File:04 息抜き
またもや、主人公外視点なので読まなくても問題ありません。
〈Unfinished Future Online〉の正式サービスを控えた前日、事前にキャラメイクする為にログインする人が多くいた。
運営は専ら、キャラメイク時のキャラメイクの説明はNPCに任せていたが、時折、仕事の息抜きにとそう言うプレイヤーに付き合う者もいた。
彼女もその内の1人だ。
◆◇◆◇◆
現実時間で15時13分47秒。
私は1人のプレイヤーのキャラメイク時の説明をする事となった。
それは、偶然だったのだろう。
彼が私に気が付いた事を確信してから口上を述べた。
「あぁ、コホン。
ようこそ〈Unfinished Future Online〉の世界へ」
彼は少し不思議そうな顔をした。
NPCか?と疑っているのかも知れない。
『えぇ、御丁寧にありがとうございます』
本来であればNPCであるところに対しても丁寧な人だ。
「いえ、仕事ですので。
それはそうと、社様はキャラメイクの説明をお受けになられますか?」
それなのに私は形式的な丁寧さしか出す事しか出来ない。
─────割愛。
◆◇◆◇◆
私が説明を終えると彼は早速キャラメイクに取り掛かった。
数ある種族を見てゆき、時折それを選択し、少し身体を動かし、また次の種族を、と次々と閲覧してゆく。
しかし、ふと彼の手が止まった。
私も手元のウィンドウを確認する。
───【Defect】
それは、このゲームにおいて最も弱いとされている種族であった。
種族特性が強い為に強くは見える。
その上、人によってはステータスのマイナス補正値的には、動くのに少しばかり慣れが必要な程度であったし、許容出来る範囲であった、補正値的には。
が、その実、その種族は殆ど動く事が出来ないのだ。
人間とは全く別の身体構成をしているのだ。
その種族以外のどの種族も人間ベースの骨格に、その種族特有の部位が付いている等と言った、身体構成で留めている中でだ、【Defect】だけは完全に生物的骨格すら持っていないのだ。
それは宛ら、アメーバなどの単細胞生物の様であった。
詰まりこの種族が最も弱いとされる理由は動けないが故に、動ける様になる為の最初の生物を捕食出来ないのである。
強みである種族特性の[自己解読者]を発動する事すら出来ない為であった。
彼は少し考える素振りを見せながら、次の種族の確認へと移っていった。
それを数分続けて彼は【人族】を選び補正値〈10〉全てをDEXに振り、キャラメイクへ本腰を入れ始めた。
しかし、スキャンされたアバターから差程弄るつもりは無いようで髪を背中中頃程迄の長髪に変え手早く後ろで三つ編みにしてゆく。
髪留めが無い事に気が付いたのか少し手を止めた。
だから、私は選別に銀の長さ3cm程の輪の髪留めを、彼の手の止まっている所にアポートして髪を止めた。
勿論、ステータスには何の影響を及ぼす事の無いただの飾である。
その次に彼はアイカラーを黄色に変えてアバターの変更は終えた様だ。
彼は私に近付いてきた。
「すみません、裁縫道具などはお借り出来ますか?」
そして、彼はそんな事を聞いてきたのだ。
私は一瞬放心する。
何故?と考えたのだ。
「ぇ、ぁはい。
お貸しすることは可能です。
使用後は返して頂く事になりますが」
意図が分かり慌てて取り繕いながら、貸出が可能な旨と注意事項を伝えた。
彼は流麗な手付きで布を縫い合わせ、刺繍を施し、それに魅せられていた私が気が付けば、1時間半程が過ぎ。
そこには、見事な迄のスーツ姿の社会人が立っていた。
その姿の彼に私は何処と無く、シンパシーを感じた。
あぁ、この人も真黒な会社に務める事に成ってしまった社畜なのだと。
だから、私は息抜きでキャラメイクの説明をする人間にも許された権限を行使する。
それは、称号を与える権限。
そこで、与えられた称号はゲーム内では取得不能なものが数多くのある。
その時そこに居る運営の人物が適度に設定して、与えるものが殆どだからである。
メリット:固有特性[社会適合者]の付与。
製作、生産物等の製作成功時、効果及び付与数値を10%上昇させる。
デメリット:固有特性[社会不適合者]の付与。
製作、生産物等の製作失敗時、それらに使用した物を二倍の数ロストする。
それに加え、デスペナルティを以下に変更する。
一つ、アイテムポーチ内の物は全てロスト。
二つ、ステータスの値を全て20%減少。
称号名を─────っ!
肩に触れられた。
ウィンドウから顔を上げると全裸の彼が立っていた。
ふぇ、どど、どう言うこと。
彼が立っているここまでは普通に起こる。
彼が全裸─────これは起こってはならない事。
いや、システム的には出来る。
出来る様に作られているのだから。
このゲームではスポンサーの変態オヤジ共の強い要望により、両者が同意した場合のみ特定の場所に限り性交が可能になっている。
その上で、強制的に異性に触れる等して不快感を与えた場合は即刻強制ログアウトさせられ、後にログイン権の剥奪等の処罰が下る。
しかし、これはどうなのだろうか?
私は不快感を感じているか?
それどころか、フラストレーションを溜めまくっている。
くるなら来い、いや、来て下さい。
いや、いやそうじゃ無くて、どうして彼が全裸なのかであって────。
眼前で彼は溶けた。
正しく言うのであれば、種族が【Defect】に切り替わていた。
彼は少し何かを試したのか、その形状を波打たせるが、成功する類の物事では無かったのだろう。
直ぐに諦め、こう呟いた。
[自己解読者]
私は声を上げようとした。
けれど、声は出さなかった。
私の運営用アバターは【Defect】の中に取り込まれた。
不思議と不快感はない。
彼が強制ログアウトさせられていないのがその証拠足り得るだろう。
それどころか、私は口を噤む事で必死だった。
恥ずかしくも、気持ち良くて仕方無かったのだ。
肌に触れる感触に身体を跳ねさせ、無限のように連なる時間、続く時間。
だめ、だめ、
波打つ感覚を体感する度に絶頂に達する。
だめ、だめ、だめ、
絶頂が無限に連鎖する。
だめ、だめ、だめ、だめ、
肩で息をする、体内にそれが入り込んでくる、失敗した、それが私の体内を絶対的快楽で蹂躙してゆく。
だめ、だめ、だめ、だめ、───────。
───どれほどの時間、侵されただろうか?
そうだ、彼に称号を与えている途中だった。
後は、贈与するだけ。
ウィンドウの贈与をタッチする。
プレイヤー社会に称号が贈与されました。
称号名は。
[社畜への手解き]
御読みくださりありがとう御座います。