File:06 Origin Skills
あぁ、ここから先はタグの通り本当に不定期更新になります。
なので、ふと思い出した時にでも来てやってください。
社はもう一度、肩胛骨が見える程に深く首を回す。
それは、イメージしていた通りの最悪の形であった。
【Defect】と言う種族を選んでいる時点で【人族】等とは、遠く離れたものではあった、それでも人型ではあった。
けれど、これは───。
いや、それは覚悟している事であった。
こうなる事は容易に想像出来るのだから。
武器を握り、人間の腕と同様に扱う事が出来るかを試す。
けれど、期待する様には武器を扱う事は叶わなかった。
それもその筈だ、元来人間の腕とは2本しか生えていない筈のものなのだ。
それが、6本に増えた所で本来なら動かせるものでは無いのだ。
それに、キャラメイクの時に本来人間が持ち得ないパーツを持つ種族は、扱うのが難しいと説明された。
種族としてその手のものを選んでいれば、もう少し扱うのが楽だったのかもしれない。
何せ、扱う事を前提に制作されているのだから、操作補助があっても何ら可笑しくはない。
しかし、社のこれは違う。
擬態や再現が幾ら可能であろうとも、操作補助等一切無いのだ。
その擬態先や再現先が人型なのであれば、まだ十全に操れたのかも知れない。
けれど、今現在社が再現したのは蟲の脚だ。
それも、敵NPCが、保有していた。
それは、本来プログラムで動かす物であり、人間の意思で動かす様なものでは無いのだ。
しかし、今回は種族特性と言うプログラムを回して得た物である。
それでも、武器を握り振るう事は出来ようとも、それを十全に扱う事は出来ないのである。
抑々、この再現と言うのは恐らく、腕に蛇などの鱗を纏う等の使用法が正しいのだろう。
ならば、どうすればこの蟲の脚を扱う事が出来るのか。
適用させれば良い、最適化すれば良い。
それは、言葉で言うには簡単過ぎる事だ。
だが、その実困難とも言える事である。
適用や最適化と言うものは元来、生物が果てしなく長い時間を捧げ、何代にも渡り、生存の為に────。
──────進化する事である。
本来なら、通常であれば、人間であれば、現実ならば、それは叶わなかったであろう。
けれど、通常とは異なる世界で、【人族】ですらないものが、それをするのは叶わぬ事であろうか。
社は昔、物心がついてまだ間もない頃。
夏の事、TVのチャンネルを回していた。
手が止まったのは夏休み等にやっている虫の生態についてだった。
その頃から虫が余り得意ではなかった社は、ディスプレイに大きく映る鮮やかな緑にの虫に気圧され、直ぐにチャンネルを回そうとした。
けれど、倍速で進められる時間、それは地を這う虫から、憐れにも殻に篭もり動けぬ虫となる。
しかし、その虫は最後には空へ飛び立つ事が出来る様に成るのだ。
幼心に社は少し羨ましいと思ったのだ。
それは、劇的な迄の進化であった。
幾らそれがその生物の遺伝子の中に組み込まれている進化であったとしても。
それは、1度の生の中で2度の進化するのだ。
それは、地を這い、地を這う獣に喰われた。
─────絶望した。
それは、身を固め喰われぬように進化した。
それでも、喰われる事に変わりはなかった。
─────絶望した。
それは、殻を脱捨て空を飛べる様に進化した。
それは、喰われる事に変わりはなかった。
─────絶望した。
ならば、次はどの様に進化すれば良いか。
それは、生きる事に貪欲であったが為に、1度の生に2度もの進化が与えられた。
ならば、であれば、貪欲に欲すれば良い。
何を?
知れた事、人間が人間で有るが故に永らく忘れられている生存本能を。
望め、臨め、挑め、改めよ、新ためよ、重ね、束ね、未ざね、見ざね、宿せ、曝せ、晒せ、想像しろ、創造しろ、決しろ──────。
未知を、不完全を、未完成の先を欲しろ。
ウィンドウが社の眼前に展開される。
『Origin Skills [進化の系譜]を取得しました。
発動しますか?Yes/No』
そこには、今迄される事のなかった事柄。
スキル取得時のウィンドウ自動展開に加え、スキル使用の有無。
しかし、迷う事は無い。
ウィンドウのYesに社は触れる。
肩胛骨の辺りが熱を帯びる。
その熱で4本の蟲の脚は焼けてゆく。
終末を迎え、再生する。
再生して、又焼け爛れてゆく。
繰り返し、繰り返す。
しかし、その熱もやがて終息する。
と、同時にスキルの使用終了を告げる。
『最適化されました』
社は首を回す。
けれど、そこには先程あったはずのおぞまししさはなかった。
片側に3本の腕があると言う違和感はあるけれど、逆に言えばそれだけである。
6本ある腕の指をそれぞれ握り、開き、動作の確認をする。
少しばかり難はある様だが、現段階でも利用可能ではある。
それぞれの手に武器を握る。
周囲から音が鳴る。
それは、社の出していた熱を感知した生物であろうか。
その敵の姿は蛇であった。
それは大きく、太く、長く、永い。
それは、宛ら通る場所を河へと変えてしまいそうであった。
その河蛇とも表現しうるそれは、明らかに今の社には手に負えない。
それこそ敵ではなく、モンスターであった。
しかし、社は向き合った。
後にバケモノと呼ばれるプレイヤーは、現時点でのバケモノへと。
それは、新たなスキルを得た事からくる全能感ではなく、ここがゲームであるが為に生存を諦めているのでもなく、それは社命の一部をこなす、社畜の目付きであった。
これはゲームだ。
けれど、仕事である。
であるならば、もう私に慢心はない。
業務は迅速に、且つ細部まで細やかに。
さぁ、────────。
「世界を貪る事としよう」
今回は造語がありました。
【河蛇】
河のように大きな蛇と言う意味合いで使っています。
ですので、誤字では御座いません。
ここまでお付き合い下さりありがとう御座います。