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File:07 河蛇

夜分遅くに申し訳御座いません。

もっと早く書ければ良いのですが、中々そうもいかず。





 眼前の蛇は大きかった。

 それこそ、そこに河が出来たのだと言われても疑わぬ程に。



 しかし、その蛇は美しかった。

 綺麗な白色の(つや)やで、(あで)やかな鱗。

 こちらの(しん)を見透かさんとする深紅の瞳。



 けれど、それに流される事無く社は河蛇を観察する。

 それはこのモンスターが現在の自身には手に負えないと、理解しているが故に。

 で、あるならば現在の状態でこのモンスターを狩るには、どうすれば良いのか。

 考える、思考する、思惑する、それらをする為に社は観察を続ける。



 けれど、それを易々と赦してくれる手合でもない。

 当然である。

 幾ら社と河蛇の間に力量差があろうとも、それを覆す事は容易で無いにしろ、出来る可能性があると両者共に理解ているのだ。

 故に、どちらかは確実に殺されると分かっているのだ。

 何せ、これが死闘である事には違いないのだから。

 河蛇は社に読ませまいと。

 社は河蛇を読み切ろうと。



 河蛇は頭部を振るう。

 森の木々は薙ぎ倒され横たえる。

 社はその大きな頭部を跳躍等で避け切れる筈もないと理解し、薙ぎ倒されてゆく木々を本来付いている筈の無い4本の腕で伝い、躱す。

 その間も社は河蛇から目を離す事は無い。

 より多くの情報を取り出す為に、社は躱す事にその身の全力を尽くす。



 河蛇の鱗はこの初期配布の武器では貫く事は勿論、傷付ける事すら出来ないのは明白である。



 蛇の生態だ、思い出せ。

 力の差があろうとも、奴も生物だ。

 であるならば、生物的弱点がある筈だ。

 潜れ、深く潜れ、知識の奥底に手が着こうとも、あのモンスターを葬る為に。



 蛇の鱗を貫く事は出来ないが伸縮性能の高い蛇は、内側は柔らかいと聞く。

 中から外側へなら切れるか。

 幸い蛇はその独特な捕食構造より咀嚼はしない。

 その代わりに強靭な筋肉により絞め殺され、捕食される事になるのだが。

 策の一つとしておこうか。



 目は瞼が無く、透明な鱗の様なものに覆われ、常に開いたままの状態。

 木の上で立体的な動きをする蛇等には例外がある様だが、基本的に地中で生きる蛇は目が悪い。

 河蛇も例に漏れず、目の位置や大きさから判断して、地中内で生きている事だろう。

 抑々考えれば、この大きさの生物が今迄もこの森を徘徊していたのであれば、存在に気が付いていた筈である。

 であるならば、この蛇の視野は大小の違いはあれど、前方60度程度である筈だ。



 耳は皮膚内に埋れ鼓膜、鼓空などを欠き挫骨の一端は方骨に接し、もう一方は前耳骨に嵌って内耳に接していて、空中を伝う音波を感じ取ることが出来ない。

 詰まりは元より聴覚は弱い。



 けれど、皮膚感覚が優れていた筈である。

 人や鼠等の他生物の歩く振動音等を地面と触れている皮膚から感じ取る事が出来る。

 それも、特に頭部は効果的に敵や獲物の振動を感じ取る。



 その上、ヤコブソン器官とピット器官か。

 ヤコブソン器官は蛇の味覚、嗅覚を司る場所である。

 口内の上部に存在する。

 ふたまたに分かれた舌で空気中に漂うにおいを吸着させ、舌を口内に納めると先端がヤコブソン器官に差し込まれる為、鋭い嗅覚を有している。

 その上、蛇のふたまたに分かれた舌は空気の振動をも感じ取る。



 ピット器官、これは蛇で最も有名な器官である。

 目と鼻孔の間にある一対の窩に多くの神経や毛細血管が集まり、僅かな熱を感じ取る事が出来る。

 これは主に蛇の上唇や下唇に窪みやスリット状で存在する。



 あのモンスターも蛇であると仮定すると、刺激臭と、火が有効であろうか。

 しかし、決定打に欠けている事は間違いない。


 が、こちらを察知出来る機能は一つでも多く減らすべきである。

 しかし、あわよくば焼き殺す。


 そうとなれば、火が必要だ。

 けれど、火をおこしている暇などない。

 現在進行形で河蛇に襲われているのだから。

 であるならば、元々ある火を使えば良い。


 けれど、それでは火力が足りない事は明白である。

 社は可燃しやすい物を拾い適度に飛び火する様にそれらを、置きつつ移動する。





 河蛇も頭部を振るい、社を襲うだけでは倒しえないと判断したのであろう。

 身体をくねらせ、社の周囲を自身の身体で囲む。



 社もそれには少しばかり頭を悩ませるが、直ぐに頭を切り替える。

「ぐ、使用実例も無いままに使用したくは無かったが仕方ない」

 河蛇は社を締め殺さんと勢い良く身体を巻いていこうとする。

鋼糸(こうし)

 社はそう呟き、この森の蜘蛛が使用してきた糸を手より発射した。

 その糸を操り遠くの木々へと移る姿は宛ら、洋画の蜘蛛男の様であった。


 しかし、その糸を使い試したい事が一つ増えた社は、適当な木々の間に糸を張り、編みながら移動する。



 その様に河蛇に対応しうる策を脳内で増やしてゆく社とは裏腹に、社を殺しうる方法を消費してゆく河蛇。




 社は河蛇と出会う前に散策し、得た情報を整理し、森の地図を脳裏で書き上げる。

 その地図よりセーフティーエリア付近へと向う。

 セーフティーエリア、そこは安全が保証される場所ではなく、安全性の高い場所である。


 本来ならば敵は入って来ないが。


 セーフティーエリアの特徴として、敵が何の前触れも無く近づいてくる事は無い、焚き火が絶える事無く燃え続けている。

 そして、敵もプレイヤーを追い掛けていれば、エリアへと入って来れる事。

 火の付いた薪を手に取り、エリアから出るとその薪を消費し切るまでは、当然ながら火は燃え続ける事。

 が、その火はエリア外でも他の物にも伝染る事。

 これらは、社が自身で検証した事であった。

 

 それらを念頭に置き、セーフティーエリアの周囲を社は鋼糸を使い、木々の合間を滑るように移動する。

 それは、巨人をも倒しうる人類の動きであった。

 社は自身の防御面を鑑みて頭部から下の上半身にのみ鋼糸を横、斜めを交互に動きが阻害されない程度に巻いてゆく。

 腕も手首の辺りまで同様に巻く。

 下半身は衣服を着用している為、今回は断念する。




 社は既に河蛇の攻撃を躱す事は容易と成っていた。

 そう、容易であったのだ。

 今にして見れば、そう思わされていたのかもしれない。

 別段、河蛇の動きが緩慢に成っていたと言う訳でもない。

 容易とは成りつつも常に緊迫した状況であった事に代わりはない。

 ステータスにマイナス補正が掛かっている筈の種族で、(おおよ)そ今のレベル体で、それも単体で適う手合では無かった相手に。

 それこそ、βテスター達のパーティー数個隊で挑むべき相手であったそれに。

 単体で数時間に渡り、攻防を繰返しているのだ。


 そんな時であった。

 河蛇の移動速度が少し緩やかになった。



 社とて人間である。

 であるならば、余裕を持てる様に成ったのであれば、どうなるのか。

 余念が生まれた事による事態であった。

 それが、出会って間もない頃であれば、避けきれはしないが、完全に当たりもしなかった筈であった。




 永らく減る事の無かったHPバーが4割程減少したのだ。

 何をされたのかは直ぐに理解した。

 目には見えていたのだから。


 河蛇は─────。










 毒を飛ばしてきたのだ。





 それだけの事だ、それだけの事であった。




 左の3本目の腕。

 それの手首から先が無くなり、先程巻いた鋼糸を溶かし、腕は肘の当たりまで溶けて殆ど原型を留めていなかった。


 社は即断する。


 社はその腕を根元の当たりで切り離した。

 するとそれは不定形の物体へと成り、その場へぼとりと落ちた。



 河蛇との距離は開いた。

 けれど、社はそこに死が近付く音を聞いた。



 だからこそ、社は冷えた。



 それでも社は道中にある可燃しやすい物を拾い、それでラインを作り移動を続ける。


 それも、あと少しで終わりを迎える。

 躱すだけの退屈な時間を終える。

 眼前にはセーフティーエリア。



 鋼糸を使い一気にそこまで移動する。

 5本となった手の一つに焚き火を握り、握る焚き火を傾け作り続けたラインの端に火を灯す。


 それは綺麗に連なり、火は炎へと拡大していく。

 それは数秒で山火事の様になる。


 社は森を丸ごと使い河蛇の丸焼きを作る事としたのだ。




 社は自身が作ったラインに火を灯すと、河蛇の正面に立った。


 そして、口火を切った。


「どうも、賢い蛇さん(おバカさん)焼けて死ね」


 社は存外、腕を溶かされた事に憤慨していた。

 その原因を作った、河蛇と自身に。

 詰まり、この口火は8割程は八つ当たりであった。



 社は右の1本目の腕をから伸びる鋼糸を切る。

 すると、河蛇を捕縛する様に鋼糸が周囲から伸びてくる。


 不意の事である、河蛇も反応が遅れ捕縛される。

 が、そう長くは拘束出来ないだろう。


 社は不用意にも歩いて河蛇に近付いてゆく。


 河蛇もこれ幸いと一端捕縛の解除を中断し、大きく口を開き毒を飛ばす。


 社はそれを躱し、左の1本目の腕から伸びる鋼糸を切る。


 それを切ると社は、河蛇の正面を避ける様に右斜め前へ素早く3歩移動し、大口を開いたままの河蛇顔の隣りに立った。



 次に社が見たのは、このモンスターの顔が初めて驚愕に染まったところであった。



 ────倒木。



 それは、河蛇が倒した木であった。


 特に気にも止めなかったそれ。


 河蛇が獲物を捕獲する時に倒れてゆくそれ。



 火の付いた倒木が河蛇の顔へと向かい飛んでくる。



 所謂、ブービートラップであった。



 社が鋼糸を張って移動していたのはこれを見破られない為であった。



 倒木は河蛇の大きな口へと納まる。


 河蛇のHPを1割程削り、燃焼により断続的にHPを削り続ける。

 河蛇はその大きな身体をくねらせ、鋼糸を切らんとするが。



 社は右の3本目の腕から伸びる鋼糸を切り、用意した最後の罠を作動させる。


 社は大きく背後へ移動する。







 ──────巻き込まれない為に。




 それは、先程と変わらないブービートラップであった。




 飛んでくる倒木の数が1本であるならば。



 燃えた倒木が左右から河蛇を殴打してゆく。



 河蛇のHPは見る間もなく減少してゆく。



 倒木での殴打が終る頃には河蛇のHPはもう1割を切っていた。

 その残り1割も無いHPも周囲に落ちた燃えた倒木と、口に納まった燃えた倒木による燃焼でジリジリと削られる。
















 炎に囲まれた蛇を見て、社は一つの昔話を思い出した。


 だからであろうか、河蛇のHPが無くなる寸前に社は呟いた。































「ありがとう、この経験は忘れないよ」

蛇についての知識等の諸々が間違っていたらすみません。

うろ覚えの知識にも関わらず、殆ど調べないで書いていますので、要所要所で間違った事を書いているかも知れません。

ですので、此奴こんな事も分かってねーぞ、と小馬鹿にしながらでも読んで頂けましたら、幸いです。


今話も御読みくださりありがとう御座います。


次話、明日。







─────────書ければ良いな。

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