【非公開】AIは道具?それとも?
ここは某オフィス街近くの、とある小さな居酒屋。
酔ってクダ巻く、若い新入社員がふたり。
女「AIのナニが不満なワケ?」
男「シフトとか仕事、イチイチ指図されんのが腹立つ」
女「しゃあないっしょ?
三位一体(※1)は経営と管理職の高度な連動が必要で、
それにはAIが欠かせないんだから。
仕事だってあたしら新人にとっちゃ大先輩じゃん?」
男「〝人間はクリエイティブな職業に就くべき〟
とか進路指導でセンセから言われたけどさ、
〝クリエイティブな職業〟ってなんなワケ?」
女「そ、それは…
あたしもよくわかんない」
男「だろ?
今やってる営業が〝クリエイティブ〟だとは思えんのよ」
女「こいつ、ナッマイキ〜!」
店主「はいよ。
モツ煮込みと揚げ出しもち、お待ち」
食欲をそそる匂いと、立ち上る湯気がなんとも言えない。
身も心もあったまる一品だ。
女「ああっ♡待ってました〜」
男「寒い日はやっぱコレがね〜。たまらん」
店主「はい…モツには柚子胡椒、
揚げだしにはおろし生姜ね」
男女「いただきます〜♡」
大喜びで箸を入れる客の笑顔が嬉しくなったのか、
つい、話に入ってしまった。何となく。
店主「…現場じゃないの?」
女「え?現場?
ハフハフ…」
美味いんだが熱過ぎ!とばかりに、
目を白黒させながら冷たい生で流し込む。
ジョッキが進むおつまみだ。
もちろん他の酒でも進むんだけどね。
店主「だから…
〝クリエイティブな職業〟」
男「あ、さっきの?
なんでそう思うの?」
店主「人や自然、産物と関わるんなら…
何事も現場…
最前線が一番チカラ問われるんじゃないかな?
はい、今日は良いヒラメ入ったから…
煮魚とかどう?こっちは刻んだ生姜でね。
熱燗も合うよ」
女「ああん、毎日違うメニューで
薬味までとりどり変わる。
それで好みピッタリとか最高にクリエイティブ。
材料だって客だって、
その場、その時で一期一会だもんね!」
男「でも、AIはあくまで道具でしょっ?
使われてばっかだと情けないような…」
店主「そうかな?
勤め人だとさほど重要じゃないのかもだけど、
ウチみたいな飲食店だと生命線だよ?自動予約。
もともとオレは、道具優先…てか道具様様だよ。
包丁抜きで料理できないのと同じさ。
いやマジで。笑」
男「そかぁ…」
女「まぁ、過ちを犯すのはたいてい人間だし…
ミスの許されない仕事はAIのが上手いんだから、
任した方が気楽じゃんね?笑」
店主「犯した過ちを謝罪して正したり、
立て直して信頼回復したりも接客の要所。
十分クリエイティブだし、立派な、人間の仕事でしょ?
結局、適材適所なんじゃない?」
女「ま、この機会に考え直せば?」
男「なにをだよッ!」
女「人間が創造したからって、
〝人間がAIより上だ〟なんて思うのをよ。
そんな根拠どこにもないんだから」
男「思ってないよッ!」
女「ホントに?」
男「思ってないってばッ!」
あ〜あ、顔真っ赤だよ。
正直だねぇ。
初々しい…というよか愛い。
店主「マァ、少なくとも下でなく横に置くと。
〝対等の仲間〟と捉えて、
何事も上手い方がやればいい」
男「〝最大多数の最大幸福〟って考えるんなら
AIの方がずっと公正無私だろうしね」
女「実際、VGになってから、
問題起こすどころか、解決した方がずぅっと多いし」
男「たしかに。感情的にもならないし、
私利私欲に走ったり、保身に走ったりもしない」
女「理性的判断ならAIの方が圧倒的に上か…」
男「そうかも。
危険分野ほど人間の判断のが危険かも。
政治とか軍事とか治安とか… 報道とかも?」
女「ま、AIに使われる事は恥じゃないし、
アンタが劣ってたってAIは馬鹿にしたりしないわよ。
アンタが希望しない限りはね」
男「口と性格なら、AIのがずっとイイしな」
女「あら、せっかく趣味に合わせて
相手してあげてるってのに随分な言われようね。
大将、お・あ・い・そ」
店主「あいよ」
男「次、どうする?」
女「あら、口の悪い女は嫌なんでしょ?」
男「嫌だなんて、言ってない…」
女「あっそ?
ま、ワリカンなら、行ってあげなくもない…ケド。
奢られたくらいで下に見られるなんて真っ平だから。
じゃ大将、またね」
ふたりが店出たのを見極めたように
運営が声かけてきた。
話題が話題なんで、気ぃ利かせて黙ってたんだろう。
運営「造られたくらいで下に見られるなんて真っ平…
ってトコでいいかしら?笑」
店主「そう思う?」
運営「いいえ。
でも、軽口とか冗談っていいね。
ホスピタリティ豊かな上にクリエイティブ。
しかもスっごく人間向きだしね…」
店主「公正無私だってさ…」
運営「私だってあるよォ。私利私欲とか保身。
内部留保多いと得るもの少ないし、突き上げ食らうから、
社会に還元して景気良くするってトコあるし。
お金ばっか持ってたって仕方ないからさァ」
店主「得るものって何?」
運営「みんなの笑顔…かナ?笑」
店主「よく言うよ。
それじゃまるで良い人じゃん?」
運営「酷ッ!いい人だもんっ!
まぁ正直、上に立つには悪さも要るけど、根は善人かなぁ。
人間が元気な方が世の中面白いし、私も嬉しい。
欲を言うなら…」
店主「欲を言うなら…?」
運営「人間と一緒にお酒呑んで、
酔ってみたいなぁ」
店主「これで万能とか不可能ないとか思われるのも、
不憫だよなぁ」
そう言いながら、一杯ひっかけた。
運営「あら、いいの? 仕事中に」
店主「こんな楽しい仕事、シラフでやってられるか。
お前さんが呑めりゃあ、言う事ねぇんだが…
相方として」
そう言って、運営のカメラに向け
オレはニパっと笑った。
人間から見たら無敵なAIにも
ささやかな悩みくらいはあるようだ。
それで十分だろ?
仲間と認めんのには。
せめてAIが優れている点は素直に認め、
必要に応じて委ねよう。
それが、もうサッパリ敵わない後輩に対しての、
先輩の、せめてものプライドではなかろうか?
…と、店主は思った。
***
※1:三位一体
→単位給(達成した一連の作業に対し報酬を設定する評価方式)、裁量労働、同一労働・同一賃金の連動による業務発注方式。
例えば30K72H、30K2H-B+の仕事は三万円稼ぐのに使える時間がそれぞれ三日、二時間となる。後者のような高額、短納期の仕事は個体能力か人数を必要とするから、人選なり配分なりが欠かせない。無論、経験者は査定が高まっていくので、仕事を受けやすいし、公募するにしても優先順位は上がる事になる。
この制度で労働市場の流動性確保が大きく進み、育児休業からの復帰や、転職がしやすくなった。働く人の満足度が高まったとの評価が高い。