったりしたわけではありません。


 それでも。


 「僕自身が、あのパーティの中で居心地が悪いと、本音では思っていたんです。カインもライもアイラもみんな優秀な冒険者です。けれど、僕だけが最新の魔法も使えない時代遅れの『旧式』の【治癒士】(ヒーラー)で、本当に、みんなと一緒にこのままパーティを組んでいていいのか、とずっと心のどこかでは感じていたんです」


 「それなら」


 「また一緒にパーティを組んだとしても、僕は同じことを感じてしまうと思う。だから、僕の居場所は、僕が居たいと思える場所は、カインたちのパーティじゃないんです」


 僕は目線を森の方へとやりました。そこには木の影から、こちらの様子をうかがっている彼女の姿が見えました。


 「ゴブリンエンペラーと戦っていたあの子か」


 「ええ。彼女と一緒なら、僕は、自分自身の力を胸を張って誇れます。『旧式』だ、なんて言われようとも、僕自身の力が必要なんだと思えますから」


 「そうか。やれやれ、振られてしまったな」


 カインが立ち上がりました。


 「そうだね。振ってしまったかな」


 僕は笑って答えました。


 「同じ街ですごす冒険者同士だ。今後も顔を合わすことはあるだろう。けれど。固定で一緒にパーティを組むことはもうないだろう。だから、これが本当の、お別れだな」


 カインは右手を差し出しました。


 「2年間、ありがとうな」


 「ええ、こちらこそ、ありがとう」


 僕も右手を差し出し、がっしりと握手を交わしました。



 ◇◆◇◆◇◆



 カインとアイラが去っていくと、代わりに彼女が様子を伺いながら近づいてきて、僕の隣に座りました。

 何だか村にいた時にいた、野良猫を思い出します。


 「ソラ、な……に……うぉ……」


 まだうまく声が言葉にならないようなので、会話できる、という感じではありません。


 「発声練習はまたやるとして、とりあえずは今まで通りにこれで話をしますか?」


 僕は手の平を差し出しました。


 ”何を、話していたの”


 「ああ、あの2人は僕の幼馴染で、昔は一緒にパーティを組んでいたんですよ。それで、また一緒にパーティを組まないか、と誘われたんですけど、断りました」


 ”どうして”


 「2人は優秀ですからね。僕じゃなくても、うまくやっていけますから。それに、僕としては他にパーティを組みたい人がいますから」


 そのまま彼女は文字を書くのをやめたので、しばらく沈黙が流れました。


 「エステル」


 名前を呼ぶと彼女はびくっと、反応して僕の方を見ました。


 「僕と、正式に、パーティを組んでくれませんか?」


 彼女と一緒に依頼を受けてこなすようになってから、幾度となく言った言葉。

 でも、今までは何となくで、一緒にいたら都合がいいから、とそれくらいのつもりでした。


 今は、本心で、本気で、この言葉を彼女に言えます。


 ”ごめんなさい”


 「それは仲間が傷ついたり、死ぬのを見るのは嫌だから?」


 ”あの日、みんな死んでしまったの。父さんも、母さんも、兄さんも、姉さんも、コニーも、トリスも、みんな死んじゃったの”


 僕の手の平に文字を書く指が震えています。


 ”もうあんな悲しい思いはしたくないから。だから、私は1人でいる。そうすれば、誰も私の目の前で死ななくてすむから”


 震える彼女の手を、僕は掴みました。急に僕が手を掴んだので、彼女は驚いて僕を見ています。


 「なら、なおさら僕を頼ってください。僕は【治癒士】(ヒーラー)です。怪我を癒し、治すプロです。回復魔法なら誰にも負けません」


 思わず大声になってしまいました。


 「僕が、エステルと、エステルの大切な人たちを癒し守ります。誰も死なせません。だから、1人でいるなんて言わないでください。僕とパーティを組んで、エステルの力を貸してください。……どうでしょう?」


 何となく、彼女と見つめ合う形になりました。

 勢いで、説得しようと思って言いましたけど、今になって自分の言ったことが恥ずかしくなってきました。


 正直、あんまり同年代の女の子と話したりすることも少なかったんです。故郷の村は、アイラしかいませんでしたし。4人でいつもだいたい一緒だったから、女の子と知り合う機会もあまりなかったですし。


 「……は……い……」


 精一杯の声を発すると、彼女は、自分の手を掴む僕の手をゆっくりと広げました。


 ”ありがとう”


 広げた手の平に言葉を書いていきます。


 ”どうか、これからもよろしく”


 僕の手の平に、彼女の指で書かれた文字は、そうありました。


 「こちらこそあらためて、よろしくお願いします」


 僕は手を差し出します。

 その意味に気づいて、彼女は微笑むと、僕の手を握り返してくれました。




 「ところで1つ聞いていいですか?」


 ”なに?”


 「僕が倒れた時に、好きな人が目の前で死ぬのは嫌、て言ったよね」


 ”ソラは大切な仲間だもの”


 「ああ、うん。仲間ですよね。仲間」


 すいません。聞くんじゃなかった。


 あとそんな顔を真っ赤にして困ったように僕の方を見ないでください。

 僕も困ります。

「ヒーラー・ミーツ・バーサーカー」これで完結です。

短いお話でしたが、読んでいただきありがとうございました。

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