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赤い瞳  作者: ぱくどら
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【第一部 二人の過去】〜シンの場合〜

 頼まれていた手伝いを終え家へ帰る道の途中、ヒロが家を飛び出していくのを見た。その後を追いかけるように村長とその夫人も家から出てきた。戻って来い、とでも言うのかと思えばヒロに対するひどい言葉だけだった。半ばあきれながらも事情を聞くため、村長たちの所へと行った。

 近づく俺に気がついたのか叫ぶのをやめ、咳払いをしている。

「……おぉシンか。今日も手伝い回りかね。いやぁ、村の人の口からはいつもお前の話ばかりだよ」

 と笑い声をあげながら村長が言った。

「本当、シン君は村の人から信頼が厚いのねぇ。もしかすると、私たちより信頼されているんじゃないかしら」

 笑いあう村長夫婦を前に、俺も愛想笑いをした。俺はこの人たちが嫌いだった。すると、突然、村長夫婦が困った表情を浮かべため息をついた。

「……シンも見ただろう、ヒロが出て行く所を。まったく……。私たちがヒロのためを思って決めた縁談の話をしたら、出て行ってしまってね。断ることもできんからヒロを説得してほしいんだが……頼めるかね」

 思わず眉間に皺が寄る。

「縁談?一体……誰とです?」

 すると、その質問を待っていましたと言わんばかりの笑顔になり村長は興奮を抑えるように答えた。

「ラント王だよ!いやぁ言ってみるものだね。王にヒロの能力の話をすると、大変興味を持たれてね。こっちから縁談を申し込んだら即了承を得たんだよ!」

 夫人も満面の笑みを浮かべている。

「今までヒロの能力とあの瞳に、私たちは散々恥をかかされてきたんですもの。ヒロも年頃だし本当にいい縁談ですわ。……もし王との縁談がうまくいけば王族との繋がりができるわね、あなた」

 目の前にいる俺の存在さえも忘れてしまったかのように二人はヒロの悪口を言い始めた。

 俺は気分が悪くなりその場を後にした。ヒロが向かった場所に心当たりがあったのでその場所に向かった。


 ヒロが村人そして村長夫婦から嫌われる理由。それは、ヒロに宿っている能力『先読み』のせいだった。いつも先読みをしているわけじゃなかったが、たまに見てはそれを俺や村人、村長たちに教えていた。未来のことが見える『先読み』。ヒロが言った通りになることで、村人たちは驚いた。が、ヒロが先読み通りになるのは言ったすぐ後だったので、それを防ぐこともできないのも事実だった。

 やがて、村人たちは次第にヒロと忌み嫌うようになっていき必ず当たるヒロの先読みを恐れるようになった。またヒロの右目の赤い瞳の輝きが、より一層村人たちを遠ざけていた。



 丘に行ってみると、ヒロがいつものように座っている。誰もいない丘で一人寂しく。呼びかけると、ゆっくりと振り返った。目に光るものがある。ヒロはまた泣いていたのだ。きっと今回の縁談のことで苦しんでいる。村長から説得しろ、なんて言われたが冗談じゃない。

 俺は、ヒロと出会ったときの話をした。するとヒロは少しだけ笑みを見せた。心から笑う笑顔じゃなくても、ヒロの気持ちが少しでも楽になるのならそれでもいい。ヒロが泣く姿は好きじゃない。

 すると、いきなりヒロが自分の瞳をどう思うかと聞いてきた。なんで今更なのだろう、俺にとってはどうでもいいことだった。だが、ヒロは違った。俺に自分の過去を知ってほしいと頼んできた。あまりに唐突なお願いだった。確かにヒロの過去、今まで何があったのか気にはなっていた。だが、俺からヒロに聞くことはしなかった。俺が聞く必要もないと思っていたし、聞いたところで俺がどうこうするというわけでもないと思ったからだ。過去に何かがあってヒロがここにいることは間違いないがその過去を聞いて今の俺とヒロの関係が崩れることはない。互いに親がいない者同士、聞いていいことと聞いてはいけないことはわかっていた。

 友達だから、とヒロは言った。

 友達。間違ってはない。ヒロにとって俺は友達なのだ。俺にとってもヒロは友達……なのか?本当はもっと……本当は……。


 ヒロは一点を見据えて淡々と語った。時折、表情が暗くなることもあったが語るのをやめることはなかった。だが、いきなり口を閉ざした。今までスムーズに話していたのに話がいきなり止まってしまった。ヒロは悲しそうな表情を浮かべている。口を開くが、なかなか言葉が出てこない。俺はヒロを気遣ったが、それでもヒロは話を続けた。

 父親のこと、母親のこと、先読みのこと……。全ての過去を話し終えたときには、ヒロは泣いていた。さっきまで笑っていたのに……また泣いている。

 村中の人から忌み嫌われ、父親の顔も知らず、母親は自分が先読みした通りに亡くなり、一人この村に身を寄せたヒロ。この村に来ても村人から忌み嫌われている。ずっとヒロは一人だった。

 だけど、今は俺がいる。

『外見が人と違うから』だからなんなのだろう。

『少し先のことが見えるから』別にいいじゃないか。

 俺も寂しかったが今は違う。ヒロがいる。ヒロがいるから寂しくない。そのことをわかってほしい。ヒロを慕う人間がここにいることを。



 ぽん、と頭を軽く叩くとヒロは大きな目をパチパチさせた。鼻と頬を赤く染めじっと俺の顔を見てくる。なんだか恥ずかしくなってしまい、草の上に仰向けに寝転んだ。

「……ヒロが全部話してくれたから、俺も昔のこと話すよ」

「え?」

「だって、ヒロだけが話して俺が話さないなんて……おかしいだろ?ヒロが泣いてまで話してくれたんだ、俺も話さなきゃ」 

 ヒロは目に溜まっていた涙を手で拭い、足を伸ばした。

「……うん。わかった」

 真っ青な空の下。どこまでも広がる空を見つめながら俺は昔のことを思い出していった。

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