File:22 不定形
社は鍵を拾い。
2の番号を振り分けられた部屋へと歩を向ける。
躊躇無く社は扉を開ける。
それは危険は感じられないと言う生物的感であった。
安全な場所とまでは言わないまでも危険のない場所。
それは実害然り、精神的被害を齎さない場所であると、社には感ぜられたのだ。
それは曰く感であり、観であった。
詰まる所、見るも安全、感じるも安全という事である。
開く、開く、そこはキッチンであった。
ただし言葉を加えるのであれば、そこは自立した明かりで照らされていた。
中央の部屋から齎される蝋燭の明かり等ではなく、その部屋独自の明るさがあった。
けれど、そこは明るい事は分かるが、照明器具が一切存在しないにも関わらず明るさを強要されている様な不気味さもある部屋であった。
外灯の殆どない田舎の道、光に群がる蟲の様に転々とある外灯を求め歩く迷い人の様に、社は明るい安心感のある部屋に足を踏み入れる。
さして、特徴のないキッチン。
不思議でならない事は幾らかあった。
けれど、何もこれと言った事はない場所であった。
あるのは焜炉、食器棚、果物が多く仕舞われた籠。
先程までの部屋の様に紙がある事や、不快な事がある訳でもない、唯々明るい部屋。
だから、という訳ではないが社はその部屋を後にした。
そして、社は先程からずっと1の部屋に背を向けじっとしている人物に声を掛けた。
「清、何をしているのですか?」
「社会様がじっとして居ろと仰られましたから」
清は拗ねている様であった。
宛ら小学生の様に、子供の様に。
社が自身以外の女性と接しているのが、気に食わなかったのだろうか。
今にも地団駄を踏んで玩具を強請る子供の様な行動を取りそうな、雰囲気であった。
「清、こちらに来なさい」
だから、社は息をつき。
子供を諭す親の様な心持ちで清を呼んだ。
「むぅ、し、仕方ないですねぇ。
私はじっとして居なければならないのですが、社会様が呼んで下さるのであれば仕方ありませんね。
致し方無しです」
その様な事を緩みそうな頬を引き締めながらポツポツと零し、社の方へと寄ってくる。
「清、それでは4の部屋にこのまま入りましょう」
社は3よりも距離の近い4を指す。
「3ではなく、4ですか」
清としては社は番号が振られていればその順に行動するものだと、理解していたからこその言葉であった。
それは的を射ていたし、その通りであった。
けれど、今回は条件が違う。
制限時間があるのだ、であるならば、距離を考慮して動くのは至極当然とも言える事柄である。
「ええ、4です。
それでは、早速移動しましょう」
「はぁい」
清はやはり何処か腑に落ちない様子で短く返答する。
4の扉の前に社と清は立つ。
今回は先程と違い、ゆっくりと扉を開けてゆく。
扉の隙間から香るのは木の匂い、古びたインクの匂い、日に焼けた古くさい紙の匂いが柔らかに、軟らかに柔和した香り。
それは人によっては安らぎすら感じさせる香り。
それは人によっては古臭いと一蹴してします様な香り。
社は前者、清が後者である事はその様相を見れば一目瞭然である。
社は安らぎを求め、その部屋に足を踏み入れた。
清はただ社を追い掛ける様にして足を踏み入れた。
社は顔を輝かせる、そこに未知の本があると香ったからである。
清は顔を歪ませる、そこが古臭く、埃が漂う場所だからである。
その部屋の内部は部屋を一周する様に壁が扉の場所を除き全て本棚で構成されていた。
中央には机と椅子が一組置いてある。
机上には紙と蝋燭が一つあった。
蝋燭一つでは薄暗い筈の部屋を何ら迷いなく社は進む。
机の上の燭台を手に取り、清に手渡す。
「清、持っていて下さい」
清はコクリ、コクリと頷く。
漂う匂いが苦手で息を止めているのだろうと社は推察し、それ以上は追求しなかった。
紙を手に取り、社はそれを読む。
『・中央の部屋
紙には此処から出る為の手段が書いてある。
けれど、少し小難しい。
書庫で調べるといい。
・1の部屋
特に何も無い。
過去には利用されていたらしい。
・2の部屋
食事を用意する所。
幾らかの果実が置いてある。
・3の部屋
o32@ho2sが居る。
回り口説いけど何でもしている。
・4の部屋
本は大切な物だから、大事に。
・部屋
神様が待ってるよ
・大事な事
覚悟を決めて、迷わずに』
覚悟を決めて迷わずに、ですか。
難しい事を仰られる。
そう思い紙を机の上に置いた。
社は周囲を囲む本棚を流し見する。
それで気になった本は6冊、2部の新聞紙。
2冊はこのイベントとの関連性。
4冊の本は異様な雰囲気を放っていたが為。
2部は先程見たばかりの顔と写真が酷似していた為。
イベントに関連があると思われる本を開く。
ホイタッカーが示した五界説を認めた本と、創世記を。
内容は社が記憶していた物と大差は無かった。
他4冊については此処で読むべき物では無いと判断し、社は襤褸を半分に裂き半分は下半身を覆い、もう半分で4冊の本を縛り残った部分で腰に巻き付けた。
2部の新聞紙の内1部を広げる。
そこには少女が写っていた。
それは先程1の部屋であったばかりの少女であった。
記事の内容としては少女の偉業を賞賛する物であり、寝ると言う書き置きを残し、行方を眩ませたとの事であった。
発行日を確認すると、2039/2/5であった。
社も既に生誕し、大学生をしていた頃である。
であるならば、と頭を悩ませる。
それは知らない事柄であったのだ。
時期的には知っていなければおかしな事である。
ここまでの事を成し遂げ、消えていった人物であるならば、誰しもが知っている筈の人物である。
それを、知らない?
どうして?
回す、廻す、思考を。
しかし、幾ら思考を回せど、回せど理解し得なかった。
それは宛ら、全く別の二つのパズルを混ぜ一つの絵に仕様としている様な、不快な感覚である。
不可能を可能とせよと命ぜられている様な感覚。
記憶と記録、相反する二つ。
社に不共和を齎す。
何かに突き動かされる様にもう1部の新聞紙を急ぎ開く。
そこには知らない言語が羅列されていた。
いや、知らない言語等というものでは無い。
抑々、社が知っている言語体系を大きくそれは外れていた。
新言語、暗号などと言った文字が脳内を埋め尽くしていく。
それは、社が望んでいた未知であり、社が望む事の無かった知己である。
「ど、どうかしましたか?
社会様?」
清は社の様子が余りにも可笑しいと感じたのだろう。
社もその声ではっとする。
我に帰る。
「いえ、少し驚いてしまっただけです」
そう言って社は本を縛っていた襤褸を解き、そこに2部の新聞紙も共に入れて再度縛った。
「清、それでは3の部屋にいきましょう。
此処ではこのイベントについての脱出方法を知る為の知識を知る場所の様ですし、私には余り意味がある場所ではありませんでした」 早口になる。
それは無意識での事だ。
それは社の狼狽を如実に表していた。
だが、清はそれを指摘する様な事はしなかった。
仕様にも理由も分からぬのだ、気休めも言えやしない事が明白であったからだ。
社は早々に部屋を出た。
この部屋に入って行った時の楽しげな表情など微塵も感じさせる事の無い。
不鮮明や怒り、不安で張り詰めた表情で。
清はその背を静かに追う事しか出来なかった。
無知が故に。
であるならば、自身はどの様にすれば、社会様の重荷を、それの一端でも支える事が出来るであろうか。
と、清は思考する。
決意する、それぐらいしか自身には出来ないと。
無知である自身が、社会様を支える事が出来るとするならば、それは変わらぬ事。
それは変化を受け入れないと言う事ではない。
それは変化をも包み込むと言う決意するである。
思考に耽る社が、不安定である事を清は共に過ごしてきた生活で理解ていた。
故に、故に清は歩を強めた。
背を追い掛けるだけの人物であった自身から脱却する為に。
社の左に立ち、はめられた指輪の感触に微笑みながら背伸びをした。
深く思考に溺れた社の耳元で囁くために。
「社会様、忘れないで下さい。
私も居るのですよ。」
私事で3日程更新で来ません。
読んで頂いている皆様には非常に申し訳ありませんが、御容赦下さい。
その後は今迄通りのペースに戻せればと、考えていますので宜しければ読んでやって下さい。




