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赤い瞳  作者: ぱくどら
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【第一部 二人の過去】〜ヒロの過去〜

 生まれて物心ついた時には父さんはこの世にはいなかった。母さんと二人暮らしで、生活は豊かではなかった。加えて村での母さんと私の扱いは良いものとは言えなかった。

 どうして、と母さんに尋ねたことがあった。すると、母さんは優しく私に微笑みかけ全てを話してくれた。


 父さんの一族は代々特別な能力を宿していて、村を災害や争いから守ってきた。その能力というのは、『先読み』と言われるもので悪い事があると事前に村の人に伝えていたという。このおかげで村は平和で、父さんの一族はいつしか村の長へとなっていた。が、その能力のせいか父さんの一族は男ばかりで女は一切生まれなかった。そして、時の流れとともに一族の能力継承は弱まり生まれてくる子が必ず能力を宿しているとは限らなくなった。

 そんな中、唯一能力を継承したのが父さんだった。

 父さんは幼い頃から村長を務めていて先読みを村の人たちに尽くした。そして、瞬く間に父さんは村の人から絶大な信頼を得てしばらくの間村は大変豊かだった。

 がある時から父さんは変わった。母さんとの出会いだった。母さんは故郷を飛び出し、彷徨った挙句山の中で倒れていた。そこを助けてくれたのが父さんだった。母さんはその時のことを満面の笑みで話してくれた。

『両目の瞳が赤い人で、最初見た時は驚いてしまったけれどよそ者の私を優しく招き入れてくれたのよ』と。

 父さんは家のない母さんを自分の家に招き入れ、服と食べ物を与えた。よそ者に食べ物を与えることは考えられないことだったが、父さんの手前誰も口に出すことができなかった。やがて、二人は結ばれ、子を授かった。

 二人は幸せな家庭を築けるはずだった。


 母さんが妊娠してから、父さんの能力に変化が表れた。先読みできる回数徐々に減っていったのだ。母さんが臨月に入る頃には父さんの先読み能力はほとんど消え、床に就くようになった。その頃の村は混乱状態に陥っていた。ほとんどのことを父さんの先読みに頼っていたせいで天候を読めず作物は枯れ、川は氾濫し、村は衰退していった。

 やがて、村の中で母さんに対する激しい罵声が飛び交うようになった。

『長を駄目にしてしまったのはあの女のせいだ』

『あの女さえいなければ村はこんな風にはならなかった』

 母さんはひどく落ち込んだが、そんな中でも父さんは母さんを慰めた。父さんは母さんの前では笑顔を絶やさなかったそうだ。

 もうすぐ生まれるかというある日。父さんは母さんに書物を渡した。ほとんど起き上がれない状態だったという父さんは弱々しい声で母さんに言った。

『……これは父がいたという証拠。生まれてくる子にこの書物を渡してほしい。……運命とは悲しい定めなのかもしれないが、きっと変えられる』

 最期まで笑顔だった父の赤い瞳が、最期は輝きを失い父さんはそのまま息を引き取った。その直後、母さんは産気づき私が生まれた。

 私が生まれたことにより、母さんに対する罵声はますます激しくなった。父さんの一族からは男しか生まれない。そう思われていた。が、生まれたのは女、しかも、能力を宿していないと思われる黒い瞳の赤子。つまり、父さんの一族の終わりを意味していた。そのため、私と母さんは村の人から毎日のように罵声と仕打ちを受けた。それでも母さんは私を必死に守り、育ててくれた。

 そしてある日、宿していないと思われていた先読みが開花した。



「何によって能力が出てきたんだ?」

 あぐらをかいているシンが聞いてきた。ここまでシンは黙って私の話を聞いてくれた。が、今口を出してきたのは私がなかなか話を進めないからだ。正直、これについてはあまり思い出したくない。

「……言いたくないなら別にいいよ」

 言おうか言うまいか、悩む私にシンの優しい声が温かい。

「ううん、私がシンに聞いてほしいって頼んだんだもん……。だから……言うね」

「……わかった」

 少しの間沈黙が流れる。そして、私はゆっくりと口を開いた。

「母さんが……私が先読みした通りに死んでしまったの」

「……え」

 私はひざを抱えて丸くなった。今にも泣きそうだった。母さんの顔、声が鮮明に蘇ってくる。

 自分が先読みしなければ母さんは生きていたのだろうか。

 そう何度考えただろう。しかし、考えたところで答えは見つからない。

「じゃあ……やっぱり父親の能力を継承していたってことか?」

「うん……。母さんの未来が見えて以降、私の右の瞳は赤く変化したの」

「能力が目覚めたってことか……」

「でも、父さんのように先読みができるわけじゃないの……先読みは突然頭の中に出てくるし、その場所や人物も曖昧で……。それに先読みで見えた大体の未来は、本当にすぐ後で起こるものだからわかっていても人に注意を促すことも伝える時間さえないの。こんな能力……私はいらないのに」

「……それで村を出てこの村にやってきたのか」

「……この村は母さんの……生まれ故郷だから……。それに女で能力を継承しているなんて……今までなかったことだから。村の人たちは私を恐れ……追い出すに近い形でこの村につれてきたの……」

 嗚咽が漏れる。涙が落ちる。私は生まれてくるべきじゃなかった。私が生まれたことによってたくさんの人が不幸になった。追い出されても仕方がないことだった。でも、わかっていても悲しかった。

 一人になりたい、と思っていたのではなく一人になるのが怖かったのだと、その時初めて私は気がついた。でも、現実は一人だった。誰も私のことなど見てはくれない。

「嫌なことを思い出させて……ごめんな。」

 私は首を横に振った。顔を上げることができない。

「でもさ……今は俺がいるから」

 そっとシンが私の頭をなでる。あの大きくて温かい手で。ゆっくりと顔を上げて、シンの顔を見た。優しく微笑んでいる。

「……ヒロは一人じゃないから。何でも一人で抱え込む……なんてするなよ。一人者同士仲良く……な」

 ぽん、と優しく私の頭を叩いた。シンが私に笑いかけている。いつもシンの笑顔は私の冷たくて寂しい心を温かくしてくれる。私の赤い瞳も能力も、気にせず接してくれる。笑顔を見せてくれる。ただそれだけなのに、どうしようもなく嬉しかった。

ここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございます!


次はヒロ目線ではなく、シン目線です。

少し話が往復してしまいますが、お付き合いよろしくお願いします!



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