名探偵だけ【解決編】
事件の犯人とトリックがわかったと立川、貝橋、竹丸に連絡した俺は花蓮と隣の竹丸と共に再び立川たちの部屋を訪れた。解散してから十五分くらいのことだった。
扉を開けてくれた貝橋が食い気味に尋ねてくる。
「犯人がわかったというのは本当なのか下条!?」
「ああ。けど、解いたのは俺じゃなくて、俺の知り合いだ」
「知り合い?」
立川が首を傾げた。
「頭のいい知り合いがいるんだ。そいつなら解けるかも、って思って連絡取ってみたら本当に謎を解いてくれた。気遣ってくれたのに勝手なことして悪かった、立川」
「いや。さっきも言ったが、俺だって気になってるんだ。解決してくれるならありがたい」
「そうか、よかった」
立川の許可も得た。後はゼロから聞いた事件の全容を語っていくだけ……それだけなのだが、こうも緊張するものなのか。
「それで、結局犯人は若林さんなの?」
竹丸の不意の問いに俺は慌てて首を振った。
「いや、違う。若林先輩は犯人じゃない。犯人は俺たちの中にいる」
「え!?」
立川から驚愕の声が漏れた。他の二人も顔を硬直させる。
「な、なぜそう言えるんだ!?」
立川が困惑気味に叫んだ。俺は深呼吸をしつつ、
「事件前にこの部屋に入ったのは俺たちだけなんだよな?」
「ああ。そうだが?」
俺と竹丸と寮監以外の人を部屋に上げたことがないと言っていたし、やはりそうだったか。個人的には他に部屋に上げていてほしかった。一人でも容疑者が増えるからだ。まあ……容疑者が増えてもあまり関係なかったかもしれないが。
俺は立川の質問に答える。
「事件前に部屋に入ったのが俺たちだけなら、密室トリックの仕掛けをできたのが俺たちだけなんだ」
「密室トリックの……」
「仕掛け……?」
貝橋と竹丸から疑問の声が漏れた。
「俺たちは最初から気づくべきことがあった――」
◇
「君たちは最初から気づかなきゃならないことがあった」
ゼロが片手で漫画の単行本をいじりつつ言った。
「何だよ気づかなきゃならないことって」
「花瓶の状態の不自然さだよ」
「不自然さ?」
俺と花蓮の声が重なる。
「君たちは犯人がどんな密室トリックを使ったのか悩んでいたようだったけど、花瓶にはひびが入ってただけなんだろう? その時点で犯人が部屋に侵入した、という可能性は消えるじゃないか。部屋に侵入できたのなら花瓶にひびを入れるだけなんて生っちょろいことはせずに、花瓶を力いっぱい叩きつけて盛大に割ればよかった。修復を恐れるなら破片をいくつか持ち去ればいい。普通に盗むのはかさばるし処分も難しいけど、ただの破片なら簡単に隠せるし処分も楽だ」
「つまり、犯人は花瓶にひびしか入れられなかったってこと?」
ゼロは花蓮に頷き、
「そういうことだね。犯人は直接花瓶を床に落としたんじゃなくて、花瓶が床に落ちる時限装置を使ったんだ。そうなれば花瓶が持つ力は位置エネルギーのみ。床はマットレスだし、ひびが入る程度しか花瓶に衝撃が加わらなかった。むしろひびすら入らない可能性の方が高かったから、犯人としても賭けだったろう」
ゼロは漫画を天井に放り、落下してきたところをキャッチした。
「時限装置が使われたなら、それを仕掛けるタイミングは君たちが外出する前しかない。それができたのは真紅郎と愉快な仲間たちの四人だけだ」
◇
「なるほど……信じたくはないが、筋は通ってるな」
立川は残念そうに肩をすくめた。
「ん、ちょっと待て。ということは下条も容疑者の一人なんだよな。何で普通に探偵めいたことをしてるんだ? お前が犯人だったら真実を歪めて別人を犯人と指定できるじゃあないか」
顎に手を添えていた貝橋が至極もっともなことを言う。
「その気持ちはわかるけど、話を最後まで聞いてほしい。全部聞いた上で納得できないことがあったら俺を犯人と扱っても構わない」
「そうか……。まあそこまで言うなら聞こう。犯人はどんな時限装置……トリックを使ったのかを」
「サンキュー。ヒントになったのは――こう言うと俺が解いたみたいだが――花瓶の底とテーブルの水だ。俺たちは犯人が濡れた手で触ったから水が付いたと思ってたけど、さっき言ったように犯人は部屋に忍び込んだわけじゃない。なら何故水が付いたのか? 時限装置が関係してると考えるのが自然だ」
「水を使う仕掛けというわけか」
立川が水気を探すためか部屋を見回した。
「仕掛けのキーアイテムは部屋を見回したくらいじゃ見つけられない」
「そのキーアイテムって何なの?」
竹丸の問いに答えるべく、俺は花蓮向けて顎をしゃくった。花蓮は頷くと部屋の奥に引っ込み姿を消し、そのキーアイテムを俺に放り投げてきた。
「このタイプのしかなかったっぽいよ」
俺はその物体をキャッチし、
「これが犯人のトリックのキーアイテムだ」
◇
「これが犯人がトリックに使用した物だよ。まったく同じ物ではないだろうけどね」
俺と花蓮に早くトリックを教えろせがまれたゼロが持ってきたのは意外な物だった。
「それ、保冷剤か? 冷凍庫にあった」
「そんなのが時限装置になるの?」
俺たちは訝しげな表情を浮かべる。
「なるよ。花蓮ちゃん、そこにある漫画を五冊くらいこっちに寄せてくれないか? 真紅郎は冷蔵庫から缶飲料を持ってきてくれ」
「さっき自分で持ってくりゃよかったじゃねえか」
「保冷剤を見せれば理解してくれると思ったんだよ」
俺はベッドから立ち上がり、冷蔵庫から俺が好きでよく飲んでいるノンアルコールカクテルをゼロに持ってきてやった。
「ご苦労様」
ゼロは自分がさっきまで持っていた漫画一冊と花蓮に寄越してはもらった漫画五冊、計六冊を三冊ずつにわけて積み上げた。これで三冊積まれた漫画のタワーが二セットできたことになる。ゼロはその二つのタワーの間隔を拳一つ分ほど空けると、保冷剤の両端をギリギリ漫画に乗るように置く。二つのタワーに保冷剤の橋が架かっている形になった。最後にゼロはノンアルカクテルを保冷剤の上に乗せた。
「はい完成。これがトリックだよ」
「え、これだけ? これが何なの?」
花蓮が拍子抜けしたように言った。かく言う俺もどう反応したらいいかわからない。漫画のタワーに架かる保冷剤に缶が乗っただけである。
ゼロはため息を吐き、
「いや、何なの、じゃないよ。これをこのまま放置したらどうなる?」
「えっと……保冷剤が溶けて……あ!」
「缶が落ちる! この缶が花瓶なら……」
ゼロは俺の言葉に頷いた。
「そういうこと。テーブルには分厚い二冊の本があって、花瓶は手のひらに乗るくらいに細いんなら、このトリックは十分使える。花瓶を保冷剤の中心から少しずらして置いておけば、そちらに倒れる確率は高くなって、花瓶はテーブルの縁近くにあったから床に落ちてくれる可能性もアップだ。冷房はかかってたみたいだけど、それでも保冷剤からしたら暑いも同然。九時頃から昼過ぎまで経てば確実に溶ける。そもそも花瓶の重さに耐えられないくらいにまで溶ければいいわけだから、完全に溶ける必要はない」
「花瓶の底とテーブルに水が付いてたのはそういう理由か。保冷剤が結露したんだな」
「だろうね。結露が防止されてるタイプもあるけど、そういうのは溶けにくいから、もしものことを考えて使わなかったんだろう。単に結露が防止されてる保冷剤がなかったっていう可能性もあるけど」
水が付いていたのは花瓶の底と分厚い本と本の間だった。このトリックと恐ろしいくらいに一致している。しかし気になることが二つ。花蓮も気づいたようで手を挙げた。
「けど、この方法じゃテーブルに保冷剤が残っちゃうよね?」
「そんな物はなかったぞ」
それは確かだ。あったら流石に気づく。しかしゼロは普段と変わらない表情で、
「どうしてそう言い切れるんだい? 真紅郎たちは部屋に入って、花瓶が倒れているのを発見したときどうした?」
「えっと、花瓶に駆け寄って……立川が花瓶を調べるのを見てた」
「全員が花瓶を注視していたなら、犯人はテーブルの保冷剤をポケットに隠すことくらいお茶の子さいさいさ。犯人としても数十万の花瓶が床に落ちてたらみんなそれに注目するのは目に見えていただろうね」
「それは、わかった。けどもう一つおかしなところがある。そんな時限装置、仕掛けてもすぐにばれるだろ。本に保冷剤の橋を架けて、そこに花瓶を乗せるなんて」
ゼロはため息を吐いた。
「君が教えてくれたんだろう。テーブルには陶器のコップが並んでいて花瓶の下半分くらいが見えなかったって」
「あっ……。けど花瓶の高さで立川とかにはばれそうな気がするけど」
「そうならないために犯人は上手く立ち回ったんだろうね」
「……?」
◇
「保冷剤か……。そんなこと考えもしなかった」
貝橋が頭を抱えながら首を振り、
「今のところ現場の状況にもぴったり一致している。確かに俺たちは花瓶にばかり注目していてテーブルなんて見てなかった」
どうやら貝橋はこの推理に納得してくれているらしい。
俺は再び深呼吸をした。終わりが近づいている。あいつを犯人と名指ししなければいけない。
「花蓮。見つかったか?」
俺は依然として冷蔵庫の近くにいた花蓮に声をかけた。花蓮は四角になっていた場所からひょっこりと顔を出し、
「見つけたよ。ほいっ」
花蓮が新たな保冷剤をパスしてくる。その保冷剤は冷えてはいるが、中途半端に凍った物だった。シャーベットのようにシャリシャリしている。……何から何までゼロの言う通りだ。
俺はこの保冷剤を貝橋に手渡した。
「トリックに使われたのはこの保冷剤だ。こいつだけ完全に凍ってない。だな、花蓮?」
「うん。他は全部カッチカチだよ」
貝橋は保冷剤を揉むように触る。
「ふむ。確かに中途半端に凍ってるな」
「これは、犯人がついさっきこの保冷剤を冷凍庫に戻したことを意味している。これは犯人を特定するのに十分すぎるくらいの証拠だ」
俺は落ち着くためにすうっと息を吐いた。
「時限装置を仕掛けるには当然ながら保冷剤が必要だ。これは普段ここに住んでる立川、貝橋にも、アイスを食べるためにここの冷凍庫を開けた俺や竹丸にも容易に確保できる。問題なのはここからだ。このトリックは当然だけど人に見られたら駄目だ。映画にいく前、最後に花瓶を触った奴にしか仕掛けられない。おまけに花瓶の背が高くなってるから部屋に人が居座れば居座るだけ発覚する可能性が上がっていく。だから俺たちを早く外に出す必要がある。扉から花瓶は見えるから、出るときも注意が必要で、自分がブラインドになって花瓶を隠さないといけない。犯人は最後に部屋から出ることになる」
これがゼロの言っていた上手い立ち回りだろう。
「そして犯人は部屋に帰ってきて保冷剤を回収して、それを冷凍庫に戻した。俺はこの部屋に戻ってきてから冷蔵庫に近づいてない。立川と貝橋も俺たちがいる間は冷蔵庫に寄らなかった。帰った後ならいくらでも冷蔵庫に保冷剤を戻せるけど、十五分かそこらでここまでは凍らないだろう。つまり犯人は俺たちがまだ部屋にいるうちに冷蔵庫に近づいた奴だ。これら全ての条件を満たしてるのは――」
◇
「なあ、ゼロ……犯人は誰なんだ」
訊きたくなかった。けど訊かずにはいられなかった。別の名前を言ってほしかった。まったく知らない名前を言ってほしかった。
「それは自分で考えなよ。ここまで言えば余程のあんぽんたんでない限りわかるはずだ。そして真紅郎、君はそこまであんぽんたんではない。既に解っているんだろう? 僕は君の淡すぎる期待には応えられない」
「……っ!」
俺は言葉を詰まらせた。俺の考えてることまでお見通しってか……。
「早いとこ関係者を集めて解決編を開くんだね。保冷剤がどんどん凍っていってしまう」
ゼロは漫画を開いて読み始めてしまう。
「あいつは悪い奴じゃないんだ。何かのっぴきならない事情があったに決まってる」
「そりゃ事情はあるだろうね。事情もなしにこんな博打みたいな犯行はしない。会ったことないから人柄については語れないけど、こんなトリックを即興で思いつける辺り、なかなか腹黒そうではあるね」
「確かに腹黒そうと言えば腹黒そうだけど、絶対悪いじゃない。さっきだって、無関係の若林先輩を俺が疑ったとき庇ってたんだぜ?」
「あ、犯人あの人なんだ」
「花蓮ちゃん、気づいてなかったんだね」
こんなときに空気の読めないこと言うなや花蓮。
ゼロはうんざりしたように肩をすくめた。
「で、真紅郎は何が言いたいんだい?」
「まず本人に事情を訊きたい。その事情によって立川たちに話すかどうかを決める。それは、駄目だと思うか?」
「駄目だね。最低最悪だ」
「な、何で!?」
思わず身を乗り出してしまう。ゼロは面倒くさそうにため息を吐いた。
「真紅郎。君のそのお人好しっぷりに僕は現在進行形で大いに助けられている。それを承知で言わせてもらうけど、君がやろうしていることは優しさでも何でもないよ。ただ甘いだけだ。どんな理由があったとしても犯人は数十万もする花瓶に危害を加えたことに変わりはない。立川君が裏でどれだけ犯人にゲスなことをしていたとしても、事件だけ切り取れば純然たる被害者なんだよ」
「けど、立川もあいつが犯人だって知ったら――」
「傷つく、と。馬鹿言っちゃいけない。被害者からしてみたらそんな配慮は余計なお世話以外の何物でもないよ。誰の仕業かも、犯行の方法もわからず、誰かに恨みを買ってしまっているのかもしれないと思い続けること方がよっぽど傷つくと思うけど?」
ゼロのド正論に返す言葉が思い浮かばなかった。こいつの言ってることは正しいと思うし、俺のやりたいことは完全に間違っている。この構図はどうやったって崩れないだろう。
しかしこの期に及んで悩んでしまう。友達を友達に悪い奴だと突きつけるなんてことは、今までしたことがない。そんな俺を見かねたのか、花蓮がそっと肩に手を乗せてきた。
「大丈夫だよ。真紅郎くん言ってたじゃん。あの人は悪い人じゃないって。立川さんだって裏でゲスいことしてるはずないよ」
こいつに気を遣わせてしまうなんてな……。これは一生の恥だ。
ここまで二人に発破をかけられちゃあ、ぐだぐた言っていられない。俺は全員の前で犯人を名指しする。
◇
「――竹丸。犯人はお前だな?」
全員の視線が竹丸に向いた。最後に花瓶に触ったのは竹丸だし、そろそろいった方がいいと俺たちに言ったのも竹丸だし、部屋から最後に出てきたのも竹丸で、俺たちがいる間に冷蔵庫へ近づいたのは四人分のアイスを持ってきてくれた竹丸だけだ。竹丸が俺たちとこの部屋に戻ってきたのは貝橋に誘われたからだが、それがなくても何か理由をつけて立川たちとこの部屋に戻っていただろう。
竹丸は反論する気は一切なかったようで、すぐにこくりと頷いた。
「うん。犯人は僕だよ……。ごめん太司くん」
「た、竹丸! な、何故だ!? どうして花瓶を狙ったんだ!?」
「落ち着け、太司」
立川が勢いよく竹丸に突っかかろうとしたのを貝橋が抑えた。
俺は竹丸に尋ねる。
「竹丸。どうしてこんなことしたんだ?」
「えっと……それは――」
竹丸は花瓶を指差し、
「あの花瓶、贋作だから。このままだと太司くんが恥をかいちゃう、と思って……ごめん」
花瓶が、贋作? 唐突に放たれた真実に立川は頭を抱えて取り乱すように言う。
「は? が、贋作? そ、そんなはずはない! 俺がそんな物に騙されるはずないんだ! だいいち、どうして竹丸にそんなことがわかるんだ!?」
「あの花瓶の本物が実家にあるから……。何人もの鑑定士さんがちゃんと鑑定してくれた花瓶が」
「な、なにぃ!? ば、馬鹿な!?」
そういえば立川は鑑定士に鑑定してもらった云々の話をしていなかった。ということは、おそらく鑑定はしてもらってないのだろう。
「このままあの花瓶が美術館に並んだら、僕のお父さんが美術館にいったとき、問題が起こると思って……」
「そうか。竹丸と太司の父上は友人だったな」
貝橋が納得したように呟く。俺にも話が見えてきた。あの花瓶が美術館に並んだとして、そこに立川の親父さんと仲のいい竹丸の親父さんがやってきたとする。そうなると本物を持つ竹丸の親父さんが並んだ花瓶を見たとき、どう思うだろう? 少なくとも面倒なことが起こるというのは想像に難しくない。まあそもそも、美術館に並ぶんなら事前に鑑定くらいは受けるだろうから、すぐに贋作だとばれるだろうが。ただ、その場合でも親の大金で贋作を買ってしまった立川がろくな立場にならないことは明白だ。
竹丸は申し訳なさそうに目を伏せながら、
「本当はその場で言おうとしたんだけど、太司くん自信満々だったから言いづらくて……。だから誰かに割られちゃったことにすれば、太司くんが誰にも起こられずに済むかと思って、頭をフル回転させてばれずに花瓶を割る方法を考えたんだ。ばれたり、花瓶が無事で上手くいかったらこのことは話すつもりで……本当にごめん」
竹丸が深く深く立川に頭を下げた。肝心の立川は自分が贋作を掴まされたことが余程ショックだったのか、口をあんぐり開けたまま硬直してしまっている。しかしか細い声で何とか言葉を発した。
「そ、そうか贋作……だったのか……今度、本物を見せてくれないか? それがちゃんと本物だったら、この件は水に流すよ……」
「うん。じゃあ夏休み、僕の実家に招待するよ」
「頼む……。贋作……贋作か……この、俺が……?」
「花瓶にひびが入ったときよりショック受けてるな、こいつ」
貝橋が苦笑いを浮かべた。俺も気が楽になってくる。
右から袖を引っ張られたので振り向く、花蓮がにやにやした表情を浮かべていた。
「真紅郎くんの心配、杞憂に終わったみたいだね」
「ああ、そうだな」
結局、竹丸は立川のことを思って犯行を起こしたのだ。まあ、誉められたことではないんだろうけど、それでもよかった。竹丸も立川も悪くなかった。それだけで、俺は安心した。
◇◆◇
みんなと別れて部屋に戻ると、ゼロがバラエティ番組の再放送を見ながら話しかけてきた。
「どうだった真紅郎?」
「解決した。全部お前の推理通りだったよ」
「そうか。動機は何だったんだい?」
俺は花瓶が贋作だったこと等々を説明した。ゼロは納得したように頷く。
「なるほど。通りで犯行に計画性の欠片もなかったわけだ」
確かに、殆どアドリブみたいなトリックだった。竹丸の土壇場の本番の強さ的なものを目の当たりにした気がする。
俺はだらりと自分のベッドに倒れ込んだ。
「お疲れのようだね真紅郎」
「まあな……。人の前で誰かを悪い奴だって指摘すんのはあんま良い気分じゃねえな。実際にそいつが犯人だったとしてもよ」
「そりゃそうさ。場合によっては人の人生を変えかねないことだからね。大勢の人の前で犯人を指摘して得意げな顔をできるのは、それこそ推理小説に登場する変人名探偵だけさ」
「どっちかっていうと、お前もその部類に見えるけど?」
俺が言うと、ゼロはふっと笑みを浮かべた。
「さあて。どうだろうね」