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消えた魔法石編 第3話

中庭のテラスからマーガレットをさらった黒づくめの男たちは、王宮内の一室に入るとマーガレットをベッドへ放り出し、また素早く部屋から出て行く。


「っつ、なんなのよいったい」


ベッドに打ち付けた頭をさすりながら、マーガレットが身を起こすと、部屋の中に見覚えのない男が一人いることに気づいた。

まあ、そもそもマーガレットが覚えている男など家族と職場関係以外ほとんどいないのだが。


「ようこそ、マーガレット嬢」


男はそういうと、腰掛けていた椅子から立ち上がった。

そしてドアに向かいご丁寧にガチャンと鍵をかけると、マーガレットのそばまでやってくる。


男はひょろりとした細身で、目は鋭く狡猾そうな光を放っており、マーガレットを見下すように上から見下ろしていた。


「僕が誰だかわかるかな?」


男はそう自信たっぷりにいう。


マーガレットはそんな男に言い放った。


「もちろんわかりません」


ぴくり、と男の頬が引きつる。

そして、フッフッフと笑うと目にかかる長い前髪を大仰にはらった。


「では君のために特別に自己紹介しよう。僕の名前はスーリ・ティカ・ド・モンテール。モンテール伯爵家の嫡男さ。覚えておいてくれたまえ」


(伯爵家の人間・・・なんでこんなに偉そうなのかしら)


侯爵家のマーガレットからすれば、伯爵家は自分よりも下位にあたる貴族だ。

偉そうにする理由がマーガレットには純粋にわからず困惑する。


「そして今日は君の記念すべき一日となる」


「はあ」


マーガレットは観劇でも見ているように気持ちで、役者か何かのようにしゃべる目の前の男を眺めていた。


「つまりこの僕に抱かれる日ということさ」


ふっと笑い前髪を払いのける。


・・・ちーん


マーガレットはバカバカしくなりベットから降りるとスタスタとドアの方へと歩いて行った。


「え、おい!君!ちょっと待ちたまえ!」


もう少しでドアノブに手が届くというところで、スーリと名乗る男がマーガレットの腕をつかみ後ろへ引き倒す。


「きゃ!」


突然のことに驚くマーガレット。

正直目の前のひょろ男にここまでの力があるとは思っていなかった。


ひょろ男、もといスーリは床の上に倒れたマーガレットの上に馬乗りになると、懐から取り出したナイフでマーガレットの顔をピタピタと叩いて言った。


「僕をあまり怒らせない方がいい。何をするかわからないからね」


そして、彼女の上から退くと彼女の顔にナイフを突きつけながら「さあ、ベッドの上にあがりたまえ」という。


マーガレットは仕方なく言われた通り、ベッドに上がった。

それを見たスーリはふんと鼻を鳴らし言う。


「では服を脱げ」


「はああ?」


マーガレットは素で返した。


「服を脱げと言ってるんだ!」


マーガレットの態度にスーリは癇癪を起こしたように怒鳴る。


マーガレットはため息をつくと、「自分では脱げません」と言った。


「なに?」


とスーリが眉を上げる。


「侍女に手伝ってもらわないと脱げません」


マーガレットはそんなことも知らないのかと思いながら、再度スーリに言った。


スーリは何かに耐えるようにプルプルしていたが、しばらくすると紐を懐から取り出した。


「ではこうしてやる」


とスーリはマーガレットの上に馬乗りになり、ナイフで脅して彼女に両腕を上にあげさせその紐で縛り上げた。


それを見たスーリは「きひひ、いい眺めだ」とこぼす。


(もしかして変態?)


マーガレットはかなり引いた。


(それにしてもうだうだするばっかりで、全然先に進まないわね)


いや、別に先に進んで欲しいわけでは全くないのだけど、とマーガレットは内心でひとりごちる。

そしてある可能性に気づいた。


(もしかしてこの男、女性経験がない?)


ドレスを脱ぎ着する知識がまったくないことから考えてもその可能性が高い。

さてどうしたものか、とマーガレットは考えた。


(このまま馬乗りになられているのも重いし・・・)


「痛!」


そう考えていると、突然男が彼女の胸を力任せに鷲掴みにした。


「へへへ、これでどうだ」



男の目が異様に爛々と輝いている。


(なんかまずいスイッチが入っちゃった?)


マーガレットはにわかに焦った。

どうにかして誰かに自分の居場所を知らせなければならない。

そして、ふとあることを思い出した。


”一定の範囲に魔力を薄く広げていると、その中で魔法が使われたことと、それが自分の知っている人間であれば誰が使ったのかもわかる”とアレクが言っていたことを。


そこでマーガレットは縛られたまま手の中に小さな炎を出現させた。

もしアレクが姿の見えないマーガレットを探してくれていれば、きっとこれで見つけてくれるはずだ。


(所長、お願い気づいて!)


だがマーガレットが魔法を使うのをを見たスーリは彼女が反撃するのだと思い、後ろにのけぞる。


「そ、そんな小さな炎怖くないぞ!」


そう言いつつも、マーガレットの上からどき、ベッドの上を後退った。


その時、廊下へ続くドアが外側からけやぶられる。

見ると第3王子、もといアレクが肩で息をしながら立っていた。


ベッドの上で手を縛られているマーガレットを見るや、アレクは鬼の形相になり未だマーガレットの傍らで尻餅をついているスーリを視線で殺せそうな勢いでにらみつけた。


「ひっ」


スーリは震え上がり、ベッドから転げ落ちた。

自分のそばを這いつくばって移動し、ドアから逃げ出そうとするスーリの背中をアレクは踏みつける。


「ぐげっ」


変な声を出して潰れたスーリは頭上からこの世のものとは思えない凍えるような声を聞いた。


「モンテール伯爵家のスーリ殿。王族と非公式とはいえ婚約関係にある女性にこのような無体を働くとは。王家に反逆の意があるととらえますがよろしいですね?」


「うう・・・」


潰れたままのスーリはただうなるだけだった。


「追って処分を知らせます。それまでは自宅で謹慎しているように。破ったらどうなるか、わかっていますね?」


アレクと共に部屋まできていた衛兵がスーリを引っ立てていく。


「大丈夫ですか、マーガレット」


アレクはドアを閉めると、急いでマーガレットに歩み寄り彼女の手首を縛っている紐を解いて助け起こした。


「ありがとうございます」


マーガレットが微笑んでそういうと、アレクは彼女を抱きしめて言った。


「心配しました。気づくとあなたがどこにもいなくて・・・」


そう言ってアレクは体を離しマーガレットの全身を眺めた。


「見た感じ、何もなかったようですが・・・」


と言葉を濁す。

マーガレットはアレクが言わんとしていることに気づき、赤くなった。


「な、何もないです!まったく!これっぽっちも!」


そう言った瞬間、あの男に鷲掴みにされた胸が痛みで疼いた。

とっさにそれをかばうように腕で覆うマーガレット。

彼女は誤魔化すように笑ったが、アレクがそれを見逃すはずがなかった。


「まさかあの男に何かされたのですか?」


とたんに、再び瞳に怒りをたぎらせ始めるアレク。

このままではアレクがスーリを今すぐ八つ裂きにしに行ってしまうかもれないと思ったマーガレットは慌てて言いつくろった。


「いえ、あの、大丈夫です!全然たいしたことないので!」


そう言い募るマーガレットにアレクはなおも何か言いたげにしていたが、やがてふっと息をつくと表情を優しくして言った。


「そう、ですか。あなたがそう言うのであれば。問い詰めるような真似をしてすみません。あなたが傷つけられたかと思うと気が気でなくて。私はあなたが無事ならそれでいいのです」


そういうと少し寂しげに笑った。


「さ、皆も心配しています。戻りましょう」


そしてベッドから立ち上がろうとする。


「ま、待ってください」


マーガレットはとっさにアレクを引き止めようと手を伸ばした。

先ほどの告白の返事をいうなら今しかないと思ったのだ。

だが、彼女は勢い余って彼の背中に抱きついてしまった。


二人の間で時が止まる。


(ど、どうしよう、これ・・・)


思いっきりアレクの背中に胸を押し付けてしまっている。


(この後、顔を見ながら告白なんて恥ずかしすぎるんですけど!)


マーガレットはしばらくそのままの体勢で固まったままどうすべきか逡巡していた。


(ええい、もうどうにでもなれ!)


が、なかばやけくそになったマーガレットは意を決してこのままの体制でアレクに言った。


「所長!私も所長が好きです!」


ぴくり、と彼の背中が反応する。

マーガレットはアレクの背中に顔を押し付けたまま言った。


「さっきは逃げたりしてごめんなさい。その、突然のことで驚いてしまって・・・でもうれしかったんです。所長がファーストダンスに誘ってくださって・・・」


しばらくして、はーっと大きく息をつく音が聞こえる。


「あなたという人は・・・」


アレクはそういうと、マーガレットの腕をそっとはずし、彼女に向き直るとそのまま彼女をベッドへ押し倒した。


そして、彼女に覆いかぶさりながら言う。


「私の理性を試しているんですか?」


まったくそんなつもりのなかったマーガレットは、アレクの瞳の中に揺らめく熱を見つけて慌ててブンブンと首を横に振った。


そんなマーガレットをアレクは、なおもじっと見つめる。


「キスぐらいは許してくれますよね?」


そんなアレクにマーガレットは少しためらいながらもうなずき目を閉じる。

そしてあと少しで唇が触れるその時。


がちゃりとドアの開く音がする。


「あっ、失礼いたしました!」


バタンと慌ててドアの閉まる音がした。

どうやら招待客の一人が空き部屋を探してドアを開けたらしい。


アレクはマーガレットの顔がドアを開けた人物から見られないようにとっさに腕で覆い隠しながら、彼女の顔の横に突っ伏していた。


「呪われている・・・」


「え?なんですか所長?」


「・・・いえ、なんでもありません」


アレクは起き上がると、若干引きつった笑顔で言った。


「戻りましょうか。皆が心配します」


「あ、そうですね」


マーガレットも立ち上がって着衣や髪の乱れを直す。

そしてドアノブを回そうと手をかけた彼女の手をアレクが上からかぶせるようにつかむと、彼女の後ろからささやいた。


「私もあなたが好きですよ、マーガレット」


その後マーガレットはゆでダコのように赤いまま会場に戻り、皆に冷やかされる羽目になったのだった。

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