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File:16 愛は時場所場合を考慮せよ

掃除って楽しくないですか?

1日終わってました。







「本当に失礼ですね、茜夏。

 恐らく、貴女は私の作業風景を見ていたでしょうに」

 社は呆れる様に肩を竦める。


「いや、だって。

 だって、まだβの時から見ても%形式の回復薬何て作ってる奴なんか居らんかったし、それがスキル取得時のそれで造られるやなんて、疑いたくもなるってもんやろ。

 それでも、堪忍な」

 茜夏は大仰に身振り手振りをして説明するが、作れてしまった社からすれば、それ程凄いのか、程度にしか思えないわけであって。

 いや、確かに効率が良い事は幾らゲーム初心者の社にも分かる。


「ですが、失礼に事を言った事に関しては追及しない事にしておきます。

 その代わりに、それの事は他プレイヤーには喋らない事とします」


「あぁ、それは勿論。

 こんなのうっかり口に出そうもんなら、馬鹿にされてさらし者にされるわ。

 だから、と言う訳やないけど喋んないよ。

 会兄が売り出したりし始めたら広めるけど」

 口元を抑えもごもごさせながら茜夏はそう言った。


「そうですか、ならいいです」

 今はまだ口外しないと聞けた上に、売り出す場合の売り込みまでしてくれるとの事で、社は満足して口を閉じた。


「あ、そや、フレンド登録してや」


「ええ、いいですよ」

 社、3人目のフレンドである。



 ◆◇◆◇◆



 その後、各々の作業に着手してゆく。

 お喋りな茜夏も自身の作業に没頭し始めてからは静かなものである。

 作業音は例外とする。



 と、社は次いで[糸製作]を取得する事にした。


 借りた道具の内から糸紡ぎ機を対面に置き、鋼糸に魔力を練り込む様なイメージをしながら出してゆく。

 それを糸紡ぎ機の棒の端に繋げる。

 鋼糸を出している手を斜めの位置に配置し、糸紡ぎ機のハンドルを左に回して撚っていく。

 800T/mぐらい撚った所で端に繋げていた鋼糸を糸紡ぎ機の棒の根幹に繋ぎ直す。

 そして、手を正面に置き撚った鋼糸を巻き取ってゆく。

 また手を斜めの位置に配置し、鋼糸を撚っていき、巻き取ってゆく。

 それを繰り返し、繰り返す。


 それは、とてつもなく淡々と成されてゆく。

 それが2玉出来上がる頃には日が暮れていた。

 それに気が付いた社は道具を返し、糸を巻き付けた棒だけは購入してポーチにしまった。

 そして、借宿へと帰った。



 ◆◇◆◇◆



「おかえりなさいなさいませ、社会様」

 部屋へ入ると早速、清が駆け寄って来る。


「はい、ただ今帰りました、清」

 社がそう言って中に入って行くと、テーブルの前に座る事を促す清。


「夕飯いまから並べますので少し待っていて下さい、社会様」

 清はそう言い、移動する。


「いえ、私も手伝いますよ」


「だめです。

 私の仕事を取らないで下さい」

 その様に言われてしまっては弱い社であった。



 どんどん料理が並んでゆく。


 蛸とトマトの大葉ジェノベーゼ

 レバニラ炒めカシューナッツ乗せ

 牡蠣のレモンバターソテーアボカドソース添え

 ホタテとアボカドのカルパッチョ


 豪勢な料理だ。

 清がどれだけ腕によりをかけて作ったのかが伺える。

 しかし、社はそれらに一抹の疑問を感じた。

 手が隠れて抜かれている等では決してない。

 けれど、拭い切れない疑問。

 何からくる疑問であろうか、何かこれらに共通する点は無いだろうか。



 思い当たり、社はその考えを凪ぎたくなる。

 しかし、社にはそれしか思い当たらなかった。



 それは精がつく食べ物。



 安直に大蒜や鰻と言ったものを出してこない当たりが狡猾である。

 そう考える思考を社は一度止める。

 清がそう言うつもりでない可能性を考える。

 しかし、幾ら考慮してもその可能性は極めて薄かった。

 何故と、考えるまでもない。

 で、あるならば一つ清に告げなければならない。


「社会様、どうぞ召し上がって下さい」

 清は浮ついた嬉しそうな声音でそう言う。


「はい、それでは頂きます」

 社はそれに少し心苦しくなりながら、これから言わなければならない事を脳内で反芻させる。


 料理に口をつける前に口火をきる。

「清、一つ話があります」


「それは食事を終えてからでは成りませんか?」

 清は社の言葉に不安を覚えたのだろうか。

 社の真剣な声音を重く受け取ったのか。

 確認をとる。


「はい、食事を終えてからでは成りませんね。

 清により酷い事を言いかねませんから」


「ぅうぐ、こ、今回ばかりは、社会様の言葉を聞きたくありません。

 何も言わず、何も思わず、私の作った料理食べて下さい。

 お願いです、お願いですから」

 清は目に涙を溜め、声音を濡らし言葉を搾る様に洩らす。


「いえ、言わなければ成らないので言います。

 その後、夕飯は美味しく頂きます。

 私から言う事は一つです。

 私は『わぁぁ、聞きたくありません、聞きたくありませんたら、ありません。

 ばか、ばか、ばか、ばか、ばか、ばかぁ、私は、私は社会様の事をお慕いしているのです。

 だから、社会様が私に欲しいものを考えていてくれと仰ってくださった時、私は天にも昇る様な心持ちでした。

 何せずっと、ずっと、思い馳せていた事が叶うのだと考えると、私はそれだけで嬉しくて、嬉しくて、もう思考回路が何度ショートしてしまういそうになった事か。

 だから、何も、何も言わないで、言わないで下さいよぉ。

 私は社会様の事が好きで好きで大好きで、それこそ言葉では足りないくらいに。

 だから、何か、何か形で欲しいのです。

 唯一無二の愛の結晶が欲しいのです。

 だから、どうか、私の、私にアナタの子供を宿させて下さい。』私は清の気持ちを少なからず汲んでいるつもりです。

 しかし、言わなければならない事がある事をご理解下さい。

 私は清を嫌っている訳ではありません。

 寧ろ好いている方だと自覚しています。

 でなければ、食事を共にはしませんし、それこそ、就寝を共にするなどありえません。

 この事から私は清を嫌いでないことが如実に見て取れます。

 いえ、ここまでしているのであれば、私の何処かに清を好きである、と言う感情があっても何ら不思議ではありません。

 いえ、ない方が不自然だと言えることでしょう。

 で、あるならば、何故私は清との間に子を成さないか、という訳なのですが。

 それは今だに育児条件等が揃っていない事にあります。

 一つ目、お金。

 二つ目、時間。

 三つ目、場所。

 以上の三つの条件が私と清では満たせていません。

 お金に関しては私と清をこの宿に泊め、食事をする程度ならば、何ら問題はありませんが、新たにもう一人となれば話は変わってきます。

 時間、私はある仕事でこの世界に来ている事。

 なのでいつかは、この世界で子を成すことも吝かではありません。

 いえ、成すこととなるでしょう。

 しかし、今はまだ早いです。

 場所、抑々此処は借りた部屋ですので汚すような事があっては成りません。

 ですので、私が子を成すとなればそれは金銭面に問題が無くなり、自身も育児に参加できる時間と場所を確保できる環境に移った時になります。

 以上の事から今はまだその時では無いことが清にも分かって頂ける事だと確信しています。

 抑々、子を孕み、子を成し、出産する事はどれだけ母胎に負担を掛けることかは、男性である私より清の方が正しく理解していますでしょうに。

 ですので、四つ目に清が心配でならないと付け足しておきましょう。

 どうです?

 これだけ言ってもまだ足りませんか?」

 そう言って社が困り顔で締め括る頃には、清は血色の良い肌を染め、湯気を立ち上らせ、涙を零し、鼻を啜り、咽び泣いていた。




 それを数分続け、清は少し落ち着いたのだろう。

「ありがとう御座います、そう言って頂けただけで嬉しいです。

 だって、それは近い内に私との間に子供をつくって下さるという事でしょうから。

 なので、私から社会様にお願いする報奨は右手の中指にはめている指輪を、左手の薬指にはめ直してください」

 社は少しばかり困惑した後にはめ直したのだった。





「それでは少しばかり冷めてしまいましたが、夕飯をたべましょ」

 清は満面の笑みでそう言った。

糸のくだりは薬同様に確かな記憶で書かれたものではありませんので、間に受けないで下さい。

ここまでお付き合い頂きありがとう御座います。

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