表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/55

カザブの野望編 第24話

「さて、昨日の話の続きだが」


中庭から部屋の中へと戻ったマーガレットとアラシドの二人はアラシドの居室の応接間で向かい合わせにソファに座っていた。


「あんたと俺は婚約することになった」


「ええっ!」


マーガレットはぎょっとして目を見開く。


「・・・という噂を流す」


ホッと胸をなでおろすマーガレット。

そんな彼女をアラシドが不服そうに見る。


「そんなに嫌か?」


「もちろんです」


マーガレットは容赦なくぶった切った。


「はあ。これでもけっこうモテるんだがな」


そうため息をつきながら言うアラシドにマーガレットは素直に頷く。


「それはわかります」


「お前、下げるか上げるかどっちかにしろよ」


アラシドは嫌そうな顔でマーガレットを見た。


「ともかく、俺とあんたが結婚することになった、という噂を流すことでおそらくアルカハールが食いついてくるだろう」


「魔法石の錬成と兵器の開発にわたしを協力させろと言ってくるんですね」


「ああ、十中八九な」


そこでマーガレットはふと疑問に思う。


「あなたとアルカハール王は対立関係にあるんですよね?」


「まあ、平たく言えばそうだな」


「でも彼はあなたのお父様なのでは?」


マーガレットは彼らがとても仲の悪い親子なのだろうか、と思った。

だが彼女はアラシドの返答で驚くことになる。


「いや、アルカハールは俺の父親ではない。あいつは俺の兄だ」


「ええっ!?」


マーガレットはその言葉に再び驚きの声をあげる。


(どう見ても親子ほど年が離れている気がしたけど・・・)


「俺の父親は先代王アルワジだ。俺の母はアルワジの第一側室だった。だがずっと母の美しさに目をつけていたアルカハールは、父を追い落とした後、無理やり母を自分の側室にしたのだ。だからアルカハールは俺にとっては兄でもあり、義理の父親でもあるということになる」


あまりにも複雑なその関係にマーガレットは頭痛がするような気がした。


「父であるアルワジはかなり年をとった後に俺の母を(めと)ったもんで、俺みたいな若い息子ができたってわけさ」


マーガレットはそれを聞いてアラシドの母親はきっと政略結婚で父親ほども年の離れた男に無理やり嫁がされたのだろうと考えた。


だがマーガレットの表情から彼女の考えていることを読み取ったアラシドは付け加える。


「言っとくけど俺の母が父アルワジと結婚した理由は、母の一目惚れだからな」


「ええっ!?」


マーガレットはまたまた驚きに声をあげる。


「母は自分の父親と同じ年ぐらいの当時のアルワジ陛下と出会い、自分の運命の人はこの人だと感じたんだと。それから母はことあるごとに陛下に自分の想いを伝えまくり、最終的には陛下がほだされたって形らしい」


アラシドは肩をすくめた。


「そ、そうだったんですね」


マーガレットはまだ驚き冷めやらぬ様子で返事をする。


(ということは熱烈な恋愛結婚ってことか。ちょっと意外・・・だってカザブは女性が自分の意見を言うのを良しとしない国みたいだし)


マーガレットがそれを指摘すると、アラシドは苦笑した。


「確かに昔からカザブには女よりも男が強い立場にある風習がある。だが俺の母はちょっと変わった人だったんだ。型破りというか破天荒というか・・・」


アラシドはそう言って目を伏せるとクスリと笑った。


「あの人はいつだって自分に正直で、そして相手の目を何のためらいもなくまっすぐ見る人だった。そう、あんたみたいに」


そう言うとアラシドは熱の宿った瞳でじっとマーガレットを見つめた。

マーガレットはその眼差しにドギマギし視線をふせる。


(こ、この空気・・・な、何か話題を変えなくちゃ・・・そうだ!)


「ア、アルカハール王とあなたは兄弟ということだけど、あまり似てないですね!」


母親が違うとはいえ、あまりにも二人は似てないような気がマーガレットはしていた。

二人とも父親に全く似ず、母親に似たのだろうかとマーガレットは思ったのだが。


「ああ、それはアルカハールがアルワジ王の子ではないからだ」


「えええっ!」


今日は驚きっぱなしのマーガレットである。


アラシドの話によると、実はアルカハールが先代王の子ではないというのは公然の秘密であったらしい。

アルカハールに先代王アルワジの面影がまったくないこと、また王妃が当時親密にしていた護衛兵に成長するほど瓜二つになっていったことなどから必然的に王妃の不貞は皆の知るところとなった。


王宮はアルカハールを擁護する王妃派と、先代王アルワジの面影を色濃く受け継いだアラシドを王位継承者とし、アルカハールを廃嫡させようとする側妃派で真っ二つに割れた。


アルワジは王宮の混乱を治めるため最終的に王妃の不貞は明らかであるとし、アルカハールを廃嫡する決断を下す。


しかしこの決断がアルワジの命を早々に散らせる結果となった。

王妃とアルカハールがアルワジに対し反旗を翻したのである。


アルワジを討つことに成功した王妃とアルカハールであったが、皮肉にも実母である王妃もアルカハールによってこの時に討たれている。


「ちなみに俺は母譲りの魔力があったから生かされた。母にはそう多くはないがツィツェンの血が流れていて、俺にその力が強く出たらしくてな。奴は俺のその力が後々戦争で使えるとでも判断したんだろう」


なるほど、とマーガレットは頷いた。

いかにもアルカハールが考えそうなことだ。


(ということは、アラシド殿下とアルカハール王は血がつながっていないということね。どうりで似てないはずだわ)


二人の容姿の似ていなさが不思議だったマーガレットはアラシドの話を聞いて納得した。


「それで話を戻すが、アルカハールがあんたに魔法石の錬成や兵器の開発をするように命令してきたとき、あんたにはそれに同意してもらいたい」


マーガレットはその言葉に頷く。


元々マーガレットが考えた作戦では、自分が実は兵器を作ることに興味があるふりをして開発中のものを見せてもらい、魔法石を破壊する予定だったのだ。

アラシドの提案に頷くことに否やはなかった。


「そしてある程度日数を置いた後に、兵器が完成したからそれを披露したいと俺の方からアルカハールに申し出る」


「でもわたし兵器なんて作れませんけど・・・」


マーガレットの言葉にニヤリとアラシドが笑う。


「大丈夫だ。大量殺人に特化した魔法石を錬成したとでも言えばいい。あいつらには見分けなんてつかないからな」


彼の言葉にマーガレットは首をかしげた。


「本当の兵器である必要はない?」


「そうだ。兵器を見せるといえば王に(くみ)する人間が一堂に会するだろう。そこを一網打尽にする」


それを聞いてマーガレットは納得した。


「要は口実があればいいわけですね」


「その通りだ」


アラシドはマーガレットの言葉に頷いた。

そしてふと疑問に思う。


「でも、それならわたしとあなたが婚約するという噂を流さなくても、わたしが一言”兵器の開発に協力する”といえばいいのでは?」


アラシドはその言葉に首を横に振る。


「あんたが素直に戦争に使う魔法石を錬成しないだろうことはさすがにあちらも読んでいるだろう。それが突然態度を180度変えて協力するなどと言ってみろ。怪しすぎて何か裏があるに違いないと疑ってかかるに決まっている」


それを聞いてうーんと唸るマーガレット。


「あなたに脅されてということにしたら?」


「俺がアルカハールと戦う前にあんたの婚約者と戦うことになる」


(・・・それは絶対にあり得る)


そう言われてマーガレットは納得せざるを得なかった。


(やっぱり()()()()は避けて通れないか・・・)


「じゃあ、せめてリチリアの皆に作戦を伝えてもらえませんか?」


マーガレットが姿をくらました上に、アラシドとの婚約の噂が流れたりしたらアレクや皆がどう思うかと彼女は心配だった。

マーガレットは祈るような気持ちでアラシドを見るが、彼はまたも首を横に振る。


「悪いがそれはできない。いつどこからアルカハールに情報が漏れるかわからないからな。万全を期すために誰にも言わずに作戦を進めさせてもらう」


そう言われたマーガレットは、はぁ〜と深くため息をついた。


(所長が変な誤解をしなければいいけど・・・)


所長の機嫌も心配だが、まず魔法石を奪還することがマーガレットにとっては最優先だった。

そうしなければ、ゆくゆく多くの人の命が奪われることになるかもしれないのだから。


(所長、ごめんなさい!)


マーガレットは心の中でアレクに謝ると、アラシドに作戦に同意する旨を伝えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ