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名探偵ゼロ  作者: 赤羽 翼
学園の死角
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侵入経路を探せ


 翌朝。俺と花蓮は高等部の会議室で落ち合った。ここなら誰もいないし声も漏れない。聞かれちゃいけない話をするのにうってつけだ。

 俺はすぐに昨夜の出来事を花蓮に説明した。俺の行動がゼロにばれた辺りのくだりで花蓮は呆れた表情になったが、その後のゼロの意味深というか事件の核心的な何かを知るとううんと唸った。


「ゼロくんは何を知ってるんだろう……? というかそもそもゼロくんって何なの?」

「どっちもわかんねえよ」


 よく俺は五日間もあんな得体の知れない男として暮らしてるな。


「けど、寝る前に考えた結果、ゼロが犯人じゃないことに気づいた。盗品を持ってなかったってのも理由の一つなんだけど、そもそもゼロに犯行は不可能だ」

「どういうこと?」

「犯行があったのは放課後のことだろ? 俺は授業が終わってすぐ寮に戻ってたからゼロに物を盗む暇はない」

「あ、そっか」

「一応あいつが学園に忍び込んだ日の犯行は可能だけど、財布が盗まれたのは校舎内だから流石に無理がある。ゼロは理知的っぽいし、どれだけ人がいるか把握できない校舎にはまず入らない」

「なるほどねぇ。とりあえずゼロくんは容疑者から除外か」

「花蓮。お前の方はどうだった?」


 花蓮は両腕を交差させて×を作った。


「収穫なし! 全部の寮を回って迷惑を承知で細かくチェックしたけど、スケッチブックはもちろん、他に盗まれた物もやっぱり見つからなかったよ」


 残念そうに肩をすくめる花蓮。俺は顎に手を添え、


「生徒に犯人はいないってことなのか。それとも校内のどこかに隠しているのか。はたまた既に校外に出したのか……」

「あ、校外に隠したのはないっぽいよ」

「何でだ?」

「お母さんから聞いたの。お母さんってさ、毎日警備室から校門のところの監視カメラの映像をもらって見てるらしいんだけど、窃盗事件が起こってから誰も外に出てないみたい。それこそ、五日前に真紅郎くんが外出したっきり」

「そうなのか……。でも今日は休日だからみんな外に出そうなんだよな」

「そうなったらどこかに隠されてる盗品が外に持ち出されちゃうんだよね? けど安心して。お母さんが校門の警備員さんに、大きな荷物を持って外出しようとする生徒の持ち物はチェックするように頼んでたから。持ち出される心配はないと思う」

「そうか。ならいいけど、一体どこに盗品を隠してるんだろうな」


 俺は腕を組みながら思案する。すると花蓮が、


「んー、たぶんだけど、そもそも生徒は犯人じゃないんじゃないかな。普通盗んだ物はその日のうちか次の日辺りに外に持ち出すと思うんだよね。まだ犯行を続ける気なら尚更」


 こいつが言わんとすることが理解できた。


「学校側に警戒されるからってことか」

「そうそう。さっきも言ったけど、今日から外出の際に持ち物チェックされるようになったの。実際に警戒されちゃったってわけ。普通に考えて盗品が増えるほど持ち出すのが大変になるし、学校側にも警戒されるのは目に見えてる。だから盗んだらなるべく早いうちに外に持ち出したいはずなんだよ。けど監視カメラには外出した生徒は映ってなかった。つまり生徒が犯人である確率は低いんじゃないかなあって。学園内に隠しておくとしても、校内にある限りいつ誰に見付かってもおかしくないし、そもそも盗品を隠すことはお金儲けっていう目的から反してるしね」


 納得できる理由だ。犯人が単独犯だとしたら一度に外に持ち出すにはかなりの量になるし、複数犯で数人が少しずつ外へ持ち出すとしても外へ出る人数が増えるわけだからリスクは大して変わらない。ずっと校内に隠しているというのも、いつまでも自分の金が増えないということなので、あまり考えられない。


「生徒が犯人じゃないとすると、教員ってことになるのか……」


 教職員が犯人ってのは、あんまり考えたくないことだ。その思いが通じたのか通じなかったのかはわからないが、花蓮は首を振った。


「教員が犯人っていう可能性もちょっと考えがたいよ。この学校給料かなりいいからお金になんて困らないし。そもそもこの学校の教員って、OBとかOGが多いから普通にみんなお金持ちなんだよね」

「けど金を使い込んじまって枯渇してる教員がいないとも限らないだろ?」


 花蓮は誰かに対して呆れるかのような表情を浮かべ、


「それもないんだよねぇ。お母さんさ、定期的に探偵を雇って教員全員の身辺調査してるんだけど――」


 さらっととんでもないことが発覚したが最後まで聞こう。


「つい最近の調査では借金に困ってたりお金使いが荒い人はいないみたい」

「何だってそんなことを理事長はしてるんだ?」

「この学園に相応しい教員かどうかを精査してるんだって」

「いや、部下のプライベートを調べる教員はこの学園に相応しいのか?」

「ほんとね。これ、内密に頼むよ真紅郎くん」


 頼まれなくても言わねえよそんなこと。


「まあそんなわけだから教員には動機がない」

「じゃあ一体誰が犯人なんだ?」

「生徒でも教員でもない……部外者が犯人ってことだね」


 ゼロじゃねえか。

 俺の心中を察したのか自分も同じことを思ったのか、花蓮が両手をぶんぶん振った。


「い、いや、ゼロくんは犯人じゃないんでしょ? 別の部外者だよ!」


 それは、そうだ。さっき自分で言ったじゃないか。ゼロは犯人ではないと。けど、


「ゼロ曰わく、自分も事件に関わってるかもしれないらしいから、ゼロについて考えてみるのは方向性として正しいのかもしれない」


 提案すると花蓮がぽんと手を打った。


「そうだ。ゼロくんについてずっと気になってたことがあるの」

「あいつに関しては気になることしかねえけど、どこだ?」

()()()()()()()()()()()()、だよ」

「あー、そこは気になるな。そんなザルとは思えないのにザル警備とかって言ってたもんな」


 花蓮は力強く頷く。


「そうなんだよ! 少なくとも校門の監視カメラには映ってない。お母さんが毎日チェックしてるからこれは確定。かといって壁を乗り越えると防犯装置が作動して警備室から警備員がくるし、警察だってくる。……この学園にはこの二箇所以外にも、外へ出入りできる場所があるのかも。監視カメラにも映らず、防犯装置も作動させない場所が……」


 ゼロはそこから侵入したってことか……。そんな場所があれば、


「この窃盗事件の犯人もその通路を使って外へ出たのかもしれないな。そうすれば監視カメラに映らずに盗品を外へ持ち出せる」

「それが正しければ、犯人は生徒ってことになるね。よし。それじゃあその秘密の出入り口を探しにいきますか!」


 ◇◆◇


 ひとまず俺たちは校門の前へやってきた。警備員さんが一人立っているだけで他にひとけはない。まだ九時だしこんなものだろう。

 花蓮が校門の横にそびえる壁を指差す。


「警備員さんがいて、あそこに監視カメラがある。何回か見たことあるけど監視カメラは校門全体を余すことなく映してるから、死角はない。校門が侵入経路っていうのはどう考えてもなさそうだね」

「じゃあ壁か……」


 この学園は十メートルほどの壁で四方を囲まれており、その壁には等間隔で赤外線の警報が取り付けられている。おまけに壁の外側にも監視カメラがあるので不審人物を見逃さない。


「あの警報装置が作動してない、ってことはないのか?」

「毎週壊れてないかチェックしてくるから可能性は低いかな。それに壊れてるかどうかなんて見ただけじゃわからないよ」

「確かにそうだな」


 ゼロが壊れてるかもしれない、くらいの心持ちで壁を超えたとは思えない。そもそもそんなことしてたら壁についてる監視カメラに映る。


「ぐるっと回って探してみるか?」

「そうだね。……あの寮」


 花蓮が校門から一番近い寮を指差した。


「靴が盗まれた人の寮だよ。あそこの出入り口の前で干してたみたい。どうする? 調べてみる?」

「うーん……犯人の痕跡なんて残ってないだろうし、別にいいや」

「それもそっか。窃盗なんてぱっと盗って終わりだろうしねぇ。殺人事件とかなら証拠とか残ってるのかもしれないけど」


 殺人は殺人で勘弁してほしいけどな。ってか殺人事件なら俺たちが介入できてもないだろう。

 俺は花蓮と共に壁に沿って学園をぐるっと一週した。だが、特にこれといって怪しげな場所は見つからなかった。悩んでいると花蓮が、


「外からしかわからないのかも」


 と言ったので、二人で外へ出て再び壁に沿って学園を一週したが、やはり侵入できそうな場所は見当たらない。警報装置も監視カメラもちゃんと壁に等間隔で設置されていた。

 俺たちは学園内に戻り、中庭の木陰に腰を下ろした。


「……何も見つからなかったな。全然ザル警備じゃないじゃねえか」

「まあ警備会社に高いお金払ってますから」


 花蓮は徒労感を滲ませつつ返した。


「結局、誰にも何にも気づかれない都合のいい侵入経路なんてないってことなのかね」


 ため息混じりに言うと花蓮は首を振った。


「絶対あるよ。じゃなきゃゼロくんが学園内にいることの説明がつかない」

「それはそうだけど……ぶっちゃけ、生まれたときからこの学校にいるお前でも知らない出入り口を、おそらく初めてきたであろうゼロが見つけられるなんて思えねえんだよな。やっぱないんじゃねえか?」

「いや、あるよ。既に見当はついてるもん」

「は、まじか? どこ?」


 花蓮は人差し指を天に向けた。


「空」


 ……どう返答したものか。


「いや、うん。まあ、そうだな。空から落ちてくれば誰にも見られないかもしれないし監視カメラにも映らないな。でもそんなの無理だろ」

「けど他にないじゃん。パラシュートの可能性はヘリコプターのプロペラ音も飛行機のエンジン音もしなかったからたぶんない。だからきっとハンググライダーできたんだよ」


 どうやら冗談でも何でもなく本気でゼロが空からきた可能性を模索しているらしい。じゃあ俺も真面目に返すしかない。


「ハンググライダーっつっても、どこから飛ぶんだよ。近くに山なんてねえぞ。むしろここらで一番の高地はこの学園だ。それにその方法でも人に見られる可能性は十分ある。よしんばグライダーで学園に入れるとしても、グライダーを処分しなくちゃいけない。あんなでかい物早々処分できないぞ。それに空からじゃ入ってはこれるけど出れないだろ。空から出るにはヘリコプターが梯子垂らすかしないと無理だ」


 思いつく限り反論をすると花蓮は流石に肩を落として息を吐いた。


「やっぱ違うかあ。じゃあもうわかんないや」

「そうか……なら最終手段を使うしかねえな」


 花蓮が首を傾げる。


「なあに、それ?」

「ゼロ本人に聞く。教えてくれるかはわからねえけど」


 ◇◆◇


「昨日も言ったけど、自分の学園は自分の頭で守りなよ」


 自室に戻り、優雅に漫画を読んでいたゼロに花蓮と二人で尋ねたのだが、その答えはこれだ。


「自分の頭で考えた結果、お前に訊くのが一番という結論に至ったんだよ」

「ただ諦めただけのことを、さも、やってやりました、みたいな風に言うのはやめるんだ」

「うるせえな。いいから教えてくれよ」

「真紅郎くんに匿ってもらってるんだから、恩返しくらいしなきゃだよ」


 花蓮も加勢する。ゼロは鬱陶しそうに表情を歪め、俺たちの真っ直ぐ視線に観念したのか漫画を閉じ、


「僕の考えが正しいのか確認したいから、君たちが知っていることを事細かに教えてくれ」


 面倒くさそうに言った。

 俺と花蓮は昨日と今日の事件の情報や考察をゼロに詳細に説明した。全てを話し終えると、ゼロは俺たちに確認を取ってきた。


「なぁるほどねぇ。もう少しで解けそうなものなのに、君たちは僕に丸投げするのかい?」

「ああ」

「信じられない……。何かをど忘れして必死に思い出そうとして喉元まで思い出しかかってるのに最終的にネットで調べて答えを得る……君たちはそれに近いことをやろうとしてるんだよ? 本当にいいのかい?」


 花蓮は頷く。


「私たち、最終的にすっきりできればそれでいいの」


 ゼロは「なら仕方ない」と言って拍子抜けしたように肩をすくめた。


「なあゼロ。そこまで言ったってことは、お前の予想は当たってたってことか?」

「まあね。まあもともと予想ですらないただの漠然とした想像だったんだけど、それが確信に変わるくらいには二人の情報は有益だったよ」

「じゃあ犯人とかもわかったってこと?」


 花蓮が神妙な面持ちで尋ねた。ゼロは笑みを浮かべながら脚を組む。


「当然さ。こんな事件、僕の前では無に等しいよ」

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