【最終部 赤い瞳】〜ヒロと、シンの告白〜
突然、シンの身体が前に倒れかけた。私はとっさにシンの肩を支えた。地面を見ると、滴る血で血溜まりができていた。
「大丈夫シン?ライアさんのところに行けなくても、シンの手当てはしないと!」
私が肩を担ぎ歩こうとしたが、シンがそれを拒むように踏ん張った。
「……シン?」
シンは顔をつむかせたまま、言葉を発せず、ただ荒い呼吸だけが聞こえた。私が再びシンに声を掛けようとすると、突然急に右目に痛みと熱を感じた。思わず目を強く閉じた。
赤い世界。赤い霧がかかっているような場所に私がいる。この場所に見覚えがある。
……村だ。
でも家のほとんどが破壊されている。作物はなぎ倒され、家からは炎が上がっていた。
霧のせいで姿が見えないが、剣と剣が擦れあう音矢が射られる音が四方八方から聞こえてくる。
そんな中少しだけ歩いていくと、人が大勢集まっていた。みんな輪になり、なにかを見ているようだ。
人の隙間からそっとのぞいてみた。中に人が倒れている。どこか……見覚えのある人影。あれは……。
目を見開いた。一瞬のことだったようで、シンは相変わらずうつむいていた。
「……俺はヒロを守るって約束した」
シンは突然口を開いた。
「……え」
「……王との縁談は俺が必ず取り消すから……その間ヒロは安全な場所にいてほしいんだ」
「王との縁談は……もういいの。私が王と結婚することで、王も村を攻めることを考え直してくれるかもしれないし。それよりも、早く手当てを……」
「それじゃだめなんだ!」
シンが突然大声を出した。大声を出したと同時に上げた顔はどこか悲しそうだった。するとシンは私の腕を解き、私の正面に移動した。腕に巻かれた包帯からは血が滴り落ちている。
「……俺の手当てはしなくてもいいから」
シンの言葉とは裏腹に、傷口からの出血はひどい。足も痛みのせいか、細かく震えている。なによりも、シンの顔色が悪い。
「……どうして?そんなにひどい怪我をしているのに……」
ふとそこで先読みした光景が蘇った。崩壊した村、倒れている人。そして、なぜか焦った様子のシン。それらを考えているうちにある考えが頭をよぎった。
「まさか……今から王が攻めてくるの?」
その発言にシンは顔を背けた。答えたくない様子だった。
「そうなの?……だからそんな身体なのに無理して村に帰ってきたんだ。だったら……早く村の人たちに伝えないと!」
私が村の人たちに伝えるべく、シンの横を走り抜こうとした。が、すれ違いざまにシンが私の腕を掴んだ。
「……だめだ!ヒロは村から早く離れなきゃいけないんだ」
「どうして!さっきからシンおかしいよ!はっきり言ってもらわないと、私……!」
私が言い切らないうちに、シンが掴んだ腕を力いっぱい引き寄せた。勢いそのままに私はシンに抱きしめられた。
「俺を信じてくれ。……絶対にヒロを守るから」
前にシンに抱きしめられたことを思い出した。あのときはとても居心地がよかった。
でも今は……シンの身体が冷たい。血のようなにおいもする。
「……シンやっぱりおかしいよ。こんなに血だらけなのに、どうしてそこまで私にこだわるの?」
シンは震える手で私の頭をぽん、と軽く叩いた。
「……そんなこともわからないのか。今までずっと一緒にいたのに……」
「……わからないよ」
すると、シンの顔が私の耳元にゆっくりと近づいてくる。
「ヒロが好きだから。……これ以上ヒロを不幸にしたくない」
と、シンが優しい声で囁いた。一瞬にして私の頭の中が真っ白になり、シンの言葉によって時間が止まってしまったかのような感覚になった。
シンは続けて囁いた。
「……ごめんな」
さっきよりも小声で、かすれたような声だった。その言葉を聞いた直後、頭の後ろに殴られたような痛みが走った。その痛みと共に、私の意識は薄れていく。薄れゆく意識の中、一生シンに会えないような、そんな悪い予感がした。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
今更ながら、登場人物の描写を最初に書かなかったことを後悔しています…。
ど素人の作者ですが…引き続き『赤い瞳』をよろしくお願い致します。