鎌鼬の大好物 下
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疾風の帰ってこれそうな時間に炊飯器の予約をセットして、朝食を食べてたらコンコンコンとノックの音が、
「風子は食べてて良いよ、俺が出る。 誰だよ、こんな朝っぱらから……」
まるでそれが分かっていたみたいにさっと立った疾風がそう言ってドアを開けると、がっくり項垂れた真上さんが……やっぱり来たのね。
「今日の朝食、パンだった! なんか昨日の夜、良い匂いしてたから来たのに~、疾風だけ美味いもの食って狡いぞー」
「人の家の飯を堂々とたかりにくるな、家は食堂じゃねえ!! 悔しかったら、お前も料理上手な彼女つかまえろよ」
疾風と真上さんのやり取りを聞きながら朝食の後片付けをして、食パンにケチャップを塗りハムとスクランブルエッグを挟んだサンドイッチをラップで包む。
「真上さんごめんね、あの匂いは今夜のアナゴご飯の仕込みなの。 アナゴご飯は疾風の好物だから、今回はこれで許して」
「やったー、ありがとう風子ちゃん」
まだ温かいサンドイッチを渡すと、喜ぶ真上さんと対照的に疾風が面白く無さそうな顔で、
「風子は優し過ぎ、真上を甘やかすとつけ上がって毎日ご飯たかりにくるよ」
なんて言ってたけど、これで夕飯は突撃されないのなら良しとしようよ………まあ、ここまでして夕飯突撃してきたら私にも考えはありますけどね。
ほうれん草のごま和えと砂糖を入れた少し甘い玉子焼き、豆腐と三つ葉のお吸い物が完成、アナゴご飯も炊き上がったので具材を混ぜていたら疾風が帰って来たみたい。
「ただいま風子~、お腹減ったーっ!!」
「おかえり~、ナイスタイミングだよ疾風。 すぐ食べられるようにするから服着替えてきて」
テーブルの上の準備が整ったところでご機嫌の疾風が着替えて帰ってきたから、二人揃って、
「「いただきまーすっ!」」
大きな口を開けてアナゴご飯を一口食べた瞬間、ふんにゃりと顔が緩んで幸せそうに笑う疾風を見て、私も食べ始める……うん、今回も上出来。
「あ~美味しい、やっぱり風子の作るアナゴご飯は最高~!! 俺、今日だけは事件が起こって残業になりませんようにって朝から祈ってたんだ~」
お茶碗山盛りのご飯が、あっと言う間に減っていくのが嬉しいなと思いながら玉子焼きに箸をのばす、七味をかけてピリッとした辛味をたしたアナゴご飯と薄甘い玉子焼きがまた合うんです。
「風子おかわりっ、ほうれん草も玉子焼きも美味しいねっ」
「はいはいたっぷりあるからね、余ったら明日の朝おにぎりにする?」
お茶碗に二杯目をよそいながらそう聞くと、ちょっと悩むような顔をした疾風は、
「う~ん、おにぎり何個できそう? 帰りに正宗と一緒になったんだけどさ、アパート入ったらアナゴご飯の良い匂いしてて、までその匂いでした耳と尻尾出ちゃってたんだよね。 ちょっとだけ、分けてあげてもいいかなぁ?」
なんで言いだした、真上さんの事はなんだかんだ言ってたけど、やっぱり優しいんだから。
神楽荘の住人、黒尾正宗さんは背中の中ほどまである長髪を後で一つに縛り、見た目25歳位の物腰柔らかな美青年で、本性は江戸時代から生きてる猫又なのでお魚大好きなんですよね。
「もちろん良いよ、おにぎり4個位できるけど何個もってく?」
「半分もらっていい? 正宗のやつ自分で料理するの諦めて、最近キャットフードしか食べてないって言ってたし」
はい? いくら猫又だからって正宗さんキャットフードたべてるの? あの顔で?
「そんなのダメでょー!! 持ってってあげて、持ってってあげて」
大慌てで作ったおにぎりと玉子焼きをお皿にのせて、疾風と二人で正宗さんの部屋に持って行ったんだけど……
猫ちゃんに大人気の、袋から直接舐めて食べるピューレ状おやつを咥えて出てきた美青年の、私の脳における破壊力は凄かったとだけ言っておきます……