File:05 サービス開始
5話目にしてやっとこさ、ゲーム開始。
それでは、ごゆるりと。
2044年7月23日土曜日 7時38分
3人分朝食を用意し、社は結と葉紅を起こしにゆく。
結は社がドアをノックすると、目覚め返事をする。
葉紅は社がドアをノックしようが体を揺さぶろうが、目覚めない。
耳元で囁く様に朝食が出来たことを伝えるとやっと起きた。
皆が席に着いたことを三者がそれぞれ確認してから食べ始める。
ふと、結が社に聞いた。
「そう言えば、兄さん。
暫く会社をお休みして調べ事をするのですよね。
具体的に何を調べないといけないのですか?」
社は思考を回す。
そして、自身が詳細については話していない事を思い出す。
しかし、仕事の話である。
余り、詳細に話し過ぎるのも良くない事は確かである。
食べていた物を咀嚼し終えると社は大雑把に伝える事にした。
「〈Unfinished Future Online〉についての諸々を少しね」
結にそう言いながら社は葉紅の方へ少し視線を向ける。
「────っ?!
に、兄さんも〈UFO〉やるのですか!」
結はすごく、とても、興奮していた。
「そうか、結は〈Unfinished Future Online〉のβテスターだったな」
「はいです。
今日の9時からサービス開始ですので一緒にやりましょ、兄さん」
「私は構わないのだが、結はβテスター時の知り合いらとの約束があったり、するのではないか?」
そう社が言うと少しションボリとして、そうでした、と呟いた。
「それでは、兄さんフレンド登録だけ中であってしましょう」
「あぁ、それぐらいなら構わない。
私のプレイヤー名は社会だ。結は?」
「はい、私のプレイヤー名はムスビです」
「ムスビだな、分かった」
「しゃ、社会って───ぷっ。
ぁはは──────。」
葉紅は妙な点でツボってしまったようだ。
暫く笑い続けていた。
◆◇◆◇◆
現在時刻8時58分42秒
社はベッド型装置に横たわる。
スライドが締まり切る。
微睡みが社を襲う。
社はその微睡みに意思を委ねる。
『ようこそ〈Unfinished Future Online〉の世界へ』
その後、幾つかの物事を言われたが、前日に既にそれらを終えている社には関係の無い事であった。
社がその旨をNPCに伝えると。
『それでは社会様、存分にこの世界をお楽しみ下さいませ』
そうNPCに言われると社は噴水に背を向けるような形で立っていた。
噴水の周囲には社と同じ様な新規勢と人待ちのβテスター勢でごった返していた。
そんな中、社は1人の落ち着きの無い【獣人族】の女性アバターを見つける。
プレイヤー名ムスビ。
少しばかり不安そうな表情を浮かべている。
社が近付いていくと結も気が付いたのだろう。
嬉しそうな表情を浮かべ【獣人族】特有の尾を左右に振っている。
「すまない、遅くなった、ムスビ」
そう言って声を掛けた。
「いえ、私も先程やって来たばかりです」
「じゃあ、早速フレンド登録してしまうか」
「はぃ、そうしましょう」
結は少し寂しげな表情を浮かべる。
けれども約束は絶対遵守する様にと、昔から言って聞かせてきた。
惜しみながらも結は知り合いの所へと向かって行った。
社は社で行動し始める。
一通り街を歩き似ながら見て回る。
最初に立っていた噴水はこの街の中央に位置する場所にあったようだ。
それらの確認を終えると社は人の少ない所で自身のステータスを確認する。
HP:400/400
MP:100/100
STR:-10
VIT:-10
DEX:-5
AGI:-5
INT:-5
MND:20
LUK:-5
満腹度:64/100
種族特性[自己解読者]
・称号
[社畜への手解き]
・スキル
[] [] [] [] [] [] [] [] [] []
New[裁縫Lv.1] [細工Lv.1]
社は不思議に思う。
スキルについての心当たりはある。
けれど称号については全く心当たりが無い為確認する事にした。
・称号
[社畜への手解き]
メリット:固有特性[社会適合者]の付与。
製作、生産物等の製作成功時、効果及び付与数値を10%上昇させる。
デメリット:固有特性[社会不適合者]の付与。
製作、生産物等の製作失敗時、それらに使用した物を二倍の数ロストする。
それに加え、デスペナルティを以下に変更する。
一つ、アイテムポーチ内の物は全てロスト。
二つ、ステータスの値を全て20%減少。
はて、いつ貰ったのか。
いや、考えてもままならない、と社は思考を切り替える。
今現在進行形で発生している問題を解決しなければならない。
それは、満腹度であった。
こうして社が物事を考えている間も減っていってるのだ。
早急に解決しなければ、社の満腹度の値は底をついてしまう事は明らかである。
そう考えた社は街の外へと出た。
北、東、西は平原、南は少し行けば森、となっていた。
平原は人が多く居たので、社は南の森へと行く事とした。
◆◇◆◇◆
はて、この選択肢は間違いなのではなかろうか。
このゲームは目安として敵にはレベルを設定しているようなのだが、平原の敵はレベルが高くとも5程度だったのだが、この森は平均レベルが10程度である。
人がいない訳である。
その様な事は今はどうでも良いのだが、眼前の蜘蛛を何とかしなければならない。
キャラメイク時にスーツのポケットに搭載した、アイテムポーチのインベントリを眼の前にウィンドウを展開し確認する。
ポーチ内には初期武器一式、道中採取しながら歩いた為、良く分からない草や石が多く入っていた。
社は初期武器一式の中から長剣と短剣を取り出す。
蜘蛛は痺れを切らしたのか8本ある脚の内2本を社の方へと突き出してくる。
社はその2本の脚の突出される速度を見て一考する。
「ん、まだ、余裕だな。」
が、そう結論付けて一歩蜘蛛の方へと移動する。
一歩移動すると眼前の蜘蛛の顔と肉薄する形となると社は頭の付け根に長剣の刃を当て下から上へ一閃する。
蜘蛛は奇声を発し、事切れた。
そこで、社は一考する。
きっとこのままこの蜘蛛を調べたりばらすなどすれば、この蜘蛛のアイテムを入手出来るのであろうと。
けれど視界の端に映し出されたHP、MP、空腹度を示すバーの内、空腹度を示すバーが底を付きそうなのだ。
詰まり、社は食事をしなければならない。
引いては、今現在食料となりそうなものはそれしか無かった。
では、どうすれば、どこかしらに居る少数民族でも無い、現代社会に住まう一般人である社がそれを生理的拒絶無く食す事が出来るのか。
単純な帰結である。
[自己解読者]
前回よりも早く[自己解読者]の捕食が終わった気がする。
そして、それを捕食した事により満腹度が1割程度から3割程度まで回復した。
◆◇◆◇◆
その後も武器を替えながら、数十にも渡る敵と戦闘を繰り返し、満腹度は6割程度まで回復させていた。
ポーチの中には5日程は何もしなくても、満腹度が底を着く事が無いと言える程に食料(蜘蛛や蛇、蛙等の肉である)を集めた。
それを再度確認し、社はふと思い出す。
新たに幾つかスキルを取得しているのではと。
社はウィンドウを操作し、ステータスを開く。
・スキル
[] [] [] [] [] [] [] [] [] []
[裁縫Lv.1] [細工Lv.1]
New [採取Lv.1] [看破Lv.1] [隠密Lv.1] [集中Lv.1] [精密Lv.1] [一閃Lv.1] [剣術Lv.1] [鉄鞭術Lv.1] [槍術Lv.1] [銃術Lv.1] [弓術Lv.1] [棍術Lv.1] [斧術Lv.1] [棒術] [暗器Lv.1]
思っていた以上に増えているスキルに少し驚きながらも、それぞれに覚えがあった。
だが、満腹度には余裕があった為、社はスキルの説明を読む事にした。
ウィンドウの[一閃Lv.1]と書かれている所に触れる。
[一閃Lv.1]
AS:剣スキルでとても早い速度で敵を切れます。
あぁ、運営の雑な所を見てしまった。
社はそんな事を思い[一閃Lv.1]の説明を閉じようとした。
しかし、視界の端にある文字を捉えた。
『このスキルをセットしますか?Yes/No』
あぁ、本当に雑な行動を取っていたのは誰なので御座いましょう。
社は森の木で隠れて見えない筈の天を仰ぐ。
「私だ」
昨日、社長に具申し、言われたばかりではないか。
こちらに集中しろ、と。
この様な事では仕事を下さった社長に顔向け出来ない。
仕事を肩代わりしてくれている同僚達にも申し訳が絶たない。
では、どうするれば良いのか。
簡単な事だ。
全力でこの世界を貪れば良い。
そう結論付けた社は、スロットに使用機会がありそうなスキルをセットしてゆく。
・スキル
[採取Lv.1] [看破Lv.1] [隠密Lv.1] [集中Lv.1] [精密Lv.1] [剣術Lv.1] [槍術Lv.1] [銃術Lv.1] [斧術Lv.1] [暗器Lv.1]
・控え
[裁縫Lv.1] [細工Lv.1] [一閃Lv.1] [鉄鞭術Lv.1] [弓術Lv.1] [棍術Lv.1] [棒術Lv.1]
そして、社は今まで殆ど試していなかった種族特性を[自己解読者]の一部箇所再現可能を使用する事にした。
昆虫系統の多脚をイメージする。
そして、小さく呟く。
[自己解読者]情報を開示しろ。
肩に違和感を感じ、社は成功したのだと悟る。
スーツの上着を脱ぎ、シャツも脱いだ。
首を回し、右の肩胛骨の辺りを視界に納める。
そこには、【人族】の体にあるにしては不可解な程自然に蟲の脚が、左右に2本ずつ本来の腕の下に、人間代の大きさで生えていた。
それは、余りにも────。
─────おぞましかった。
御読みくださりありがとう御座います。