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第7話「忘れなかったこと」

 星陵祭も無事終わり、あれから3ヶ月が過ぎた。義之と礼は少し肌寒くなった道を2人で歩いている。

「だいぶ涼しくなったなぁ……お!」

 義之の頭の上に落ち葉が舞い降りる。礼はその葉を、黙って見つめていた。


第7話「忘れなかったこと」


 教室も少し寒くなったが、まだストーブがつく気配はなかった。ストーブがつくのは、アレの後辺りからである。

「さて、テスト勉強するかぁ…」

 アレというのは期末テスト。星陵高校では12月の最初に期末テストがあるのだ。

「期末テスト……?」

 礼は首を傾げた。

「おやおや、余裕だねぇ」

「おはよう、義之、礼ちゃん」

「寒い~!」

 いつもの三人が揃って教室に入って来る。

「娃! お兄ちゃん特製のマフラーだ!」

 その後ろにはオマケで一人。

「な~んか納得いかないなぁ」

 美緒は何かに不満なようだ。

「ありがとう、お兄ちゃん!」

 娃はそれから、授業中もずっとそのマフラーをつけていて、外すことはなかった。

「じゃあ、余裕の方々は頑張らないように」

「私も余裕があったらなぁ」

 そう言って姉妹は去っていった。

「義之って勉強ができるの?」

 礼は首を傾げる。

「できるも何も!」

「まだいたのかよ」

「いっつもトップグループなんだよ、この見た目でさ!」

「奈波の方ができるだろ?」

 そう、基本的には奈波がトップだ。姉妹だというのに、そういう部分は似ていない。

「だから、私の肩身が狭いんだよねぇ…」

 美緒はガックリと肩を落とした。今度こそ姉妹がいなくなったのを確認すると、義之は礼に期末テストの説明から始めた。

「……とまぁ、そんな感じ」

「ふぅん」

 義之が説明しても、礼の反応はいつも薄い。だから義之は興味を持ってもらえるようにあれやこれやと努力するのだが、全く効果なし。

「……わかった?」

「何となく」

「……はぁ」

 礼は首を傾げた。義之が溜め息をつく理由がわからないのだろう。


 義之と礼はいつもよりちょっと早く帰宅した。

「さて、始めるか」

 もちろん、テスト勉強するためである。それから30分ほど経った頃、

「礼は勉強苦手か?」

 ページ的にはまだ2、3位しか進んでなかった。

「覚えるのは苦手みたいね」

 全く危機感がない礼の代わりに義之が焦り始める。

「……仕方ない、俺が教えるよ」

 しかし礼はどうやら本気で覚えることが苦手のようで、全然テスト勉強は進まない。

「……わからないわ」

「礼~頼むよ」

 義之がわざとらしく手を伸ばすと

「ふふっ。冗談よ」

 礼はその手を握ってしまった。暫し義之は硬直する。星陵祭以来、義之は手を繋がれると顔が真っ赤になることが発覚した。以降、よく礼にからかわれていたのだ。

「ま……まぁ、とりあえず」

 手を離せばいいものを、義之は絶対に離そうとはしなかった。

「目で見て、手で書いて……とにかくやるしかないな」

 礼はだからどうしたのだ、という顔をしていた。それから約30分の説得のかいがあって、礼はようやくやる気になる。

「まず……どこから始めればいいの?」

「そうだなぁ……微分がキツいから、そこからかな」

「本当にやるの?」

「当然」

 2時間後、

「どうだ? 頭に入ったか?」

 教科書とノートをしまいながら、義之は尋ねた。

「まぁ……そこそこ」

 礼も同じく教科書やノートを片付け始めた。

「……でも」

「義之が教えてくれたことだもの。絶対忘れない」


 そんなやり取りから約1ヶ月後の12月上旬。

「義之、テストどうだった?」

「まぁまぁ……かな」

 2人の顔はひきつっていた。原因は数学である。

「あ……赤点!」

 美緒は赤点だったようだ。義之と奈波は互いに相手の点数をチラ見した後、あははと笑う。

「そうだ、礼はどうだった?」

「見る?」

「なっ、何ぃ~!!」

 その声に反応していつものメンツが集まり、代わる代わる覗き込む。

「はぁ!?」

「凄いねぇ!」

「ウソみたい~」

 みんなの反応が嬉しかったのか、礼は微笑んだ。

「義之」

 礼はみんなが自分の答案用紙に群がっている間に、義之の服を軽く引っ張って外に誘った。


「凄いじゃないか」

 義之も満足したと再確認すると、礼はまた嬉しそうに微笑んだ。

「そんなに嬉しいか。教えたかいがあったな」

 義之も本当に嬉しそうである。

「あんな点数……久しぶりに見たぜ」

 礼は首を傾げる。

「何言ってるの? 点数なんかどうでもいいわ」

「じゃあ、何が嬉しいんだ?」

 義之は首を傾げた。

「忘れなかったから」

 余りにも普通にしていたから、義之は忘れてしまったのだろうか。礼は記憶喪失。覚えていられること、それがどんなに嬉しいことなのだろう。

「義之のおかげで、忘れずに済んだわ」

「でも、それは礼が頑張ったからだろ?」

「私は……義之に教えてもらったことは忘れたくなくて……それで……」

「頑張ったんだろ?」

 礼は返す言葉がなくなったのか、俯き黙り込む。

「礼が頑張ったから、忘れなかった。その結果が、あのテストだろ?」

 礼は自分の胸の辺りを握りしめて、目を真っ赤にしながら

「……ありがとう」

と、笑顔で答えた。

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