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名探偵ゼロ  作者: 赤羽 翼
誰がプリンを食べたのか?
13/33

容疑者の三人

「うがああああああ! プリンがっ! 私のプリンンンンンンンンンンン! 最後の一個だったのにぃぃぃぃぃぃぃ!」

「お、落ち着けよ」


 電子回路がイかれたロボットのようにのた打ち回る花蓮をどうにかこうにか宥める。


「本当にこのプリンは誰かに食べられたのか? 自分で食ったことを忘れてるとかじゃないのか?」

「なわけないじゃん! 空になったカップなんて捨てるし!」

「まあ、そうか。じゃあ、最後にプリンを見たのはいつだ?」


 何か殺人事件の捜査みたいな感じの質問をしてしまう。


「お昼ご飯の後に食べたときだね。四つあったプリンのうち三つを食べたから、残りは一個のはずなんだよ」

「三つも食ったのかよ。……あ、理事長とかにあげたのか」

「いや全部一人で食べたけど」


 太るぞ……。

 俺は花蓮から得た情報を整理する。


「つまり、お前が昼にプリンを食べて以降に誰かがプリンの食ったってことか」

「来客は真紅郎くんしかきてないから、犯人はお母さんとお姉ちゃん、風間さんの誰か。私はプリンを食べてから真紅郎くんが家にくるまでずっとリビングにいたんだけど、そのときにはみんなリビングにいなかった。みんながリビングに戻ってきたのは、さっき一人ずつやってきたときだけだね。真紅郎くんを玄関を待ってるときはみんな外に出てたみたいだし」

「つまり、さっき三人が一人ずつ入ってきたときに誰かが食べたって言いたいわけか?」


 花蓮は頷いた。思い返してみれば、確かに全員キッチンへ向かっていた。


「目と鼻の先にプリンの持ち主がいるっていうのに……。なんて大胆な犯行なの!」


 怒りで拳が固く握られている。……あ、これはもう今日勉強できないな。本能的にこの後の展開を察した。


「詳しいことは本人たちから事情聴取をしないと」


 花蓮はスマホを取り出すと先ほどの三人をリビングに召集した。

 厄介なことになってしまった。


 ◇◆◇


 リビングに集められた三人に花蓮が凄まじい形相で状況を説明した。その間、三人は面倒くさそうな表情で花蓮の話を聞いていた。


「さあ! 誰が食べたの!? 今すぐ薄情すれば許してあげるわ! もう十個ほど同じプリンを買ってくれたらね!」


 それは許してるとは言わないだろ。

 蓮香さんが人の悪い笑みを浮かべ、


「自分で食べたんじゃないの? 誰かを犯人扱いしてまたプリンを仕入れるために」

「しないよそんなこと! じゃあ要求するプリンを十個じゃなくて五個で我慢する!」


 そういう問題じゃねえよ。別にそんなことしても自分の疑いを晴らすことにはならない。まあそもそも花蓮が自作自演するなんて思わねえけど。こいつは色々とぶっ飛んでて捻れ曲がってるところはあるが、そんなせこいことをする奴ではない。最初から「プリン十個買って」とねだる奴だ。


 蓮香さんも今のは冗談だったようで、ため息を吐いた。


「まったく……。面倒なことになったわねぇ」


 本当ですよ。けど早く勉強に戻るためにはこの件を早いとこ解決しなければならない。そのためには、あいつの推理の材料になるような有益な情報を得る必要がある。


 俺は花蓮の隣から一歩前に出た。


「花蓮がこんななんで、勉強ができるような状態じゃありません。なので、先にこのプリン捕食犯を明らかにします。そのための情報が欲しいので今日のお昼から先ほどこの部屋に入ってきたときのことを伺ってもいいですか?」


 理事長はぐるるると威嚇する犬のような唸り声を発する花蓮に目を向けると、諦めるようにため息を吐いた。


「確かに、花蓮がこんなんじゃろくに生活できないわね」

「ええ、そうですね」


 風間さんも頷いた。家の人も俺も、花蓮には共通の認識みたいなのがあるようだ。


「じゃあまず、花蓮がお昼にプリンを食べてからのみなさんの行動を教えてください」

「真紅郎君、なんか刑事みたいだね」


 と、言いつつも蓮香さんは答えてくれた。


「私はお昼食べてすぐ……確か花蓮がプリンを食べてる最中に買い物に出かけたわ。ま、数時間探しても目当ての物がなかったから何も買ってないけど。で、さっきリビングにきたときに帰ってきたの」

「キッチンへ向かってましたけど、あれはどうしてですか?」

「外暑かったから喉乾いちゃってさ。冷蔵庫にあるコーラをラッパ飲みしてたの」


 あ、確か二リットルのペットボトルが入っていた。あれをラッパ飲みて……。ワイルドだな。

 それはそれとして。


「そのとき、プリンはどうなってました? 既に空でしたか?」


 蓮香さんは腕を組んで思い出そうとうーんと唸った。


「……憶えてないなあ。てか、それって空じゃなかったら私が犯人ってことよね? 私が最後にきたわけだし。じゃあ空だったんだと思うよ」


 まあそうなるよなあ。微妙に釈然としない気持ちでいると、獣と化していたはずの花蓮が口を開いた。


「普通に冷蔵庫開けたくらいじゃプリンは見えないよ。タッパーの裏に隠してたし、空のカップも同じ位置に隠されてたから」

「そうだったのか」


 俺が冷蔵庫を見たのはタッパーをどかした後だったわけだ。

 蓮香さんが呆れた表情になる。


「お昼に全員の前でプリン食べといて、何でわざわざ隠すのよ」

「防衛本能みたいなものだよ。今日みたいなことがあるかもしれないと思ってさ。そしたら実際にあった。許せん」

「隠しても見つかってるならその防衛本能まったく意味ないじゃない」

「うるさい! 今はそんなことどうでもいいの!」


 至極もっともな正論を言う蓮香さんに花蓮がキレた。花蓮は理事長と風間さんに視線を向け、


「二人はどうしてたの?」


 理事長は小さくため息を吐いた。


「花蓮がプリンを食べ終わった後、風間さんと二人で食器洗いをしたわね」

「ええ。奥様と共にきっちりぴっかり洗いました。花蓮さんも見てましたよね?」


 花蓮はこくりと頷いた。


「うん、見てたよ。やることがなかったからぼうっと。いつも通り食器の数をいちいち数えながら食器棚に戻してた。戻した後にも駄目押しで数えてた」

「そんなことしてるんですね」


 つい言葉がこぼれ出た。蓮香さんが答えてくれる。


「お母さん潔癖症だから。洗った食器は全てきっちり食器棚に入れないと気が済まないみたい」

「しょうがないじゃない。気になるんだもの」


 理事長が腕を組んでそっぽを向いた。

 花蓮が先ほどの続きの言葉を述べる。


「お母さんも風間さんも冷蔵庫を開けたりはしたかったから、プリンを食べたとしたらその後だね。お母さんはさっきこの部屋には何しにきたの? できればその前の話も教えて」

「私は書斎で仕事してて、途中で学園にある資料が必要になって外へ出たらよーすけ君から電話がかかってきて――」


 俺は小声で花蓮に尋ねる。


「よーすけ君って誰?」

「お父さん」


 ああ、確か花蓮の親父さんは海外にいるんだっけか。

 理事長の話は継続している。


「真紅郎君と出会ったわ。その後は学園の方で仕事を済ませて、家に帰ってきたってわけ。キッチンに向かったのは今日の夜ご飯の献立を考えるために、冷蔵庫にどんな物があったのか見にきたのよ」

「風間さんが作るんじゃないんですね」


 素朴な疑問を呈する。


「私も作りますけど、奥様も作るんですよ」

「そうなんですね」


 理事長は肩をすくめ、


「自分が食べる料理を誰かに任せっきりにするのとか、家の掃除を他人同士任せににするのはなんかそわそわするの。だからできる限り自分でやりたい。……風間さんには悪いと思ってるけど」

「いえいえ、お気になさらず。もともと私はただの家事のサポートとして雇われましたから。この屋敷をお一人で面倒見るのは不可能に近いですからね」


 そっか。理事長は潔癖症だから本当は一人で全ての家事をこなしたいんだ。……仕事しながらこの大きさの屋敷を掃除するのは、流石に無理だろう。風間さんを雇って正解だ。


「じゃあ、風間さんは何をしてました?」


 改めて本題へ戻る。


「私はずっと庭のお手入れをしてました。この部屋に戻ってきたのはキッチンのゴミを学園の方の焼却炉で燃やすためです」


 焼却炉を完全に私物化している。いやまあ、学園自体この家の物だからいいのかもしれないが。思い返してみれば風間さんはリビングから去るときゴミ袋を持っていた。


 これで全員の話は一通り聞き終えただろう。しかし流石のゼロでもこれだけの情報で犯人がわかるとは思えない。もっと情報を集めなければ……。けど、どうやって情報収集すればいいのかわからない。刑事ドラマだとこういうとき現場検証とかしてたっけ。


 俺はその旨を三人に伝えると、皆さん空気を読んでか部屋から出ていった。俺は花蓮と共にキッチンに移動する。


「で、真紅郎くん。現場検証って言っても何するの?」


 花蓮の問いに頭を掻く。


「何すっかなあ……。とりあえずプリンのカップでも調べるか」

「カップ調べると何かわかるの?」

「いや、知らねえけど、それしかやることが思い浮かばねえんだよ」


 ひとまず現場検証が始まった。

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