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名探偵ゼロ  作者: 赤羽 翼
学園の死角
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窃盗犯と侵入経路【解決編】

「二人の事件の推理はかなり良い線をいってるんだよ。盗品の行方や犯行時刻から僕が犯人という可能性を潰し、盗まれた物の種類や金目の物を盗った犯人の目的、監視カメラから生徒の可能性を潰し、動機の薄さから教員の可能性を潰し、学園のセキュリティから部外者の可能性を潰した。そして僕の侵入経路に目をつけた。素晴らしいと思うよ。僕の侵入経路は犯人に大きく関わってるからね」


 誉められてなんか嬉しくなって小さくハイタッチする俺と花蓮。ゼロはそれを完全に無視して続ける。


「謎の侵入経路があるかもしれないから生徒が犯人である可能性が再浮上して、またしても生徒を疑う。これも当然だろう。しかしそんな侵入経路はなかった。生徒が犯人である可能性は再び潰れ、二人はここで諦めた」


 ゼロは哀れみをこめた息を吐いた。


「どうしてここで諦めてしまうかな。もうすぐそこに答えがあるのに。あと一歩進むだけで全てわかるのに……はあ」

「それはわかったから。早く教えろよ」

「教えるも何も、もうほぼほぼ答えは出てるじゃないか」

「どういうこと?」


 花蓮がきょとんと首を傾げた。


「犯人は僕でもない。生徒でもない。教員でもない。外部犯でもない。……残された人種は一つだけじゃないか」


 俺と花蓮は目を合わせて互いに首を捻った。ゼロは右手で頭を抱えた。


「どうしてわからないかな。そこまで考えてもわからないのなら、逆にわかりそうなものだよね。犯人は自分たちが無条件に信用してしまっている者だと」


 無条件に信用している者……?

 ゼロはゼロは指を一本立てた。


「残された人種……それは()()()()()()()()さ」


 内部の者でもあり、外部の者でもある存在……。それって、もしかして。


のことか?」

「正解。正確には警備員たちだけどね」

「え!?」


 花蓮から驚愕の声が漏れた。ゼロはさも当然といった具合に続ける。


「そんな驚くようなことじゃないだろう? 警備員だって欲を持つ人間だ。危機感の欠如した金持ちの子供が高価な物をほっぽってれば盗みたくもなるさ。……まったく。最初に会ったとき、警備会社を替えた方がいいと理事長に伝えておくように言ったのに」


 ゼロが花蓮を若干責めるような口調で言った。あれって、ザル警備だから替えろって意味じゃなかったのか。


「け、けど契約してる警備会社にはかなりお金を払ってるはずだけど」


 花蓮はまだ信じられないようで、困惑の表情で訴えた。ゼロは首を横に振りつつ返す。


「それで儲かるのは警備会社であって警備員じゃないよ。会社の利益が上がれば社員の給料も上がるかもしれないけど劇的には変わらない。それに会社がこの学校と契約して以降に入社した人からすれば給料はずっと一定なんだ」

「そっか……」


 自分の家を守ってもらっていた警備員たちが犯罪者と知ったからか、流石の花蓮も落ち込んでいるようだった。

 俺は視線を花蓮からゼロに戻す。まだ謎はある。


「確かに警備員が犯人なら盗んだ物を持ち出すのは容易いだろうけど、お前はどうして最初から警備員を疑ってたんだ? そしてお前はどこから入ってきた?」

「そこを考えてほしかったんだよ僕は。普通に考えてみなよ。学園内に入るには校門を通るか壁越えの二つしかない。僕が壁越えをした場合、警報装置が作動して警備員と警察が駆けつける。けどそうはなってない。そもそも警報装置が見えてるのにそんな愚かなことはしないけどさ。残った侵入経路は一つしかないね」

「校門を通ったってこと? けど、それでも監視カメラに映るし、警備員に捕まるよね……」


 花蓮の至極当然の言葉にゼロは頷いた。


「そうだね。じゃあどういうことなんだろう?  僕が捕まらず、監視カメラに映ってないのはどうして?」

「え、ええっと……うーんと、わかんない」


 ゼロはため息を吐いたね


「僕は言ったよね、ザル警備だったって。()()()()()()()()、校門の前に警備員がね」

「い、いなかったの?」

「いなかったね。さぼってたのか、はたまた近くの寮に高そうな靴が干されてたことに気づいて後で盗むためにどこかに隠しにいったのか……どういう理由なのかは知らないけどさ」

「じゃあ監視カメラに映ってなかったのはどういうことだ?」

「警備員たちが一部別の日の物と差し替えた映像を理事長に見せたんだよ。監視カメラが校門全体を映してるなら、警備員が不在な状態の校門も映ってしまっている。おまけに警備員がいない間に僕という不審人物が校内に侵入した。そんな映像、誰にも見せられない。慌てて映像を改ざんしたのが目に浮かぶよ」


 ゼロはくすくすと笑った。だが俺は疑問を呈する。


「けどよ、それってただ怠慢な連中とも考えられるよな」

「そうだね。僕も最初思ったよ。周囲の壁に警報装置や監視カメラが付いてるわりに校門の方は監視カメラが一つだけ。入ったらばれるだけで入ることはできるなって。だから本当は校門前に警備員がいるんだろうと考えたわけだけど、誰もいなかったから警備員が余程怠慢なのか、何かよからぬことをしているのか……この時点ではわからなかった」


 俺はここで話って入った。


「よからぬことって決めつけるのはどうなんだ? 映像を改ざんしてたんけだから結果的に見れば正当な理由じゃなかったんだろうけど、その時点じゃわからなくないか? トイレとかも考えられるし」

「そうでもないよ。何か理由があるなら別の警備員を呼べばいいんだ。まさかこんな大きなところに警備員が一人しかいないなんてことはないんだしね」

「まあ、そうか。けど、不足の事態が起こって校門を離れざるを得なかったとか……例えば不審者に無理やり校門を突破されたとかもあるんじゃないか?」


 実際には起こってないけど、生徒じゃないゼロにはわからないはずだ。


「そんなことになってたら警察が飛んできてるはずだし、それが僕がくる直前に起こったことで警察がくる前だったとしたら、僕の耳にその騒ぎが聞こえてくる。他に校門の警備員が場を離れる理由を思いつくかい?」

「……いいや」


 俺は首を振った。


「じゃあ先に進むよ。そんな感じで警備員が怠慢なのかよからぬことを企んでる連中なのかは、そのときはわからなかった。けど、君たちの話を聞いて怠慢ではない結論が出た」

「何でだ?」

「警備員たちは生徒が野良猫を秘密裏に飼ってたことを憂慮して校内は見回りを申し出たんだろう? 怠惰な連中なら、自分たちに落ち度もないのにそんなことしない。これは完全に媚びを売る姿勢だ。そして残ったのは、よからぬことをしているという可能性」


 こんな餌のないところに野良猫もこないだろうから、生徒がバッグか何かに隠して持ち込んだのだろうし。それに野良猫が勝手に侵入したのだとしても生徒が飼ったことに関しては警備員は悪くない。確かにそれで見回りを申し出るなんてこと、仕事に意欲的でなければしないか。……ん? 見回り?


「なあゼロ。もしかしてその見回りで……」

「この学園の生徒の危機感が薄く、高価な物を簡単に盗めると気づいた可能性は十分あるね」

「そんなあ……」


 花蓮ががっくりと肩を落とした。


「事件の全容をまとめてみようか。まず五日前、生徒の危機感のなさを理解していた警備員たちは高価な物を盗むことにした。校内に入り込んで偶然か必然かは知らないけど、鍵のかかっていない部室とそこに放置されたバッグを見つけて財布を盗み、そして干してあった靴を盗んだ。その際、どういう理由は知らないけど校門の前にいた警備員が一時的に姿を消した。そこに家出した僕がやってきて、追っ手を撒くために仕方なく学園内に入る。さっき言った通り、この時点では僕は警備員がさぼってるのかよからぬことをするために校門を離れているのかはわからなかったけど、どの道僕の存在は学園側には伝わらないと思ってたし、警備室にいた人には気づかれるだろうけどそれでもここにはこないと踏んだ。私用で校門から離れてる間に不審者の侵入を許したなんてことがばれたら会社が契約を切られて、自分たちの首も飛びかねないからね」


 この学園がこの警備会社に大金をかけているのは想像に難しくないし、花蓮曰く実際かけてるらしい。そんな大きな取引先である我が校との関係が断たれたら会社の利益も下がるだろう。犯人がその責任を取らされてクビにされてもおかしくはない。


「まあ、そのせいで命を狙われるリスクが生まれちゃったわけだけど、追っ手から逃げ切るにはそれしかなかった」


 その発言に俺は鋭くつっこむ。


「ちょっと待ってくれ! お前は家の連中に命を狙われてたんじゃないのか?」

「違うよ。そんなことは一言も言っていない。僕は家の連中のせいで命を狙われてるってだけで、別に家の連中は僕を殺そうとしてないよ。僕の命を狙ってるのは警備員さ。追っ手のせいでこの学園に侵入することになってしまったわけだから、家の連中が原因だろ?」

「そ、そうだったのか……。いや、でも何で警備員に命を狙われるんだ?」

「大っぴらに僕を捕まえたら、僕はどうやって入ったのかという話になるだろ? で、僕が誰もいない校門から入ったって言ったら、警備員が校門から離れていたことがばれる。おまけに映像を改ざんしたこともね。それは向こうも避けたい。この場合一番いいのは、僕を探し出して秘密裏に消すことだ。そのために窃盗事件のことを自分たちが調べると、警備員たちは提案してきたんだろうね。窃盗事件を調べるのを口実に僕の目撃情報を得ようとしたんだ。君に話しかけてきた警備員も僕を探してたに違いない」


 言われてみればあの警備員の質問の仕方はおかしかった。窃盗事件が起こっていることを話しもせず不審な人物を見たかどうかだけを尋ねてきた。あれでは質問された人は――事件のことを知らなかったら――何のことかわからない。事前に学園内の私服でうろつく人間を見てれば別だが。


「僕が学園に入った経緯はこんな感じだ。簡単にまとめると、僕が警備員が窃盗犯なんじゃないかと疑ったのは、校門の前に本来ならいると思われる警備員がいなくて、よからぬことをしているんだと思ったからだ。ただそれだけの理由なのさ。侵入したのは監視カメラの映像を改ざんしてくれると判断したから。事件の話と僕の話は以上終了だ」


 こいつは昨日怪しい人がいるとは言っていたが本当にただ文字通りの意味で怪しいだけの人だったわけか。確かにこれだけで犯人とはとても言えない。しかし俺たちの捜査と考察によって犯人が警備員の可能性は凄まじく高くなっている。おまけに監視カメラを改ざんしたというのも警備員に不信感を抱かせるポイントだ。

 しばらく沈黙が訪れたが、思い出したかのように花蓮が口を開いた。


「今の話をお母さんにすればいいの?」


 花蓮の問いにゼロは首を振り、


「それはやめてほしい。僕の存在がばれる。事件を解決する方法は君たちが考えることだね」


 ◇◆◇


 花蓮と俺が考えついた方法が囮作戦だった。花蓮の家にあった高そうな腕時計を「手を洗うときに外して付け忘れました」的な感じを演出するために校庭の水道に置きっぱなしにしておき、拾った者を撮影する。翌日辺りに落とし物が集まる職員室にその腕時計があればその人物は盗人ではないが、腕時計がなかった場合は拾った人物は窃盗犯というわけだ。


 実際にそれは成功した。見回りをしていた警備員が時計を何食わぬ顔でポケットにつっこみ悠々と去っていった。翌日になっても腕時計は職員室にきておらず、花蓮が撮影した映像と事情を理事長に説明したところ理事長は警察に連絡し、警備員たちの犯行が明るみになった。


 その後、当然の如く理事長は契約していた警備会社を変更した。これにて一件落着……というわけではなく……、


「ゼロくんが学園に侵入したこと、お母さんにばれちゃったみたい。真紅郎くんの部屋にいることはまだ知られてないけど……」


 俺の部屋にやってきた花蓮が申し訳なさそうに言った。

 俺は身を乗り出し気味に訊く。


「どういうことだ?」

「警備員が警察からの事情聴取で吐いたんだって。ゼロくんが侵入したときに校門を離れてた警備員の人、ゼロくんの推測通り近くの寮の前に高そうな靴が置いてあったから後で盗むために隠しにいってたらしいの。そのとき校門を離れたことと、不審者の侵入を許してしまったことを誤魔化すために監視カメラの映像を一部改ざんしたって。で、警察によって監視カメラの映像が復元されて、そこに学園に堂々と侵入するゼロくんがばっちり映っちゃってたわけ。フードで顔は隠れてたけどね。その日以降の校門の監視カメラに映ってないから、まだ学園内に潜んでいるかもってお母さんは疑ってる」

「やれやれ……まあ覚悟はしてたけど、面倒なことになった。理事長はともかく警察の方が厄介だ」


 ゼロが肩をすくめながら嘆いた。


「お母さんはあまり学園に警察を介入させたがらないから、殺人事件とか起こらない限りは大丈夫だと思うよ。私も全力でばれないようサポートするし」

「そうか……。まあ花蓮ちゃんが上手いことフォローしてくれたり立ち回ってくれるなら安心かな。真紅郎もよろしく頼むよ」

「何がだよ?」


 首を傾げる。


「警察沙汰になってしまったんだ。まだまだ匿ってもらうよ」

「うっ……」


 喉の奥から呻き声が漏れてしまったが、今回のことを通じてわかったことがある。ゼロは変な奴だが、さほど悪い奴ではなさそうだということだ。さっきの様子から事件が解決されると自分の存在が学園にばれることを察していたようだった。にも関わらずこいつは俺たちに事件の真相を教えてくれた。悪人だったり自分勝手な人間はそんなことしない。

 俺は諦めのため息を吐く。


「掃除くらいは手伝えよ」

「もちろんさ」


 ゼロは寝転がりながら笑った。

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