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カザブの野望編 第1話

本編に戻ります

ーーモニカとジョシュアの事件が解決してから数日後


マーガレットはお昼休みに中庭の芝生に座って持参したお昼ご飯を食べた後ぼんやり空を眺めていた。

ウィルとモニカは研究所内の食堂に食べに行っているのでここにはいない。


あの事件以降、アレクは何かと忙しそうだ。

事件の事後処理やらで王宮に詰めていることが多いらしい。


その後、モニカとジョシュアの家であるラフェル家は無事爵位を取り戻して再建、没収されていた領地も元に戻され、無実の罪で汚名を着せられた慰謝料として、この度お家取りつぶしとなったモンテール家の領地を嫡男であるジョシュアに移譲し、彼に新たに子爵位を与える運びとなった。


(まあジョシュア本人は、管理する人間のいなくなった領地を体良く押し付けられただけだとぼやいていたけど)


それを思い出してクスリと笑みを漏らすマーガレット。


彼は騎士への復職も認められ、逃亡する前についていた”第3王子の護衛”という役職に復帰した。


(ジョシュアってどことなく品があって只者じゃなさそうと思ってたけど、やっぱり)


それにしてもつくづく自分は運が良かったとマーガレットは思う。

もし彼があの誘拐グループの中にいなかったら、自分はおそらくカザブに連れ去られ二度とこの国に変えることは叶わなかったに違いない。

マーガレットが思うに、彼はああやって犯罪組織に潜り込んでは被害者を守りながら、組織を壊滅に導いていたのだろう。


(まさに縁の下の力持ち・・・もとい正義のヒーローね)


ポカポカした陽気の中でそんなことを考えているうちに、睡魔がマーガレットを襲ってくる。

そしていつの間にか、マーガレットはまどろみの中に落ちていった。



***



「そういや聞いたか?」


マーガレットがうたた寝から覚めて研究室に戻るとウィルが話しかけてきた。


「何を?」


マーガレットは聞き返す。


「隣国カザブが開発してる魔法兵器の話」


それを聞いた瞬間マーガレットは自分の顔がこわばるのを感じた。

モニカも緊張した様子でその話を聞いている。


「どんな兵器なの?」


「それが、魔力がなくても特大の魔法がぶっ放せる兵器らしい」


それを聞いたモニカがマーガレットを振り返る。


「マーガレット・・・」


マーガレットはぐっと拳を握りしめた。

どうか自分の予想が違っていて欲しいと祈りながら。



***



その後、マーガレットは王宮へと急いだ。

宰相をしている父親にカザブが開発している魔法兵器の詳細を聞くためだ。


王宮は魔法研究所からそんなに遠くなく、歩いて15分ぐらい、走れば5分ぐらいで着く。


門で所定の手続きをすませ許可をもらい王宮内に入る。

宰相の娘として顔が知れているのでそんなに手間取らない。


マーガレットは王宮内を迷うことなく進み父親の執務室までいくとドアをノックした。


「お父様、マーガレットです」


そう声をかけると、中から「入りなさい」という父ヴォルグの声が聞こえた。


「失礼します」


そう言ってドアを開け、執務室内に入る。


「マーガレット、どうした?お前がここに来るなんて珍しい」


ヴォルグはそういうと立ち上がり、机を回ってマーガレットのそばにやってきた。

そして彼女にソファをすすめると、自分もその向かいに腰かける。


「実はお父様に聞きたいことがあって」


それを聞いたヴォルグは不思議そうな顔して、目で続きを促してくる。


「隣国カザブが開発しているという噂の魔法兵器なんですけど」


マーガレットがそういうと、ヴォルグは途端に渋い顔をした。


「ああ、あの話か」


そのヴォルグの反応に、マーガレットは噂が正しいのだと知って絶望的な気分になる。


「・・・それは私の開発した魔法石を使った可能性が高いのでしょうか」


「おそらく」


ヴォルグは苦々しく頷いた。

彼もマーガレットが開発した魔法石が何者かによって持ち去られたことは彼女から報告を受けていたので知っていた。


自分の開発した魔法石で、人を殺す兵器が作られてしまった。

マーガレットはその事実に打ちのめされそうになる。


「だが、造られた兵器は一つだけだ」


マーガレットはその言葉を聞いて顔をあげる。


「それはつまり、同じ魔法石を造り出すことには成功していないということでしょうか」


「ああ、そう読むのが正しいだろう」


ヴォルグの言葉にマーガレットは一縷の希望を見出した。

つまり、その兵器を破壊してしまえば、隣国カザブは同じものを二度と作ることはできないということだ。


「我々も早急にことの次第を調べさせている。何か新しい情報が入り次第お前にも知らせよう」


そういう父親の言葉に、マーガレットは頷いた。


するとそこにノックの音が響く。


「宰相殿。フォルです」


「ああ、もうそんな時間か。入りなさい」


そういうと、執務室のドアが開き、濃紺色の髪をした細身の男性が入ってきた。

細縁メガネをかけてあり、見るからに頭がきれそうな雰囲気だ。


「フォル殿、こちらは我が娘のマーガレット。マーガレット、第三王子側近のフォル殿だ。」


「お見知り置きを」


マーガレットが白衣で礼をとると、フォルも礼を返した。


「マーガレット、悪いが彼と約束がある。この件に関してまた何かわかれば必ず知らせよう」


「はい、よろしくお願いします。お父様」


マーガレットは立ち上がると部屋を辞した。


(ずいぶん賢そうな人だったわね)


マーガレットは王宮内をブラブラと散歩しながらそう考えた。

小さい頃時々遊びに来たので、だいたいどんな造りになっているかは頭に入っている。


回廊を歩いていると中庭に人が立っていることに気づいた。

サラサラの銀の髪を背中に流し、池の中を見つめている。


その後ろ姿を見てマーガレットは嬉しくなる。


「所長!」


マーガレットは声をかけると駆け寄った。

呼ばれたその人物はマーガレットの声に振り返る。

そして彼女をみるとふんわりと微笑んだ。

その笑顔を見てマーガレットはドギマギする。


(所長、なんだか今日はとっても優しげね。それに格好が王子様モードだわ)


アレクは研究所を王宮を行ったり来たりすることが多いので、普段は白衣に黒縁メガネというあの出で立ちであることが多いが、今日は品のいいシャツとパンツにベストという格好をしている。


「ここで何をしているの?」


アレクはマーガレットに聞いた。


「父の執務室に寄った帰りなんです」


マーガレットがそう言うと、アレクは「そう」と言いマーガレットをじっと見つめた。


(な、何かしら。なんか調子狂っちゃうな)


マーガレットはアレクの視線にタジタジになりながら、彼の様子を伺う。


(あれ?なんか少し痩せた?)


しばらく研究所に来ない間になんだかやつれてしまったように見える。

そんなに仕事がきついのだろうか。


「所長、お仕事大変なんですか?食事はちゃんととらないとダメですよ」


マーガレットがそう言うと、アレクは「ありがとう」と微笑みながら言った。


あまり長居しても悪いしそろそろ行くかと思ったところで、アレクがさらに言った。


「せっかくなのでお茶をしていかない?」


マーガレットはその言葉に嬉しくなる。

最近あまり話す機会がなかったので、少しでも長く一緒に居たいのが本音だった。


「所長さえ大丈夫なら喜んで」


マーガレットはそう言うとアレクに連れられて、彼の応接室へと向かったのだった。

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