第4話「星陵祭準備」
夏。部活や勉強に時間を多く使う学生が多い季節だ。だが星陵高校は少し違う。
「はいは~い、みんな注目!」
美緒の声に皆が黒板を一斉に見る。
「……星陵祭の出し物討論会?」
第4話「星陵祭準備」
「みんな意味わかった?」
「はい、女王様!」
美緒はとても人気がある。目立つことをすると時折幻聴が聞こえるのだ。
「そこっ!女王様言うなっ!」
毎度毎度注意しているが、まったく効果無し。それを知っていながらも、美緒は律儀に学級委員長をしている。
「星陵祭かぁ……」
義之は遠い目で窓の外を眺めた。
「義之……」
礼は義之の制服を軽く引っ張り、説明を求める。
「あ……あぁ、星陵祭ってのは簡単に言うと学園祭だ。この学校のな」
「学園祭?」
礼は首を傾げる。
「年に1回、学校で行うお祭りのことだよ」
「そう、お祭り……ね」
礼は窓の外を見て、黙ってしまった。
「じゃあ、何か提案ある人いる~?」
義之は視線を美緒に戻す。
「女王様メインのメイド喫茶!」
「ボツ! 他には?」
「女王様メインの撮影会!」
「ボツ! 他に!?」
「女王様メインの……」
そんな不毛なやり取りにも美緒はめげず、討論は昼過ぎまで続いた。
「はぁ…絶対決まんないね」
ただ今昼休み。美緒は義之や礼、娃と一緒にご飯を食べながら溜め息を吐いた。
「まぁ……アイツらに聞いたのが間違いなんじゃないか?」
「そんなこと……ある」
美緒はガックリと肩を落とす。
「それに、もっとメジャーなのをやればいいんじゃないか?」
娃はウンウンと頷く。
「……例えば?」
「例えば……焼きそばとか」
「綿アメとか!」
「……かき氷?」
「…と、いうわけで」
再び話し合い。美緒は商品名を黒板に書いていく。
「焼きそば、綿飴、かき氷の3つの案が出てるんだけど、他に何かマトモな案がある人いる~?」
美緒はマトモの部分を強調して言った。
「……無いなら、この中から多数決ね! それでいい?」
何も意見は出ない。一部の男子達を除き、みんな了解したようだ。
「じゃあ多数決! 焼きそばが良い人~」
多数決の結果、
「かき氷に決定ー! みんな、ガンバろうね!」
礼が提案したかき氷になった。
「はい! 女王様!」
美緒は男子達を睨みつけた。
「良かったな、礼。かき氷になって」
礼はあ然としている。
「……案外、あっさり決まるのね」
「……うん、本当は簡単に決まるんだよ」
そんな討論から一週間後。
「じゃあ、今から星陵祭の準備を始めるよ~!」
星陵祭が3日後に迫り、全授業は完全停止。夜まで祭りの準備だ。
「私が役割分担しといたから、ちゃんとやってね!」
美緒が決めた。これだけで興奮している輩がいたことは言うまでも無い。
「……はぁ、胃が痛い」
美緒が陰で愚痴を零していたのは内緒である。
「さて、俺達の仕事は……っと」
義之は役割分担表を指でなぞりながら、名前を探す。
「あったわよ、義之」
「看板作り、ね」
「サポート宜しく~」
美緒の顔がニヤついている。義之は不器用なのだ。
「……うるせぇ」
義之はボソッと呟く。
「私は……」
礼は自分役割を見つけられないらしい。
「お……礼も俺と同じだぜ?」
そして、仕事が始まった。そうは言っても、絵心がある人達が手腕を振るう。義之には仕事が無い。
「みんな絵上手いなぁ……」
義之はサラサラと出来上がっていく看板を見ながら呟く。
「義之は描かないの?」
筆を持った礼が義之に近寄る。
「……描かないよ」
「下手でもいいのよ?」
礼は看板を指差して言った。
「みんなあんまり上手くないわ」
「……そうなのか?」
礼に言われて義之はまじまじと絵を見てみる。
「義之も描きたいの?」
義之が覗きに来ていることに気づいた美緒は、にやにやしながら筆を差し出す。
「……くっ」
義之はあっさり退こうとするが、
「痛っ」
礼にぶつかってしまった。
「あっ……ごめん!」
礼は額をさすっている。しかも礼の頬を絵具で汚してしまった。
「もう、義之!」
礼が珍しく怒る。
「男でしょ? 私に描いて見せなさい」
「う……」
義之はフリーズする。
「まぁまぁ、無理にやらせちゃあ……ねぇ?」
美緒は筆をクルクル回しながら義之の反応を楽しんでいる。
「美緒、ちょっと黙って」
どうやら本気でキレたらしい。美緒もフリーズする。
「れ……礼?」
礼は義之に筆を握らせた。
「義之、私は笑わないから、あなたの絵を見せて」
ここまでされて、そして言われて退くことがあろうか?それは義之もわかっているだろう。
「……俺、ヘタクソだぜ?」
それでも義之は最後の抵抗を見せる。
「それは私が判断するわ」
「……仕方ない、描いてみるか」
そして次の日。
「完成しちゃった……ね。まさか義之に絵の才能があるなんて……」
美緒は予想外に早く終わったことに驚き、そして悔しがった。
「どうだ、美緒!」
「義之?」
礼が義之の肩を叩く。
「何だ?」
「天狗になりすぎ」
義之はちょっと項垂れた。
「でもこう早く終わったなら、次のミッションがあるのよね」
「な……何だと?」
「義之、何とかなるわ」
こうして、星陵祭の準備は着々と進んでいった。




