表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/14

第1話「出会いと再会」

 月明かりの下、一人の少女が道を歩いている。

「君、こんな時間に何をしているんだ?」

 警察に呼び止められた少女は首を傾げる。

「……あなたは、誰?」



第1話「出会いと再会」



 突然電話が鳴り響く。

 時計はまだ午前9時を示している。義之は安眠を妨害され少し不機嫌になりながら受話器を取った。

「……はい、もしもし」

「もしもし……こちらは星陵警察署です。一条義之様はいらっしゃいますか?」

 義之は星陵高校に通う普通の2年生だ。もちろん、警察にお世話になったことはない。

「あ……それは俺です」

「詳しい事情はこちらでお話ししますので、こちらに来ていただけますか?」

 なぜ呼ばれたのか検討もつかない義之に断れるはずがなく、警察署に向かった。警察官が忙しそうに仕事をしている中、義之は近い警察官に声をかける。

「あの、すみませ……」

 しかしその直後、走って来た警官にぶつかってしまった。

「あっ、すみませんっ!」

「ごめんごめん……君が義之君かい?」

 ぶつかった警官は警察手帳を見せた。名前は熊沢良太のようだ。

「あ……はい、そうです」

 熊沢は手帳をしまうと、義之を引っ張り立たせる。

「じゃあ、いきなりで悪いけどついて来て」

 行き先は取調室だった。警察署に初めて来た義之には、この部屋は罪を犯した人が事情を話す場所という認識しかない。少し挙動不審に義之は部屋に足を踏み入れる。

「まず、ここで話をしよう」

 中には椅子が2つにテーブルが1つ。実に寂しい内装だ。

「まぁ、落ち着いて聞いて欲しい。実はね……先日、記憶を失った子を保護したんだけど」

 検査の結果、その子は記憶喪失と判明した。

 自分の名前や住所はもちろん、一部の常識的なことまで忘れているらしい。

「……常識的なこと?」

「あぁ、箸の使い方も怪しかった」

「……そうですか」

 その状況に驚き義之が何も答えられずにいると、熊沢は察したのか話を続ける。

「でもね……覚えていた人が1人いたんだ」

「誰……なんですか?」

そう聞きながらも、俺は何となくそれが自分である気がした。

「……君だよ」

 熊沢は目をつぶって答える。

「だから……会ってあげて欲しい。彼女に……」

「人違いとかじゃないんですか?」

 熊沢は写真を取り出して俺に見せてくれる。

「俺……?」

「この写真を見て、間違いないと言ったんだ」

「でも……どうして俺なんかを?」

「それが知りたいから呼んだのさ。少し待っててくれるかな?」

 熊沢はその子を呼びに一度退出する。その間、義之は緊張した面持ちで行儀よく椅子に座っていた。

「いいかい? 義之君」

「あ、はい!」

「そう緊張しないでくれって言っても、難しいか? ほら、君も入って」

「……はい」

 義之は少女と目があって、驚くほど機敏に立ち上がった。

「あ……」

 そして凝視する。義之の呼吸と脈が異様なほど荒くなり、次第に悪化していく。この反応を見て知らないと判断できる人がいるだろうか。

「え……えっと……」

「義之……」

 少女は義之のことを知っている。義之もまた知っているのなら、この運命に感謝して涙を流しても不思議ではない場面だ。しかし、義之はこう言う。

「……初対面……のはずだよな?」

 少女は黙して何も答えない。ただ黙って、義之の目を見つめていた。まるで心の奥底を垣間見ようとしているかのように。

「……でも、知らないっては言えない……です」

「……そうか」

 熊沢はそう呟くと、二人で色々話してみることを勧めて退出する。残された二人は黙って見つめ合う。

「……なぁ、君はどうして俺を知っているんだ?」

「それは私にもわからない。ただ一つ言えるのは、義之のことだけは覚えていたってことだけ。義之は私のこと何か知らない?」

 今度は義之が返答せず黙する。いや、答えは既に出ているのだからそれを復唱するだけでもいいはずなのだ。しかしそれを義之は唇を噛んで拒む。

「……少し、話をしないか? もっとお互いのことを知るために」

 二人は色々な話をして日が傾くまで時間を過ごした。しかしわかったことはこの少女が義之のこと以外、本当に何も知らないということだけ。

「記憶が戻るまで、一緒に暮らしてみるといい」

 それは熊沢の提案だった。身寄りはおろか、義之を除くと手がかりが一切ない少女を任せられるのは一人だけ。義之は頷き、少女を家に迎え入れる。

「わかってると思うけど、不純異性交遊は犯罪だよ?」

「わ……わかってますよ!」

 そう言って、帰りに二人を送った熊沢さんは帰って行った。

「あ……そういえばきみのこと、何て呼べばいい?」

 少女は首を傾げる。

「名前のこと? 義之が決めて」

「俺が?」

「義之につけてもらいたい」

「そんな適当でいいのか? まぁ、それでいいなら……」

 義之は散々頭を捻った後、ぽつりと名前を呟く。

「……礼、礼がいい」

「礼……ね。わかったわ」

「何はともあれ、これからよろしくな、礼」

 こうして、二人の不思議な生活が始まる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ