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赤い瞳  作者: ぱくどら
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【第二部 王、訪問】〜ヒロと鏡〜

 数日間山篭りをした。村の近くにある山の中で、小屋に一人ただひたすら瞑想をした。というのも、叔父からラント王が来ると聞いた際、先読みの能力を見せるようにしておけと言われたからだった。

 ラント王は私の先読みの存在を知っている。証明してみせろと言われるのは考えなくてもわかることだった。でも、先読みは私自身いつ起こるのかわからない。どうするべきか考えていると、母さんが父さんから預かった書物の存在を思い出した。先読みをしていた父さんなら、なにか残しているのかもしれない。そう思い、棚の奥から書物を引っ張り出した。

 本を開き読み進めていくと、大半のページは私と母さんの身を心配する言葉が綴られていた。顔も見たことがない父さんだったが、すぐそこにいるようなそんな感じがした。ページをめくるたびに文字が震えていくので、父さんの容態が悪くなっていく様子が容易に想像できた。

最後のページをめくると、先読みに関してのことが書かれていた。

『…先読みはおまえの心次第で見えぬものも見えてくる。山の中で瞑想し心を落ち着かせると良いだろう。

 ただし、未来が見えるということはそれなりの覚悟も必要であるということを心得てほしい』


 翌日、私は山へと向かった。


  ◇  ◇


 そっと目を開けた。なにもない小屋で過ごして何日間か過ぎた。自分一人だけの世界だと、周りからの冷たい目線や罵倒が取り払われる。そのせいか妙に心が穏やかだった。でも、心のどこかにぽっかりと穴が空いている。

 突然すっと村のことが頭に浮かんだ。戻らなくてはいけない、そんな気がした。どういう根拠でそう思ったのかわからないが、何かが私を突き動かした。


 村の近くまで行くとなにやら騒々しいことに気がついた。普段村の人は各々の農作業に行っている時間なのに、せっせと道の掃除をしている。不審に思ったが、とりあえず叔父の家に帰ることにした。歩いている最中、何人もの村の人からひそひそと話し声が聞こえてきた。私のことなのか、ちらちらとこちらを見ている。思い切ってそちらを向くと、決まって顔を背けられた。村に帰ってきても私を快く迎えてくれる人はいない、改めて思い知らされてしまった。

 やがて叔父の家が見えてきた。家の前にシンの姿が見えた。近くに住むおばさんと話している。すると、近くにいた村の人が私の姿を見るなり叔父の家に向かい、帰ってきたぞと大きな声叫んだ。いきなりのことでびっくりしてしまったが、家のほうを見るとシンとおばさんがこちらを向いている。シンとおばさんだけではなく、近くで掃除をしていた人も私を見てきた。

 ひそひそと声がするなか、私はシンの目の前まで歩いていった。

「……ただいま」

 久しぶりに声を出した気がした。だが、なかなか返事が返ってこない。シンの顔をそっと見上げると目を潤ませ私を見つめていた。途端恥ずかしくなり、顔を背けた。

 すると突然、引き寄せられた。食べ物をまともに食べていないせいで足元がふらついていた。でも、背中に回っている腕が私をしっかりと支えてくれている。シンが私を抱き締めている、そうわかると急に胸の鼓動が高まった。

「……おかえり、ヒロ」

 シンの体が温かい。恥ずかしくてシンの顔を見上げることも、声を出すこともできない。村の人全員が私を快く迎えていなくても、シン一人のぬくもりが私の疲れた身体を癒してくれる。シンの腕の中はとても居心地良かった。

「……ちょっと、今はそんなことしてる場合じゃないのよ!」

 という声とともに、私とシンが離された。先ほどまでシンといたおばさんが私の前に立ちふさがった。

「あんた、今日ラント王がお見えになることを知ってるのかい?いついらっしゃるかわからないんだ、家に入ってさっさと準備しておくれ」

 ラント王が…今日この村に…?そんなこと全然聞いていない。シンからもらった温かさが一気に冷めてく感じさえした。

「え……今日ラント王がこの村にいらっしゃるんですか……?私そんなこと……!」

 おばさんは私の頭を強く押さえつけた。そして、顔を近づけてつぶやいた。

「……もしラント王の機嫌を損なうような真似をしたら……この村は消されちまうかもしれないんだ。ほら!さっさと行きな!」

 強く背中を押されたせいで、前に転びそうになった。すると人にぶつかった。恐る恐る見上げてみると、叔父だった。

「……ようやく帰ってきたか。赤い瞳が気のせいか前よりも濃くなっているな。ふん、まぁいい……さっさと入れ」

 叔父は私の手首を掴むと、そのまま家の中に引き入れ玄関のドアを閉めてしまった。


 家の中は近所の村の人たちで大混乱していた。みんなせかせかと掃除をしてくれているみたいだった。石を敷き詰めている廊下や、窓、家具、全てのものが綺麗に磨かれていた。叔父に手首をひっぱられ、連れて行かれた先は私の部屋だった。ドアが開けられると三人ほど女の人がいた。

「連れてきた……なるべく早く頼むよ。では……また後ほど来る」

 というと叔父は私を部屋へ残しどこかへと行ってしまった。部屋にいる三人の女の人の顔を見るとやはり村の人だった。

「さぁ急がなくては。さっさと王様を迎える準備をするよ」

 三人の行動はてきぱきとしたものだった。私がお風呂から上がると、見たこともない白いワンピースを取り出し私に着させた。鏡の前に私を座らせると、一人は髪をセットし始めもう一人は私に化粧をし始めた。私はされるがまま、鏡の前に座り続けた。

「はい、できたわ。あなたもそれなりの姿になれるのね。……いいこと、絶対に王様の機嫌を損ねる真似なんか……するんじゃないわよ」

 私の耳元でそう囁き私を睨みつけると、三人は部屋を出て行った。

 鏡に映る私。今までこんな私は見たことがない。シンに見せたらどんな反応をするだろう。一番に見せたいのに、今から会うのは…ラント王。でも、本当にラント王がこの村にやってくるのか信じられなかった。この村は特に栄えているわけでもない、むしろ貧しい村だった。時折、ラント王に貢ぐ農作物が少ないと、悩む叔父の姿を見たことがあった。そんな村になぜ直々に王がやってくるのだろう。私の能力が見たいだけなら、城に呼べばよい話ではないのだろうか。

 そんな風に考えていると、ドアが開いた。そこには綺麗に着飾った叔父と叔母が立っていた。

「……ラント王がもうすぐご到着されるわ。お出迎えするからきなさい」

 緊張が高まる。鏡を見ると、今にも泣きそうな私がいる。


 大丈夫、がんばれ私。


 深呼吸を一つし、慣れないヒールを履いた足で立ち上がった。


次話、いよいよ王が登場します。

…ここまで長かった(;´▽`)

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