表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/14

第3話「転校生礼」

 義之達のクラスに新しい仲間が加わった。

「……一条礼です」

 そんな味気ない自己紹介を一人だけ楽しそうに見ている奴がいる。


第3話「転校生礼」


 それは前日のこと。

「それでね、礼っていう子がお姉ちゃんのクラスに入るみたい」

 奈波が話しているのは、姉の美緒。二人は双子で容姿がそっくりだが、決定的に違う部分がある。美緒はツインテールで奈波はポニーテールである。

「私のクラスにいれば色々助けてあげられるのに……」

 本当に残念そうに奈波は呟く。

「そう……」

 美緒は目を閉じたまま聞いていた。

「礼……っていうんだ」


 そして、今日。

「礼、昼だぞ」

 義之は机の上でうつ伏せになっている礼を揺する。

「……昼?」

 礼は目を開け、ちょっとだけ顔を上げて言った。

「昼飯だよ、昼飯」

 礼の前に弁当が置かれる。どこか気怠そうに礼はそれを見た後、視線を義之の向こうに移した。

「うわっ!?」

「熱いね~、義之ぃ?」

 犯人は美緒だった。義之に抱きつき悪戯っぽい笑顔を浮かべている。

「美緒……いい加減これ……やめてくれないか?」

「い~じゃん。女の子がくっついてるんだからさ」

「俺……お前のファンに八つ裂きにされるんじゃないかって、かなり怖いんですけど」

 美緒には本人非公認のファンクラブがある。特にこのクラスに大量にメンバーがいるらしい。

「気にしない気にしない」

 そう美緒は言ったが、体がふわっと離れた。

「ちょっとは気にしようね?」

 般若のような笑顔の奈波がそれを許さない。美緒は驚くほど素直に従った。

「ところで……あなたが……礼?」

 美緒は礼の目の前の席に座り、じっと礼の顔を見ながら言った。

「そうよ」

「……どうやら、礼目当てで来たらしいな」

「うん、そうだよ」

 真剣そうな表情で見ている美緒に対し、礼は相変わらず無表情のままだ。

「でも、いきなり姉妹揃ったら混乱するんじゃないか?」

「どうして?」

 礼は首を傾げながら、即答する。

「見た目とかそっくりだし」

「奈波と美緒でしょ? 覚えたわ」

「へぇ……本当かな?」

 美緒の目が挑戦的な目つきに変わる。美緒と奈波は髪型を同じにすれば、親でも間違えるほど似ている。恐らく、かなりの自慢に近いものなんだろう。

「ちょっとゲームしようか?」

 美緒はすくっと立ち上がり、奈波の隣に立つ。

「今から、髪型を同じにした私達のどっちかが入って来るから…」

「当てろと?」

 礼は平然と美緒の挑戦を受け取った。

「そういうこと」

「あはは、頑張ってね」

 奈波はなぜか乗る気になったようで、意気込みながら教室を出て行く。

「……大丈夫なのか?」

「大丈夫よ。それより…」

 礼は弁当を再び取り出し、机の上に置いた。

「いつ、食べるの?」

「よく覚えてたなぁ…」

 義之が弁当に手を伸ばした時、後ろから影がかかる。

「弁当は後。先にこっち」

 美緒か奈波かわからなくなった奴が来ていた。

「ど……どっちだ?」

 幼馴染の義之にもわからないらしい。

「……美緒ね」

 礼がそう言った時、

「奈波ー!」

 走ってきた少女は、答えを話す奴を吹っ飛ばす。

「ごめんごめん! 奈波大丈夫?」

「お姉ちゃん!?」

 パタパタともう1人が教室に入って来た。犠牲となったのは美緒の方らしい。

「もう、娃!」

「ご……ごめんね!」

 このぶつかったのに普通に会話できる少女は天神娃。天神神社の巫女をやっている。

「ど……どうしよ……」

 娃がぶつけた頭をさすりながら呟いた瞬間、

「娃ぃーーーっ!!」

 とりあえず、それはドアに激突した。娃以上の威力で、ドアはもちろん吹っ飛ぶ。ぶつかった側も吹っ飛んだ。

「あ、娃!!」

 なんと、普通に会話している。

「お……お兄ちゃん?」

 この娃がお兄ちゃんと呼んだ男は天神陵次。娃の兄で、天神神社の時期神主であり、一応生徒会長だ。

「だ……大丈夫……か?」

 誰もがこう思っただろう。お前は大丈夫なのか、と。

「うん、大丈夫だよ」

 娃の声を聞くと、とてもホッとしたような顔をして

「そうか、良かった」

 それだけ言って立ち去ってしまった。

「何なの? あれ?」

 礼の感想は正しいのだろうが、義之たちは何回も見て慣れている。それゆえだろうか、少し違った感想が飛び出した。

「陵兄ってさ……娃一直線だよな」

「うん……ちょっと危険だよね」

「あっ、美緒!」

 娃の声に一同が振り返ると、目の焦点が合っていない美緒がゆっくりと起き上がる。

「うー……んぁ?」

「お姉ちゃん……大丈夫?」

「あ……娃ぃぃ……」

 やっと生きているような顔で、美緒は娃に詰め寄る。こんな風に賑やかな昼休みが過ぎていったのだった。


 そしてその夜のこと。

「そういえば……よくあの時、美緒だってわかったな」

 お茶を飲んでいた礼はコップから口を離し

「……わかるわよ」

 と言ってまた口をつけた。

「どうやったんだ?」

「……さぁ?」

「……勘だったのか?」

「義之……」

 礼はコップをテーブルの上に置く。何か思うことがあるのかと、義之は身構えた。

「勘……って何?」

 義之は大きな溜め息をひとつ吐いて、この話は終わったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ