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赤い瞳  作者: ぱくどら
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【第二部 王、訪問】〜ヒロと王〜

 玄関を出ると、村は静まり返っていた。村の人は道の両端にひざまずいている。左右一列に並び、誰も言葉を発していない。どこにいるのかと、シンの姿を探したが近くにはいないようだった。

 すると、遠くの村の人たちが土下座をし始めた。その波は徐々に家へと近づいてくる。目を凝らすと、遠くから二頭の馬が見えその後ろから大きな黄金の馬車が見えた。さらにその後ろからは、鎧を装着し剣や弓など武器を携帯している兵士がぞろぞろと続いた。今から戦闘が始まるのかと思わせるような人数の多さだった。悠然と村の人たちの中を進む様子は、兵士たちの王に仕える誇りが見えるようだった。

 ゆっくりと先頭の馬が止まると後ろにいた兵士たちも歩を進めるのを一斉にやめた。先頭で馬に乗っていた兵士たちが馬から降り、馬車の扉をゆっくりと開けられ、一人の大柄な人が降りてきた。馬から降りた二人の兵士は側近なのだろうか、その人物の後ろをぴったりとついて歩いてくる。降りてきた人物は黄金に輝く王冠を被り、その王冠から出ている髪は白髪が混じり、顔の大きさのせいか王冠が小さく見えた。でっぷりとした感じの体型のせいで水色スーツの金ボタンがはち切れそうだ。その体型故に、マントもまた小さく見える。間違いなく、その人物こそラント王だった。初めて見るラント王の姿に私は戸惑ってしまった。

 ラント王は私たちの目の前で歩みを止めた。叔父と叔母が深々と頭を下げたので、つられて私も頭を下げた。

「お、お待ちしておりました、ラント王様。わざわざ私どものために、はるばる城からおいでなさいましたこと、誠に恐縮でございます」

 叔父の声が裏返っている。

「別に良い。……村長が言っておった女はこの娘か?」

 かすれた低い声。そっと顔を上げるとラント王が私を見下ろしていた。

「は、はい。……ささ、どうぞ家の中へ」

 叔父がラント王を家の中へと導く。それにラント王と側近二人が続いた。

「……王に反論することは絶対に許されないことよ。いいわね」

 叔母がそっと私に耳打ちをしてきた。わけがわからないまま、家の中へと戻された。


 テーブルの片側に叔父、叔母、私が座り、もう片側にラント王がどっしりと腰をかけた。王の後ろには側近たちが直立不動で立っている。

「小娘、名はなんという」

 王は椅子に腰掛けるなり私に尋ねてきた。

「……ヒロ、と言います」

「ではヒロ。……お前の能力『先読み』については、村長から話を聞いておる」

 王が右ひじを立てると、後ろに立っていた側近が王の太い指の間に葉巻を挟み、火をつけた。白く濃い煙が葉巻から立ちのぼる。

「……だが、話を聞くだけでは信じられぬことだ。今日こんなへんぴな村にわざわざ出向いたのは、お前の能力を直接私の目で確かめるためだ」

 王は葉巻を口にくわえると、おいしそうにふかした。

「そ、それは重々承知でございます。」

「……もし、村長が言っておったことが嘘、ということだったら……」

「とんでもございません!……さ、さぁヒロ。ラント王様に先読みをお見せなさい」

 叔父が私の肩を何度か叩いてせかしてきた。叔父も叔母も顔が引きつっている。恐る恐るラント王を見ると、葉巻の煙を吐きつつ私を見下ろしている。先読みを見せろと言われても、一体何をすればいいのかわからなかった。

「あ、あの……ラント王様。一体何を先読みすればよろしいのでしょうか……」

 震える声でラント王に尋ねた。王は唸り声を一つあげ続けて言った。

「そうだな……では私が今から何をしようとしているのか……当ててみよ」

 そういうと王は右手に持っていた葉巻を灰皿に置いた。 

 王は動かず、ただ私を見ている。でも、どうすればいいかわからない。私は必死に先読みすることだけを念じた。見なければ…きっと恐ろしいことになる。目を強く閉じ、ひたすら念じた。


 急に右目に痛みと熱を感じた。……なにかがゆっくりと浮かび上がる。目の前に……座っている人物。これはきっと王だ。その手に握られているのは……銃。その銃口がゆっくりと上がり……向けられた人物は後ろの側近。歪む顔。


 私は目を見開いた。王の手が懐に進んでいる。

「いけません!……に、逃げてください!」

 席を立ち上がり、後ろにいる側近に叫んだ。しかし、側近は驚いて私を見ているだけだった。

「ほほう。私が今、しようとしていることが見えたのか。その能力……本物のようだな」

 王は懐から銃を取り出すと、後ろにいた側近にゆっくりと銃口を向けた。向けられた側近は、顔を青ざめじりじりと後ずさっていく。

「私が知らぬとでも思ったのか。……消えろ」

 パンッ、と大きく乾いた音が部屋に響き渡る。

 その音と同時に、側近の腹部から血がにじみ出た。隣にいる叔母から小さな叫び声が聞こえた。側近は膝から崩れ、床に倒れこんだ。王はもう一人の側近に目を向け合図を送った。合図を受け取ったもう一人の側近は、倒れた側近の足を持ち上げ、引きずりながら部屋を出て行った。

「すまないな村長、床を汚してしまったよ」

 王は赤く染まった床を見つつ再び銃を懐にしまい、私たちに笑みを見せた。

「……しかし、ヒロの能力は本当だったようだ。素晴らしい能力だ……」

 立ちすくんだまま、身体が動かない。私の目の前で、先読みしたとおりになってしまった。今まで村の人や叔父たちが王に逆らうなと言っていたが、その意味を今ようやく理解した。ラント王は命をなんとも思っていない。人を撃った後なのに、平然と笑っている王が怖い。

「ヒロ!」

 叔母が私の手を引っ張り、無理やり椅子に座らせた。恐ろしくて王の顔を見ることができない。王は灰皿に置いた葉巻を指にはさんだ。

「……ヒロどうしたのだ?これぐらいのこと、慣れておかねば城で暮らせていかれぬぞ?」

 葉巻をふかしつつ、王はにやにやと笑った。すると、部屋のドアが開き出て行った側近が戻ってきた。戻ってくるなり再び王の後ろに直立不動で立った。

「外に捨ててまいりました。息をしておりませんでしたので死んだと思われます」

「ご苦労」

 王は満足そうな表情で側近の報告を聞いた。再びおいしそうに煙をふかした。

「……村長、この縁談話を進めていこうではないか。ヒロが気に入った」

 叔父と叔母はテーブルの上に頭をつけ礼を述べた。

「誠でございますか?!嬉しい限りでございます」

「すぐにでも城につれて帰りたいが……少々忙しくなりそうでな……。また後日、この村に出向こう」

「と、とんでもございません!二度もラント王様のお手間を取らせるとは…。私どもが城へ参りますから……」

「黙れ!」

 大きな声で王が叫んだ。目を見開き眉を吊り上げ、眉間にしわを寄せている。

「私が出向くと言っているのだ。……お前は素直に従えばよい」

 そういうと王が立ち上がった。すかさず、叔父と叔母も立ち上がる。私は少し遅れて立ち上がった。

「……か、かしこまりました。もう一度お聞きいたしますが……ヒロと結婚していただける……そのように考えてもよろしいのでしょうか」

 王がにごった目で私を見てきた。目を細め乾いた唇を舌で舐め、にやけている。

「そうだ。……結婚すれば能力はもちろん……その身体も……私に尽くしてもらおう」

 悪寒が走った。いやらしい目で私の身体を見てくる。王が怖い。鼻で笑う仕草を見せたあと葉巻を灰皿に押し付け、王は大きな身体をゆらしながら悠然と家を出た。王を待っていた何十人という兵士が一斉に敬礼をし、王は馬車へと乗った。軍隊とも思える兵士たちをしたがえ、王は城へと戻っていった。


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