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カザブの野望編 第4話

1話分ごっそり抜けてました(汗)

申し訳ありません!

完成品の魔法石の報告書を作成し所長に提出した後、マーガレットはその作成方法を記した本を持って再び王宮を訪れていた。


この本はマーガレットが開発した魔法石を一から錬成する方法が詳細に書かれている。

もしこの本が流出し悪用されたとしたら、この国、いや大陸中が戦火に巻き込まれることになるかもしれない。


そう考えたマーガレットは、この本を人の目に触れないようにするために、王宮の図書室の第1級重要書架に納めてもらうことにしたのだ。


この書架に納めれば、王族か、王族から許可を得たものしか閲覧できなくなる。

マーガレットは所長であるアレクと話し合ってこの魔法石の作成方法が万が一にも外部に漏れることのないようにそのような方法をとることにした。


王宮内で歩みを進めていたマーガレットはある重厚なドアの前で立ち止まり、コンコンとノックをする。


「所長、マーガレットです」


しばらくすると、ドアが内側から開いて銀の髪を後ろでひとつに束ねたアレクが顔を見せた。


「よく来ましたね。さあ、入ってください」


優しい笑顔でそう言うとアレクはそっとマーガレットの背中を押して自分の部屋へと招き入れる。


「今日は時間をとっていただきありがとうございます」


マーガレットがそう言うと、所長は微笑んで言った。


「かまいませんよ。やりかけの仕事を片付けてしまうので、そこにかけて待っていてもらえますか?」


そう言って、マーガレットを応接室のソファへいざなう。


「ありがとうございます」


マーガレットは微笑むと腰を下ろした。


「今、お茶を用意させましょう」


そう言う所長に、マーガレットは慌てていう。


「いえ、結構です!すぐに帰りますので」


「そうですか?」


所長は少し残念そうな顔すると、「では少しの間、失礼しますね」と執務室へと消えた。


入れ替わりにジョシュアが入ってくる。


「魔法石が完成したんだって?」


そう笑顔でいうジョシュアに、マーガレットも笑顔で答える。


「そうなんです」


ジョシュアはマーガレットのそばに寄ってくると、彼女の頭をポンポンと撫でた。


「おめでとさん」


「へへ、ありがとうございます」


マーガレットは嬉しそうに背後に立つジョシュアを振り返りながらそう言った。


「で、結婚式はいつなんだ?」


「はい?」


唐突に聞いてきたジョシュアに、マーガレットは素っ頓狂な声を出す。


「あれ?お前とアレックス、結婚するんだろ?」


そういうジョシュアに、マーガレットは困ったように微笑む。


「あ〜、まあそれは・・・でも婚約はあくまでも非公式で・・・」


(というか、今ほとんど会ってないし付き合ってると言えるかどうかも怪しい・・・)


この前の宴会ではたまたま研究所にいたアレクと久しぶりに一緒に過ごしてモニカの悪のりで若干それっぽい雰囲気になったが、以前も今も変わらず忙しいらしく研究所にほとんど顔をださない。

マーガレットも王宮に特に用事がないので来ることもない。


「そうなのか?」


不思議そうにマーガレットを見るジョシュア。

心底貴族らしくない彼はそういった風習にも疎いのかもしれない。


(そもそもわたし、はっきりとプロポーズされてないしね)


マーガレットはジョシュアに曖昧な笑みを返した。


そんなマーガレットにジョシュアはかがんでソファの背もたれに体重を乗せると言った。


「じゃあさ、俺がプロポーズしたら受けてくれる?」


「はい?」


二度目の素っ頓狂な声を上げるマーガレット。

彼の間近にある顔をまじまじと見る。


ジョシュアは精悍な顔立ちをしている。

短く切ってある亜麻色の髪に、きりっとした太い眉、榛色の瞳のある目は大きく、鼻は高い。がっしりした顎に男らしく引き締まった唇。

王宮でもさぞかしモテるだろう。


「受けません。モテ男の甘言には乗りません」


冷たく言い放つマーガレット。

その言葉に今度はジョシュアが素っ頓狂な声を上げる。


「はあ?俺がいつモテたよ」


それに対しマーガレットが自信満々に言い切る。


「絶対モテてます」


「じゃあなんで未だに彼女がいないんだ」


「え?いないんですか?わかった。一人に絞りきれないんですね」


「だからどうしてそうなる!」


ジョシュアが「うがー!」と言って天を仰いだところで、所長が応接室に戻ってきた。


「おや?楽しそうですね」


そんな所長にマーガレットがにっこり笑っていう。


「はい。ジョシュアってからかうと面白いですね」


それを聞いたジョシュアが頭を抱えてのけぞった。


「からかってたのかよ!」


そうすると、マーガレットはジョシュアを見て仕方ないな、というふうに言った。


「あなたが先にからかうからですよ」


それを聞いた所長がマーガレットに聞く。


「へえ、ジョシュアはあなたに何を言ったんですか?」


「”俺がプロポーズしたら受けてくれるか”って言いました。おかしな冗談ですよね」


笑顔でそう言うマーガレットの言葉を聞いた所長がピキリとかたまる。

そして目が笑っていない笑顔でショジュアを見ると言った。


「ジョシュア、今日は模擬戦をしましょうーー手加減なしの」


そんな所長の言葉にジョシュアが青ざめる。


「いや、あの、俺今日忙しくて・・・」


それに対して、にっこりと圧力をかける所長。


「主の言うことが聞けないのですか?」


「・・・模擬戦やります」


ジョシュアがアレクの笑顔の圧力に勝てるわけがなかった。

そんな二人のやりとりをマーガレットはニコニコしながら見ている。


そんな三人の様子を少し離れたところで見ていたフォルは密かに思った。


(・・・マーガレットって意外とサド?)



***



その後、青ざめるジョシュアを護衛として連れてアレクの執務室を後にしたマーガレットとアレクは、王宮の図書室に来ていた。

魔法石の作り方を記した本を図書室にある第一級重要書架に納める手続きをするためだ。


本来なら申請書を記入し、それを所長に提出し、所長が王族に提出し、王族がそれを確認し、許可が下りてからやっと書架に納めることができる。

この全てを終えるのにかかる時間はおおむね1ヶ月。


だが、今回は所長自身が王族だということで、一刻も早く安全な場所に保管するためにマーガレットはアレクに頼んでついてきてもらった。

これならその場でアレクに申請書を承認してもらい、すぐに納めることができる。


「これでよし、と。所長確認をお願いします」


申請書を書き終えたマーガレットがそう言って振り返ると、所長は手にとって読んでいた本を本棚に戻し近寄ってきた。


「どれどれ」


アレクが彼女の差し出した申請書の内容を確認する。

マーガレットが彼の綺麗な横顔を眺めていると、所長は「問題ありませんね」と言い、指にはめていた指輪型の印章を外すと、それにインクを付け申請書に押しつけた。


そしてアレクの印の押された申請書を第1級重要書架の司書に渡す。

司書は恭しくそれを受け取ると内容をしっかりと確認し、許可というハンコを押した。

そして所長に目礼するとマーガレットの作成した本を持って席を立ち、背後にある「関係者以外立ち入り禁止」と書かれた扉の鍵を開け中に入り、その冊子を書架へと収めた。

戻ってきてまた扉に鍵をかける。


ほっとマーガレットが息をついた。


(これで安心して眠れるわ)


所長はそんなマーガレットの肩に手を置くと、「行きましょうか」と彼女を促した。


(あとはカザブに渡った魔法石を破壊するのみね)


マーガレットは心の中でそう思った。

そしてそのチャンスは意外と早くやってくることになる。


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