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疾風と一緒 神楽荘の愉快な仲間達  作者: 泪
私の彼氏は……
10/10

絶対真似してはいけません

 じめじめの梅雨が開けたと思ったら今度は連日の猛暑日で、冷房の効いた電車から出た途端押し寄せた、むあっとした熱気に汗が噴き出してしまう。

 毎日テレビのニュース番組で、

「命に関わる暑さです、不要不急の外出は止めて、室内では躊躇冷房をつけて下さい」

 なんて繰り返し言われてる位今年の暑さは異常で、まだ明るい日差しの残る商店街で買い物をして、アパートに着く頃には汗でブラウスの背中が濡れて張り付いて気持ち悪いな。

 でも今日は疾風が非番で一日家に居たはずだから、冷房が効いた快適な部屋が待ってるはずと、うきうきして玄関のドアを開けた途端、サウナの中かと思う程の熱風が押し寄せてきた。


「真上、後一口だっ! 根性見せろ!!」

「うおーっ、疾風のラストスパート、すっげー!!」

「そろそろ終わらせて片付けないと、風子ちゃん帰って来て怒られるよ」

 なんて騒がしい気配がリビングから漏れてきてる、これはもしかして神楽荘毎年恒例の我慢大会?

 今年は異常な暑さで熱中症必須だから止めましょうって、この前の寄り合いの時に決まったよね……

 あまりの怒りに無表情になっているのを自覚しながらリビングのドアを開けると、玄関の比ではないくらいの熱気の中ダウンジャケットを着込んだ疾風と真上さんが、汗だくで鍋焼きうどんを食べていた。

 それを取り囲む頭に氷のうを乗せた葉月さんと八咫烏の谷田さん、黒尾さんの3人も汗だくで、リビングの温度計は46℃とあり得ない温度を示している。

 この人達は熱中症の怖さを知らないの? 熱中症で死ぬ人もいるんだよ、いくら人外が人間より丈夫だとしてもこんなことで疾風が死んだら……


 いつの間にか疾風と真上さんの勝負は終わっていたみたいで、リビングには奇妙な静寂が満ちていて人外達の目が私を凝視していた。

「風子ちゃん?! え、なんで泣いてるの?」

「バカッ、それより換気が先だ! 人間にこの暑さは危険だろ」

 慌てたようにバタバタと観戦者の3人がドアと窓を開けてまわり、ダウンジャケットを脱いだ疾風が私の両肩を掴んで、

「風子、風子? どうしたの、何かあった?」

 おろおろと声をかけてくれるけど、バカな事をしていた皆への怒りや色々な感情が渦巻いていて私の涙は止まらない。

「疾風! それより今はこの部屋の温度を下げないと風子ちゃんがつらいよ、風で部屋のなかと外の空気を入れ替えてよ」

 そんな谷田さんの声のすぐ後、部屋の中を風が吹きぬけて部屋の温度が一気に下がり、冷凍庫に作っておいた冷えた麦茶を葉月さんが手渡してくれた。


「ねえ、今年の夏は異常で命に関わる暑さだって知ってるよね、だから今年は我慢大会は止めるって寄り合いで決まったよね」

 程よく冷え始めたリビングだけど、私の涙はまだ止まっていない、疾風はどうしていいのか分からないという顔で私の肩を抱いてるし、ほかの皆もおろおろしてるが、知ったことか。

「いくら人外が丈夫だからって、熱中症で死ぬかも知れないんだよ。 疾風が死んだら、私……どうしたらいいの……」

「いやいや、これくらいで俺達は死なないって! 毎年恒例なんだから、今年だけやらないのはなんだか気持ち悪いしさ~」

 私の言葉に真上さんが軽く返すけれど、じゃあなんで寄り合いで我慢大会が禁止になったのよ、他の人外達も今年は危険だって思ったからでしょう。

 真上さん以外は多少反省しているのか、神妙な顔をして居心地悪いそうにしているし、疾風はさっきの私の言葉に泣きそうになってる。


「おい! てめぇら、さっきまで何やってたんだ? まさかこの暑いなか、我慢大会なんてする訳ねぇよなぁ?」

 いつの間にか部屋に来ていた鬼沢さんの言葉に、全員真っ青な顔でブルブル顔を横に振ってるけど、

「鬼沢さ~ん、コイツら我慢大会やってました!! この人達!説教してやって下さい!」

 嘘はダメです、しっかり告げ口してやると真っ青な顔をした皆の襟首を掴んで、にやりと鬼沢さんが笑った。

「やっぱりな、口で言っても分からないバカ共には体で分からせてやらないとダメか?」

「鬼沢さんお願いします。 それと皆がしっかり反省するまで私、料理作りませんから、今夜は外で食べて来てね疾風」

「風子~!! ごめんなさい、許して、お願い~!!」

 にっこり笑った私の言葉に、この世の終わりみたいな顔した疾風を含めて全員を鬼沢さんが連れて行った後、なんだか疲れて座りこんでしまう。

「あ~あ、明日は私お休みだから、今夜は疾風の好物作ってのんびりイチャイチャするつもりだったのになぁ」

side鬼沢


「お前らなぁ、人外だからって自分の体力過信し過ぎんなよ。 疾風も真上も頭痛いんだろ、顔色悪ぃぞ」

「なんで頭痛いって分かるんですか? さっきから、頭はガンガンするし、なんかふらふらするんだよな~」

「風子、泣かせちゃった……どうしよう、ご飯作ってくれないって……俺、捨てられちゃう?」

 俺の言葉に、真上は青い顔に疑問を浮かべてるが、疾風は風子ちゃんのさっきの言葉がショックだったのかそれどころじゃ無いみたいだな、まったくそれなら心配させるなよ。

「真上それが熱中症だバカヤロウ! 葉月、コイツらにスポーツドリンク飲ませて保冷剤握らせろ」

「え~、これが熱中症? けっこうキツイんだけど」

 葉月達が甲斐甲斐しく真上と疾風の世話をやいてるが、疾風はまだぼーっとしてるなって……おいおい、疾風お前それ足痙攣してるだろう、ったく仕方ねえな。

「疾風、ソレしっかり飲め! これ以上風子ちゃんに心配させるなよ」

「あ、うん……」

「まったく、今年の夏は雪女の里や河童村で、熱中症で死にかけた人外が大量発生したって言ってあっただろうが……」

 俺の言葉に、疾風や葉月達が神妙に頷いたが、これからが説教の本番だからな!

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