空が見てる
お題:無邪気な君の計画性
空は青い。どこまでも、青。肌に感じる程の風はなく、流れる雲は、ゆるやかで。
じっと見つめていなければ、止まっているのかと思うほど。
空が、大地を見下ろしていた。
「やっぱりここにいた」
不意に、背後から聞こえる声。それは確実に悟史の耳元に届いていたはずだったけれど。
木の幹に身体を預け、足を投げ出す姿勢で空を見つめたまま、悟史はピクリとも動かなかった。
「もう。また、ぼんやりさん?」
由梨は、反応を示さない悟史に肩を竦める。スタスタと悟史の元へと歩み寄ると、腰を屈め、悟史の肩にポンと片手を置いた。
そこで、ようやく悟史は声をだす。
「いい天気だねえ」
「相変わらず、無邪気と言うか。能天気と言うか……」
「ん?」
「いや、分かってる。悟史とは付き合い長いもの」
キョトンとした表情で、由梨に首を傾げる悟史に、由梨は大きくため息をついた。
「進路調査のプリント。まだ提出してないんでしょ? 先生に持ってくるように頼まれたの」
「由梨が?」
「そう。私が、悟史のプリントを」
由梨は、苦虫をかみつぶしたような不機嫌な表情で頷くと、屈めていた腰を上げる。
「まあ、なんだかんだ。悟史の世話係だからね」
そう言って、悟史が見ていた空を見上げた。
二人の出会いは中学二年生の春。
由梨のいる学校に悟史が転校してきたのだ。当時クラス委員をしていた由梨は、担任から当然のように悟史の世話係に任命された。
いつもぼんやりしていて、どこか頼りない悟史は、他の人よりワンテンポ遅れる。忘れ物も多かった。
元々世話好きの由梨は、そんな悟史を放ってはおけなかったのか。
同じ高校に進学して高校生活二年目の今も、悟史の世話係としてなし崩し的に現在に至る。
「で、プリントは?」
「机の中だったかなあ」
「じゃあ、取りに戻らなきゃ」
「いや。まだ白紙なんだよね」
その言葉に、由梨は空へ上げた視線を悟史に戻す。ふう、と息を吐くと
「悟史の学力ならどこでも大丈夫でしょ? 何を悩む必要があるの」
悟史は、その天然な性格に反して非常に頭が良い。常に学年一位を維持している。
「由梨はどこに行くの」
「今、私関係なくない?」
「由梨と同じところに行きたいんだけど」
その声に、由梨は固まった。悟史は、真っ直ぐな眼差しで固まったままの由梨を見つめる。
「俺、由梨と一緒が良いんだ」
そう言って、無邪気に笑った。
「ねえ、まさか高校受験」
なにか、思い付いたように由梨は声を出す。
その声は、酷くぎこちなく響いた。
悟史の学力の高さは転校当初から話題だった。
本来なら、もっと上の高校も楽に行けたはずだった。
「うん。由梨と一緒が良いから、同じところ受験したんだ」
そう言って、悟史は微笑んだ。
「ただ無邪気に振る舞ってたわけじゃないよ。由梨のそばにいたいから、ずっと演じて来たんだ。見事でしょ?この計画性」
余りにも突然な告白。そしてその衝撃的な内容に、由梨は声を出せない。
けれど、悟史は構わずに言葉を続けた。
「由梨。大学どこ受験するの?」
フリーワンライ初参加。
一時間がどれだけ短いかを、身を持って知った瞬間でした。
3時間かけても一文字も書けない時があるような私にとって、これは過酷(笑)
でも、一時間で書ける文字数を知ったのは、良い経験でした。