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赤い瞳  作者: ぱくどら
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【最終部 赤い瞳】〜ヒロと女王〜

 ふっと目を覚ました。見上げた天井に見覚えがあった。……小屋だ。山篭りの際に使った小屋だ。身体の上には布団が掛けてあった。一体誰が……。そもそも私はなぜこの小屋の中にいるのだろう。

 身体を起こすと頭の後ろに痛みがあった。そのときにやっと思い出した。シンに告白されたあとに気を失ったのだ。そのあとは一体どうなった……?

 考え込んでいるうちに焦げ臭いにおいが小屋の中に漂ってきた。が、小屋の中を見渡しても燃えているものなどない。においの元をたどっていくとどうやら外から中へ流れ込んでいるらしかった。山火事でもあったのだろうか。何にしろ、早く外に出て確かめる必要がある。

 立ち上がり小屋の戸を開けようとした。が、なぜか開かない。なにかが挟まっているらしく、戸が一定以上引けない。少しだけ開く戸から外の様子を覗いた。

 すっかり暗くなっている。シンを迎えたときはまだ夕方ごろだったのに……私はどれほど眠っていたのだろう。見える限り山火事になってはいなさそうだった。火の粉も飛んでいないし、火も見えない。では一体どこから……。そのとき、ぴんと来た。


 このにおいの元は……村だ。


 先読みで見えた、家が燃え上がる光景が鮮明に思い出される。きっと眠っている間に王が村を攻めてきたのだろう。早く山を下って村に行かなければ。

 何度も強く引くがなかなか開かない。まるで私をここへ閉じ込めたみたいだ。ふと足元に血が落ちたような跡があった。まだ乾ききっていないようで、表面が光っている。血が落ちるほど、出血している人物が私を運んできたのだ。そんな人物一人しかない……。

 シンだ。

 私の服にも血がところどころついていた。きっとシンが私をここへ運んだのだ。でもどうして……。とにかくシンに会わなければいけない。そのためにも早くここから出ないと。何度も、力一杯戸を引いた。すると、ようやく戸が開いた。外の地面にも血が点々と続いている。その血のあとを追いながら山を下っていった。


 村へ近づくと、そこには見慣れない兵士たちがたくさん集まっていた。数え切れないほどの人数だ。この前見たラント兵とは違う格好をしているように思える。兵士たちは互いの怪我を手当てしているのか、なにやら包帯を巻いていた。木に隠れながら様子を見ていると、兵士に気づかれてしまった。

「……ん。そこにいる娘……もしやこの村の者か?」

「は、はい!」

 頭に包帯を巻いた兵士が私に歩み寄ってきた。

「心配するな、私はパピス女王様に使える兵士だ。パピス女王様の命令により、この村の者を守るようにと言われている。……だが、今この村に入らないほうが良い。まだ一部戦闘が続いている」

 耳を澄ますと、剣と剣がこすれあう音や、弓矢を引く音が聞こえてくる。

「……それでも村の人が無事なのか、確かめたいんです。村には入れないのでしょうか?」

 兵士は少し考えるような仕草を見せたあと、私に微笑みかけた。

「……安全とは言い切れないが、そこまで言うのなら私もついていこう。さすがに一人では行かされん」

「あ、ありがとうございます!」

 私はその兵士と一緒に村の入り口へと向かった。


 村の入り口に立つと村の惨状がわかった。家屋は壊され、瓦礫の山となっている。畑は荒らされ、作物は踏み潰されていた。あちこちに兵士と見られる人が倒れている。目を向けるのも怖かった。入り口からは見えなったが、人の叫び声や剣の擦れあう音、弓の弦の音が絶え間なく聞こえる。

「……やはりまだ村の奥のほうでは戦闘中だな。ラント兵はあらかた片付いたのだが、肝心のラント王がまだ見つからんのだ……」

 そう言うと兵士は村へと入っていった。私もそのあとをついていく。

「離れないように。戦闘が沈静化に向かっているとはいえ、危険なことには変わりはない」

 少し振り返った兵士が言った。私はうなずき、村を進んでいく。村の中央についたとき、馬に乗っている兵士がいた。だが、後ろ姿が前を歩く兵士よりも小さい気がした。すると、突然兵士がその馬より一歩下がったところで歩みを止め、敬礼をした。

「パピス女王様!この村と思われるものをつれてまいりました」

 そう言われた兵士がゆっくりと振り向く。兵士とばかり思っていたが、その人はパピス女王だった。

「ご苦労様。しかし、ここはまだ危険な場所です。早く村人たちのいる場所へ案内してあげなさい」

 顔を見る限り老女のようだったが、しっかりとした声だった。背筋を伸ばし馬に跨っている。赤いマントを身につけ、鎖帷子を身に着けている。

「あ、あの!」

 兵士が答える前に私はパピス女王に訴えた。

「む、村の人たちは無事なんでしょうか?……それと、シンという人を知りませんか?!」

 私がそう言うと、パピス女王ははっとしたような顔を浮かべた。

「……そなた名はなんと言うのです?」

「ヒロ、と申します」

「では……あなたが能力を宿しているという、ヒロという少女なのですね」

 にこやかに女王は言った。

「シンからあなたのことを頼まれているのです。無事でなによりでした」

 すると、女王は馬の方向を変え背を向けた。

「……私がシンのいる場所へ案内します。その場所に村人たちもいます。……ついてきなさい」

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