【最終部 赤い瞳】〜シンと王〜
王は俺の周りを囲っていた歩兵に対し命令を下した。
「この者はこの私が直接情報を聞き出す。さっさとあの娘を探し出せ!」
「はっ!」
敬礼をしたあと、歩兵たちはそれぞれ村の家へと散らばっていった。一人その場に残された俺は、馬に乗った王と一対一となった。だが、王の後ろでは馬に乗り重装備をした兵士たちが殺気立った目で監視している。王は馬の上から見下ろした。
「貴様は……なぜここにいる?この村の者であろう」
「ラント王様のおっしゃる通り……この村の者です。……この場所に残った理由は三つあります」
「理由が……三つだと?」
立っているのさえ辛く感じてきた。血を流しすぎたのだろう。目の前がかすんで見えてきた。
「一つは……俺がここに残ることにより……村人たちを遠くに残すため……」
それを聞いた王は後ろの兵士たちに顔を向け、合図を送った。すると、後ろで馬に乗っていた兵士二人が降り、俺に近づくと腹部を強く殴りその痛みのあまりひざまずいてしまった。そんな様子を気にとめることもなく、二人の兵士は俺に剣先を向けた。
「貴様になにがあったのか興味はないが、逃げられては困るのでな。どんな理由があるにしろ関係ない。さっさと村人たちの居場所を言え」
王は冷淡に言い放った。俺は痛みに耐えながらでも王を睨み続けた。王は無表情に俺を見下している。
「……ふ、二つ目は……俺の父を殺した……ラント王の顔を直接見るため……」
「貴様の……父だと?」
眉をしかめる表情を浮かべたあと、王は笑った。
「ははは!貴様の父など知らぬわ!私の城では何百人と処刑しておる。いちいち顔など覚えておるわけなかろう!処刑される奴は私の考えを受け入れないもの、つまり大馬鹿者だ!そんな父を持った貴様も哀れよのお!」
王は大声をあげ笑っている。唇をかみ締め、立ち上がろうとしたとき右前にいた兵士が俺の右腕めがけ思いっきり蹴りを入れた。
「ぐはぁぁぁぁぁぁ!」
頑丈な足防具をつけた足が傷口に当たり、あまりの痛さに叫んでしまった。
「……貴様の理由などどうでも良い。さっさと私の質問に答えろ」
笑うのをやめ一呼吸入れた王が、俺を睨み付ける。右腕の激痛で身体全体が震えているのが自分でもわかった。だが、それでも俺は目だけでも王を睨み続けた。
「……ぐっ……む、村人の場所を聞いて……一体どうするつもりだ!」
「ふん。貴様もしつこい奴だな。……先ほどの奴と同じことを言っておる」
「先ほどの……奴だと?」
「我々がこの村へ向かう最中にな、行く手を阻んだ元ラント兵だ。殺したと思っておったのに私の目の前に現れよった……。ぐだぐだと喚くから……心臓を射抜いたらようやく黙ったよ」
ライアの顔が浮かんだ。殺した王はなにも気にしていないようににやにやと笑っている。
「……貴様も心臓を射抜かれたくなければさっさと居場所を吐け」
後ろで、弓に矢をつがえている兵士が目に入った。左と右には剣先を向けた兵士、目の前では馬に跨る王、その王の後ろでは弓の準備をしている兵士。
そして俺自身、立つことさえ困難になっている。
「……居場所を言う前に……最後の理由……だ」
俺はゆっくりと震える右手で腰に差している短剣を掴んだ。
「……ヒロは……渡さない。死んだ両親と……ライアのため……そして……」
膝を徐々に浮かし、力の限り足を踏ん張る。そして、兵士の剣の隙間を確認した。王は一直線上にいる。
「これから生きていくヒロのため……俺は……今この場であんたを殺す!」
最後の力を振り絞り、短剣を握り締め王めがけ突進した。